中国が軍事利用?東南アジア巨大開発

中国が軍事利用?東南アジア巨大開発
中国のねらいはいったいどこにあるのでしょうか。東南アジアでいま、中国企業による巨大開発計画が相次いで進められようとしています。共通するのは「一帯一路」を掲げ、戦略的に重要とみられる地域に数十万人を呼び込む新たな都市を開発するという点です。空港や港なども新たに建設中でアメリカからは、軍事利用につながるのではと懸念する声も上がっています。(アジア総局長 藤下超・ハノイ支局長 道下航)

中国がカンボジアに軍事基地?

ことし8月、バンコクを訪れていたアメリカのポンペイオ国務長官の記者会見で私たちは次の発言に注目しました。
「カンボジアは“国内に中国軍施設の建設を許可した”との報道を否定した。アメリカはカンボジアが主権を守ったことを歓迎する」

この発言の10日前、アメリカの有力紙は「カンボジア南部にある海軍基地を中国軍が利用できるよう両国が秘密裏に合意した」と報じました。

カンボジアのフン・セン首相は即座にこれを否定しています。にもかかわらずポンペイオ長官は、聞かれてもいないのにみずからこの問題に触れたのです。
南シナ海で軍事拠点化を進める中国が、東南アジアの大陸部でも軍事拠点を築くのではないかとアメリカが強く警戒していることの現れだと感じました。

さらに2か月余り後の今月(10月)24日、今度はペンス副大統領が次のように述べ、カンボジアにくぎを刺しました。
「中国は“一帯一路“を名目にして世界中の港に足場をつくろうとしている。表向きは商業目的だが、いつか目的は軍事に変わる可能性がある」

中国民間企業が巨大開発

東南アジアのうち、ベトナム、タイ、ミャンマー、カンボジア、ラオスの5か国がある大陸部はインドと中国の間にあるため「インドシナ半島」と呼ばれています。

この地域でいま、中国政府の支援による高速鉄道などのインフラ開発とともに、中国企業が主体の巨大開発プロジェクトが相次いで進められようとしています。
なかでもその規模の大きさが際立っているのが、地図に示した3つの開発で、日本円にして数千億円から1兆円を超える額の投資が計画されています。

こうした中国企業による巨大開発の展示や投資家への説明会があると聞き、ことし9月、中国南部の南寧で開かれた「中国ASEAN博覧会」を訪れました。
会場のあちこちには「一帯一路」の文字。中国企業が政府と一体となって東南アジアへの進出に力を入れている様子がわかります。

ひときわ大きなスペースを使って展示されていたのがカンボジア南部の「ダラサコール開発」です。
90キロの海岸線を含む360平方キロメートル(シンガポールのおよそ半分の面積)の土地を中国企業が99年にわたって借り上げ、ビーチリゾートや貿易・金融センターとして開発します。

港のほか、大型旅客機が発着できる国際空港も整備する計画です。ただ、開発が行われるコッコン州は長らくポル・ポト派が支配していたカンボジアの中でも辺境と言ってもよい地域です。

はたして空港まで建設してリゾート開発するだけの将来性があるのか。実際に現場を訪れてみることにしました。

現場では空港建設が進んでいた

カンボジアの首都プノンペンから南西に200キロ余り。見渡すかぎりのジャングルのほか、時折、民家や小さな商店があるだけですれ違う車もほとんどありません。その先に空港の建設現場はありました。

美しい海に面した一帯には、ジャングルが刈り込まれ赤土がむき出しになった土地が広がっていました。ゲートには中国語で「カンボジア・ダラサコール国際空港プロジェクト」と書かれています。

工程表を見ると設計も施工も中国企業によるものです。滑走路の長さは3200メートル、工事の完了は来年の5月末だということです。「欧米と直行便でつなぎ、ビーチリゾートに観光客を呼び込む」とも書かれています。
滑走路やターミナルビルなど空港の施設が描かれた完成予想図もありましたが、出入りする車も人影もほとんど見当たらず、本格的な建設が始まっているという様子は感じられません。今後1年足らずでほんとうに完成するのだろうかというのが正直な感想でした。
空港の建設現場から20分ほど離れた場所では、ホテルのような建物の建設も進められていました。

ジャングルしかないような土地で進む中国企業による巨大開発。地元の人はどう思っているのか聞きたいと思いましたが、そもそも住民を見つけることさえできませんでした。

この地域の開発をめぐっては去年、香港メディアが軍の利用が疑われる港の建設も進められていると報道。アメリカのペンス副大統領がフン・セン首相に書簡を送り、懸念を伝えた経緯があります。

