“避難所が満員に” 東京23区などの自治体3分の1で

“避難所が満員に” 東京23区などの自治体3分の1で
人口が集中する東京で、「避難所不足」という新たな課題です。台風19号が接近した際、東京23区と氾濫が発生した多摩川の流域の自治体のうち3分の1にあたる13の自治体で、避難所が満員になるなどして住民が入りきらず、別の避難所に移動させる対応を取っていたことがわかりました。
NHKは、東京23区と氾濫した多摩川沿いの市、合わせて37の自治体に台風19号が接近した際の避難所の状況を取材しました。

その結果、避難所に避難した人の数は合わせて17万6500人余りに上ったことがわかり、専門家などによりますと、都内の避難者の数としては、この数十年で最も多かったとみられます。

こうした中、35%にあたる13の自治体では、避難所が満員になったり駐車場が満車になったりして住民が入りきらない状況となり、別の避難所に移動させる対応を取っていたことがわかりました。

こうした対応を取ったのは、世田谷区と大田区、葛飾区、八王子市、府中市、調布市、狛江市、青梅市、羽村市、昭島市、多摩市、稲城市、それに福生市です。

このほかにも、追加で避難所を開設したり、避難所のスペースを急きょ拡大したりした自治体も多く、多くの住民が避難したことが結果的に混乱につながっていました。

東京 府中 避難所不足 16か所で満員

多摩川の氾濫で市のおよそ3分の1が浸水すると想定されている東京 府中市は台風19号で開設した37の避難所のうち16か所が満員となり避難所不足が課題として浮き彫りになりました。

府中市は台風19号が接近した今月12日、浸水が想定されるエリアに住むおよそ9万5000人に避難勧告を出し、浸水が想定されるエリアの外に18か所の避難所を順次、開設しました。

ところが、予想以上に多くの市民が集まり、11か所が満員となって受け入れができなくなったということです。

このため市の施設13か所を急きょ、避難所としたほか、都立の学校や、地元の商工会議所、それに府中刑務所など合わせて37か所に増やして市民には公式のSNSなどで案内する対応をとりました。

このうち府中刑務所は今月12日、府中市が避難勧告を出したおよそ2時間後の午後7時前、市から避難所として施設を開放するよう要請を受けました。

府中刑務所は体育館に畳や毛布を用意して1時間ほど後の午後8時に避難所を開設し、およそ20人が一晩、避難したということです。

市によりますと12日から13日の朝にかけておよそ8280人が避難しましたが、37か所のうち16か所は満員となって、避難所に入れず、自宅に戻った人もいたということです。

府中市が災害で避難勧告を出したのも、避難所を開設したのも初めてで、市のおよそ3分の1が浸水すると想定される中、このエリアの外で現在、確保している分では避難所が足りないという事態が浮き彫りになりました。

市では今後、民間にもよびかけて市内で避難所の確保を進めることにしています。

府中市防災危機管理課の関根滋課長は「逃げる場所が遠くなると厳しくなると思うのでまずは市内で民間にもお願いして避難所を確保していきたい」と話しています。

避難した人は

満員になった避難所で過ごした男性は「避難所の小学校に午後4時ごろに着くともういっぱいでびっくりしました。『余裕があれば入ってもいいです』と市の担当者に言われ、通路にようやく横になれるくらいのスペースを確保して一晩、過ごしました。あとから来た人は断られていました。もっと避難所を増やしてほしいです」と話していました。

専門家「避難トリアージも」

住民の避難に詳しい防災が専門の静岡大学の牛山素行教授は、「近年の災害と比べても避難者の数は相当多く、多くの人が積極的に避難したことを表している」と指摘しました。

避難者が多かったことについて台風15号による千葉県などの被害で災害への関心が高まっていたことや、「計画運休」が実施されたこと、休日だったために出勤や通学を気にする必要がなかったことなど、複数の要因が重なったためではないかと分析しています。

