逃げ恥、飛び恥、赤っ恥~飛行機に乗るのは恥ずかしい?

逃げ恥、飛び恥、赤っ恥~飛行機に乗るのは恥ずかしい?
“飛び恥”ということばを聞いたことがありますか?恋ダンスで話題となった、あのドラマの話ではありません。

飛ぶといえば、飛行機。「飛行機に乗るのが恥ずかしい」という意味です。これが航空業界を揺るがしかねない事態に発展しています。(経済部記者 加藤ニール)

電車で移動できませんか?

KLMオランダ航空がことし6月に公表した企業CMが航空関係者の間に衝撃を与えました。

“いつも直接、顔を合わせて話しをすることは必要ですか?”
“飛行機の代わりに電車で移動することはできませんか?”
出張はせずにテレビ電話会議で済ませたり、鉄道の利用を促したり。飛行機を使わないよう呼びかける内容です。
KLMは、いよいよ航空会社の看板を下ろすつもりなのか!?

KLMがこうした呼びかけを行った背景にあるのが、ヨーロッパで広がる”飛び恥”です。

スウェーデン発 “飛び恥”って何?

“飛び恥”とは何か。

このことばが生まれたきっかけとなったのは、温暖化対策を訴えるスウェーデンの高校生、グレタ・トゥーンベリさん(16)。
毎週金曜日に行う環境問題を訴える運動は世界に広がり、先月、国連の温暖化対策サミットで行った演説でも注目を集めました。

彼女がこだわるのは、移動手段。
温室効果ガスを多く排出する飛行機はなるべく使いません。
ローマ法王に拝謁した際はバチカンまで鉄道で移動。ニューヨークで開かれた国連の温暖化対策サミットに参加する際も、ヨットで大西洋を渡りました。
飛行機は、確かに鉄道に比べて多くの温室効果ガスを排出します。国土交通省の試算では、2017年度の時点で、飛行機で1キロ移動する際に排出される二酸化炭素は、乗客1人当たり96グラム。
鉄道の19グラムと比べると5倍ほどです。
世界の航空会社全体で排出する二酸化炭素の量は、すべての二酸化炭素の排出量の2%を占めると言われています。

こうしたことからグレタさんの運動は若者を中心に共感され、ヨーロッパでは飛行機の利用を避けて鉄道を選ぶ”飛び恥”が広がっているのです。

航空会社なのに鉄道利用をおすすめ?

対応を迫られるのが航空会社です。
創業100周年を記念して、今月来日したKLMのトップに“飛び恥”への対応を聞くことができました。
日本に駐在経験もあるピーター・エルバース社長は、“弱肉強食”という日本語を交えて危機感をあらわにしました。
「大企業は、未来の世代のことを第1に考えて飛ぶことの責任を果たす必要がある。私たちは過去8年間で、乗客1人当たり17%の二酸化炭素を削減した。でも十分ではない。航空業界はまさに“弱肉強食”の世界で、常に責任を果たし続けないと生き残れない」(KLMオランダ航空 ピーター・エルバース社長)
何度も強調したのは“飛ぶことの責任”でした。
これを果たさないと老舗の大手エアラインと言えど、利用者離れが進み、弱肉強食の業界では生き残れないというのです。

そのうえで今後、500キロ以下の短距離路線については、鉄道などに置き換えることを検討していると明らかにしました。

500キロと言えば、東京ー大阪間と同じくらいの距離。
実際に、来年3月にはベルギーに本社を置く鉄道会社と連携して、週5便運航するアムステルダムとブリュッセルを結ぶ路線で1便減らします。
この路線を使って乗り継ぐ人には、鉄道を利用するよう促します。

利用者は、飛行機の乗り継ぎと同様、KLMの窓口で鉄道のチケットを買うことができます。
荷物も飛行機から鉄道に移し替えてくれるなどして、負担をかけないよう対応するとしています。
今後、ヨーロッパのほかの鉄道会社やバス会社にも働きかけて、路線の見直しを進める考えです。

食用油をジェット燃料に

二酸化炭素の排出を減らすために飛行機の燃料の見直しも進めています。

2022年からヨーロッパと日本を結ぶ路線などで、使用済みの食用の植物油からつくるバイオ燃料の利用を拡大します。
もちろん、バイオ燃料も燃やせば二酸化炭素が出ます。
しかし、食用油の原料の植物は、育てる過程で二酸化炭素を吸収。このため二酸化炭素の排出量は、計算上は相殺されてゼロになるとされています。
さらに2040年以降の実用化を目指し、燃費のよい新型の旅客機の開発も進めるとしています。

いくら「環境への取り組みが企業に求められる」といっても、航空会社がみずから鉄道の活用を呼びかけるのは極端ではないか。そんな質問にKLMのトップは企業の存続には不可欠だと強調しました。
「経営者としてトップダウンの判断には、環境への規制や環境意識の高まりがある。一方で、ボトムアップで環境対応を求める声もある。若者は就職先を選ぶにあたって、収入と同じくらいサステナビリティー(持続可能な社会)を重視する。人材の獲得が難しくなっている中にあっても、環境への取り組み強化を公表したあと、採用の機会は増えた。持続的な企業であるためにも、飛ぶことの責任を果たす必要がある」(ピーター・エルバース社長)

飛び恥 日本では?

この“飛び恥”を国内のエアラインは、どう受け止めているのか。日本航空と全日空の大手2社の担当者に聞きました。

ヨーロッパの“飛び恥”の動向に注目はしているものの、日本では広がりは見られないといいます。
両社は、ヨーロッパにも乗り入れていますが、さすがに船でインド洋を横断したり、ユーラシア大陸の移動をシベリア鉄道で代替するのは難しい。島国の日本にとって、“飛び恥”は現実的ではないという見方です。

国内については、10年ほど前からJR東海が温暖化対策として、飛行機ではなく新幹線の利用を呼びかける“エコ出張”のキャンペーンを展開していますが、今でも重視されるのは到着までの時間や料金。
東京ー大阪間では新幹線利用が多いものの、東京ー福岡間では、飛行機を選ぶ客が多いといいます。
ただ、環境への対応は経営課題としての重要性が高まっています。要因の1つは、規制強化の動き。
航空機に関するルールを定めるICAO=国際民間航空機関は、2021年以降、国際線の航空機で二酸化炭素の排出量の規制を設けます。2020年の二酸化炭素の排出量を基準として、将来にわたってこれを超えないよう求める内容です。

日本の航空会社も対象です。「観光立国」を掲げて、2030年には外国人観光者6000万人を目指す日本にとって、達成は簡単な話ではありません。
このため両社が取り組むのは、バイオ燃料と燃費のよい新型機の採用です。

日本航空は先月、エアバス350という最新の旅客機を導入。従来の同型機と比べ燃費は20%の改善となります。また全日空は、ミドリムシからつくるバイオ燃料の活用を目指しています。

環境リスクにどう対応

国連が定めたSDGs=「持続可能な開発目標」の達成に向けて、国内でも語られることが多くなった環境対応。
ヨーロッパのエアラインのトップを取材して感じたのは、環境問題は対応を誤れば、企業の存続を脅かすリスクだという強い危機感です。

“飛び恥”はやや極端かもしれませんが、今後、国際的な規制が強まり、海外も含めて利用者の目が厳しくなることが予想されます。

環境対応のリスクに対して、どうビジネスモデルを見直していくのか、企業はますます問われることになります。
経済部記者
加藤ニール
平成22年入局
静岡局、大阪局をへて
現在、国土交通省担当