開発企業は取材拒否

中国による軍事利用の可能性はないのか。南寧の「中国ASEAN博覧会」の会場で担当者にインタビューを申し入れましたが、断られました。取材拒否の理由は明らかにしてもらえませんでした。
会場で公開されている展示の撮影さえ遮られ、関係者が外国の報道機関に対して敏感になっている様子がうかがえました。

戦略的に重要な地域に開発が集中

中国による巨大開発は、いずれも戦略的に重要と見られる場所に位置しています。
軍事利用の疑念を招いたカンボジアの「ダラサコール開発」はタイ湾に面した海岸地帯、中国が軍事拠点化を進める南シナ海とは目と鼻の先で行われています。

ミャンマーのタイとの国境に近い地域に位置する「シュエコッコ開発」はベトナムからラオス、タイ、ミャンマーを通ってインド洋に抜けるインドシナの大動脈「東西経済回廊」の途中にあります。

開発会社のホームページなどによりますと120平方キロメートルを70年間借り上げ、150億ドル(日本円で1兆6000億円余り)かけて新たな都市として開発します。大きなターミナルビルを備えた空港も建設する計画だということです。
ラオスの「シーパンドン開発」は中国からラオス、カンボジアを通ってタイ湾に抜けるルートの途中、カンボジアとの国境地帯にあります。博覧会での投資家への説明によりますと、メコン川に面した土地に世界各地から観光客が訪れる人口50万の新たな都市をつくるとしています。

プロジェクトによって進捗状況は違い計画どおりに進むのか疑問視する声もありますが、いずれの開発も地元政府が全面的に協力する姿勢を示しています。

東南アジアの中でも開発が遅れている3か国にとって、巨額の中国マネーによる開発提案には抗しがたい魅力があるのです。

“中国化”するインドシナ

中国の影響力が年々強まるこの地域の将来を予感させる場所があります。カンボジア南部の都市シアヌークビルです。

シアヌークビルはカンボジア随一のビーチリゾートで、欧米人などにも人気があった観光地でした。しかし、ここ数年で街の様子はがらりと変わりました。中国系のカジノやホテルなどが建設され、まるで中国本土の地方都市のようです。

中国の巨大経済圏構想「一帯一路」が打ち出されて以降、中国から観光客や新たな投資先を求める投資家が大勢訪れるようになり、いまや住民の3割が中国人という統計もあります。

中国の進出に住民からは反発も

中国マネーによる建設ラッシュで、資材を販売している地元の会社では売り上げが3年で8倍ほどになったといいます。資材会社の男性は「中国はカンボジアとこの国に住む人たちに豊かになるチャンスをくれました。中国の投資が続くことを期待しています」と話していました。
一方、あまりに急速な開発に反発の声もあがっています。建設ラッシュのさなかのことし6月、悲劇が起きました。中国企業が建設していたビルが倒壊しカンボジア人の建設作業員など28人が死亡。地元政府の警告を無視し、許可を得ないまま建設を続けていたということです。

この事故で建設作業員だった夫をなくしたコム・サー・コンさん。中国企業への怒りをあらわにしました。
「中国企業が考えているのは利益だけ。違法な建設を続けて地元の人の安全は考えなかったのです」
中国企業による投資は、土地価格の急激な高騰や中国人による犯罪、それにゴミの不法投棄など社会問題ももたらしています。

事故のあとシアヌークビルでは、中国企業の施設を住民が襲撃する事件も起きました。反中感情の高まりを受けて、カンボジア政府は犯罪の取締まり強化や倒壊事故を受けた建設管理の厳格化など、対策を打ち出しています。

ただ、外国投資の7割を占める中国からの投資は経済成長を維持するうえで欠かせません。反中感情にも配慮しながら、中国マネーによる開発そのものはさらに推し進める姿勢です。

巨大開発の先に何が?

この原稿を書いているさなか、中国政府がカンボジア軍の能力向上を支援するため、日本円にして100億円近い援助を行うというニュースが伝えられました。カンボジアへの中国の影響力は、軍事面でも年々強まっています。

インドシナ半島で中国企業によって進められている巨大開発のインフラが、将来、中国軍に利用されるのではないかという懸念を裏付ける証拠はありません。ただ、建設される港や空港といった施設が簡単に軍事転用できることも確かです。

東南アジアで経済面だけでなく政治・安全保障面でも影響力を強める中国が、こうした巨大開発の先に何を見据えているのか。私たちは、引き続き取材を続けていきたいと思います。
アジア総局長
藤下超
ハノイ支局長
道下航