避難所の移動を迫られるケースが相次いだことについては、「人口の多い大都市では、避難所で住民全員を受け入れるのが現実的に難しいことが浮き彫りになった。自治体などは本当に避難が必要な人は誰かを事前に考えておく『避難トリアージ』を実施して一人一人の避難のしかたを丁寧に考えていく必要がある」と指摘していました。

一方、東京の住民はどうすればいいのか。

牛山教授は「できるだけ自分で避難先を確保しておくこと」が大切だとしています。

川が氾濫しても浸水しない親戚や友人・知人の家に避難できるようふだんから頼んでおくほか、マンションに住んでいる場合は同じ建物の上の階に避難できるよう、日頃から相談しておくことも有効だといいます。

さらに、周囲が浸水しても、水が引くまでの数日間は過ごせるように、水や食べ物、簡易トイレなどの備蓄をしておくことも重要だということです。

深刻な事態のおそれも

東京の避難所不足は河川の堤防の決壊など今回より大きな水害が起きるとさらに深刻になるおそれがあります。

多摩川沿いにあり、今回の台風19号でおよそ1万人が避難した大田区。満員になった避難所もあり、別の場所への移動を迫られる住民が出ました。今回、大田区では多摩川の氾濫は起きませんでしたが、堤防が決壊して氾濫する最大規模の想定では区内の広い範囲が浸水し、50万人余りが被災するおそれがあります。

多くの避難所も浸水すると想定されるため自治体の避難所の収容人数は5万人分ほどしかなく、さらに深刻な避難所不足が予想されるということです。

「江東5区」はさらに深刻

荒川が氾濫した場合に、大規模な浸水が予想される江戸川区と江東区、葛飾区、墨田区、足立区の「江東5区」ではさらに深刻です。

「江東5区」には、およそ250万人の住民がいますが、国の試算では自治体の避難所の収容人数はわずか20万人分しかありません。このため93万人はマンションの上の階などでしのぐ必要があり、137万人は自治体の外へ「広域避難」をする必要があるとしています。

しかし、それぞれの区の、自治体の外の避難所確保は十分に進んでおらず、住民に対して、浸水のおそれがない親戚や知人の家への避難やホテルでの宿泊などを呼びかけているのが現状です。

市外に避難所確保の自治体も

一方、首都圏の自治体では、市の外に避難所を確保するなどして大きな混乱なく1万人近い人の避難を進めたところもありました。

利根川の両岸に位置する埼玉県加須市は、市内のほとんどの地域で浸水が想定されていて、台風19号の豪雨でも利根川の水位が上昇し、広い範囲で浸水するおそれがありました。

この加須市が行ったのが「広域避難」です。

▽市内の浸水が想定される地域から離れた避難所に加え、▽栃木や茨城、群馬など市の外の15の避難所に合わせて8500人が避難しました。

中には、16キロ離れた避難所に避難した住民もいたということで、自力での避難が難しい高齢者などおよそ500人は、市が手配したバスで避難所に送りました。

なぜ、住んでいる地域から遠く離れた避難所への避難ができたのか。

それは、市内の避難所だけでは定員が不足するため事前に避難所や移動手段を確保していたためです。

隣接する栃木や茨城、群馬の4つの市と町に避難所を提供してもらうよう協定を結んでいだほか、遠くの避難所へ移動できるようバス会社とも協定を結んでいました。

さらに、ハザードマップの説明会を各地区で開いたり、年に1回、大規模な広域避難の訓練を行ったりして、住民への周知も徹底したといいます。

一方、今回は、市内の橋が渋滞するなどの課題も残り、今後、時間に余裕をもった避難の方法を検討することにしています。

加須市危機管理防災課の今村伊知朗課長は「事前にほかの自治体と協定を結んで協力を得られたから、今回の広域避難に結び付いた。今後も、住民の間で『少しでも早く避難する』という意識をさらに高めていきたい」と話していました。