安どと不満の声 英語民間試験延期 教育現場から

安どと不満の声 英語民間試験延期 教育現場から
英語の民間試験が延期されたことについて教育現場からは安どの声と不満の声の両方が聞かれました。

高校校長「民間試験活用にそもそも無理があった」

東京 練馬区にある私立武蔵高校の杉山剛士校長は「いまさら延期することで生まれる混乱もあるとは思うが、教育現場では都内の進学校ですら不安や疑問が広がっていた。保護者会も質問の嵐ですでに大混乱の序章が始まっていた中で延期されたことは現場として評価したい」と話しました。

そのうえで「英語の技能を高めようということに異論はないが、50万人の受験生が受ける国家的なテストに民間試験を活用することにそもそも無理があった。地域格差や経済格差という根源的な課題が解決されないまま実施ありきで進んできたことが大きな問題だった」と指摘しました。

専門家「民間試験は入試と別にすべき」

日本テスト学会の理事を務める東北大学大学院教育学研究科の柴山直教授は「学術的な裏付けがないまま制度設計が進められ、専門家からは初期の段階から疑問視する声が上がっていた。実施するともっと大きな混乱が起きていたと思うので、賢明な判断が下されよかったと思う」と話していました。

そのうえで、「英語の民間試験は質の保証などの点で大学入試とは全くレベルが異なるので、延期ではなく中止し、入試とは別に実施するべきだと思う。大学入学共通テストへの記述式問題の導入についても公平性の担保の点で合理的ではなく、中止すべきだと思う」と話していました。

地方の学習塾「都会の受験生と差が出ていた」

三重県南部の尾鷲市で学習塾を経営する仲宗高さんは「この地域は試験会場まで2時間半かかる場合もあり、悩んでいた生徒もいたので延期の決定はいいことだと思う」と話しました。

尾鷲市内の受験生にとっては英語の民間試験の試験会場が津市や和歌山県の新宮市など遠方になる場合もあり、対応に悩んでいた教え子もいたということです。

仲さんは「2時間半以上かけて受験に行くとなると、宿泊費なども必要になり、何度も受けるのは現実的でない。試しに受けるなどの機会も都会の受験生と差が出ていたはず」と地方の受験生にとっての問題点を指摘しました。

そのうえで「すべての民間試験を学校で受けられるような仕組みを整えないと、都会の受験生と同じように受験できるようにはならない」と話していました。

各地説明会でも懸念の声

文部科学省は民間試験への理解を求めて、各地で説明会を開きましたが、教育現場からは試験を懸念する声が相次いでいました。

10月30日、岡山県で開かれた説明会には100人を超える高校教員が集まり、文部科学省の担当者が日本の高校生は英語を話す力や書く力に課題があるなど、民間試験を導入する理由を述べました。

しかし会場の教員から、「経済的に困窮している家庭の生徒にはどのように対応すればよいのか」や、「試験会場は十分に確保され公平な条件で受けられるのか?」といった質問が出されると、担当者は「持ち帰って検討します」と繰り返すばかりで明言を避けました。

さらに萩生田大臣が、民放のBS番組で「自分の身の丈に合わせて頑張ってもらえば」などと述べたことについても、私立高校で進路指導をしている男性教員は「十分な情報が無く生徒たちは不安を抱えている。国は十分な説明を果たすとともに地方でも公平に受験できる環境を整えるべきだ。これが大臣の考える地方の子どもたちの身の丈なのかと疑ってしまう」と憤りをあらわにしていました。

大学教授らのグループ 共通テスト実施も延期を

大学教授らのグループが文部科学省で会見し、英語の民間試験だけでなく、来年度から始まる大学入学共通テストについても、延期するよう求める声明を出しました。

声明では大学入学共通テストで行われる国語や数学の記述式の問題も、採点の公平さなどに課題が多いと指摘し、共通テストの実施も延期すべきだとしています。

グループの代表で中京大学の大内裕和教授は「英語の民間試験が延期されたことはよかったが、国語や数学の記述式の問題も入試の公平性や公正性が保つことが難しい」と話していました。

また英語教育に詳しい東京大学の阿部公彦教授は「国が大学入試の英語を民間業者に丸投げしたのが混乱の根源だと思う。これからは閉ざされた会議でなく、専門家を含めいろんな知見を参考にして政策を精査してほしい」と訴えていました。

街の人たちは

英語の民間試験の実施が延期されたことについて、都内で話を聞きました。

去年、娘が大学受験をしたという59歳の母親は「受験生は動揺すると思うし、気の毒です。子どものことを本当に考えていたら、方針がころころ変わることはなかったと思う。最初から方針をきちんと決めて取り組んでほしかった」と話していました。

また19歳の娘は「塾などで対策のために予想問題を解いて準備をしていたと思うので、受験生はとても困ると思うし、軽く方針を変えないでほしい。そもそも民間の試験を導入する必要性があったのか、きちんと考えてほしい」と話していました。

かつて地方から上京して大学を受験したという60代の女性は「精神的に大事な時期に若い人たちに負担を強いて振り回し許せない。民間の試験は条件も違うし大事な大学入試の結果がそれで左右されるのはおかしいと思う。延期ではなく、制度自体を見直したほうがいいと思う」と話していました。

ネット上でも戸惑いや憤り

新たな大学入試に導入され、来年4月に始まる予定だった英語の民間試験の実施が延期されることについて、ネット上では戸惑いや憤りの声が相次いでいます。

ツイッター上には受験生とみられる人から「中途半端な時期に方向変えられると受験に不安しかない。頼むから最低でも2年前から方向性決定してそれなりに環境整えてくれ」とか、「こっちは塾で金払って勉強してたんですよ。予行練習として英検も何度か受けてるし。ほんとにふざけんなよ。あと絶対、予約金返せよな」など、戸惑いや憤りの投稿が相次いでいます。

また教育関係者からは「民間試験見送りになって喜んでる人は対策してこなかった人だけ。生徒たちの時間と金と労力を返してくれ」という声があった一方、「せっかく準備したのにという気持ちはわかるものの、英検やGTECの勉強は受験英語にプラスになる。冷静に捉えて勉強に集中して欲しい」と、落ち着いて対応するよう受験生に呼びかける意見もありました。

このほか、「制度が確定すれば推進すればいい。受験英語と実用英語をまとめて勉強できるなんて最高じゃん」など、民間試験の導入自体を評価する声もあります。

実施予定の民間事業者は

実施予定だった民間事業者の「ベネッセ」は「受験生の皆様が安心して受験にのぞむことができるよう、2020年度の開始に向けて準備を進めてきたので、非常に残念に思っております」というコメントを出しました。

また実施予定だった民間事業者の「日本英語検定協会」は「これから文部科学省に事情説明を受けて、そのうえで、どう対応するか協議します。対象となる受験生に戸惑いがないよう、文部科学省が対応することを願うばかりです」とコメントしています。