市民のアイデアで防災を変える

市民のアイデアで防災を変える
台風19号は河川の氾濫をはじめ各地に甚大な被害をもたらしました。想定を超える災害にどう備えればよいのか。
私たちは防災インフラの整備や避難の在り方など今回浮かび上がった課題に向き合い、改善に向けて動き出す必要があります。
こうした中、市民のアイデアを防災に取り入れようという取り組みが、いま注目されています。今回は、9月に東京で開催された「防災アイデアソン」というイベントで披露されたさまざまなアイデアをご紹介します。(経済部記者 菅澤佳子)

防災アイデア集まれ!

イベントを企画したのは、20代と30代の女性を中心に防災の啓発活動に取り組む一般社団法人「防災ガール」。想定を超える災害が相次ぐ中、地域の事情をよく知る住民や企業のアイデアを防災に生かせないかと考えました。
これに東北大学災害科学国際研究所や仙台市、それに経済産業省などが賛同。9月29日の日曜日、東京 千代田区にある大手IT企業ヤフーのオフィスを会場に「防災アイデアソン」が開かれました。
「防災ガール」の代表、田中美咲さんは、今回のイベントのねらいについて、次のように述べました。
「防災のプロフェッショナルはたくさんいますが、想定外の災害に備えるためには新しい発想を生み出す必要があると考えました。防災グッズを用意したり、避難場所を確認したりといった個人の備えを促すだけでは、限界があります。地域のことをよく知る住民や企業のアイデアを生かして社会全体の連携を強化するための新しい仕組み作りにつなげたいと思っています」
イベントには全国からおよそ60人が参加。食品開発の関係者や消防のレスキュー隊員、それに企業のエンジニアや新規事業の担当者など職種もさまざまです。
高校生の姿もありました。参加者たちが午前中にまず取り組んだのは、防災につながるアイデアをA3の用紙に書き込む作業です。
「おいしい非常食のレストランを作りたい」
「デザインの力で防災情報を見やすくしたい」
「おしゃれな防災グッズを作りたい」
こうしたさまざまなアイデアをイラストなどを交えて表現。その後、アイデアが書かれた紙を持ち寄って、参加者どうしで意見を交わし、実現に向けて何が必要か議論します。
そして同じようなアイデアを持つ人たちが集まって13のチームに分かれ、夕方の最終発表に向けて準備を進めました。

林業の知見を防災に役立てたい

最終発表の場では、地域に密着している人ならではのアイデアが披露されました。
このうち、福井県で間伐や林道の整備などの事業を手がける松下明弘さんは、林業関係者の知見を防災に役立てたいと主張しました。
松下さんは、仕事柄、土砂災害や地滑りが起こりそうなところが分かると言いますが、こうした知見は、行政の地滑り予測やハザードマップ作りには十分反映されていないと指摘します。
現場の位置情報付きの写真を集めて、林業関係者ならではの地滑り予測を立てる。これが松下さんのアイデアです。
災害が実際に起こった際の初動対応にも改善すべき点があるといいます。松下さんによりますと、土砂崩れや倒木などの被害が起きると、自治体からまず土木業者に対応を求める連絡が入るといいます。それでも対応できない場合にはじめて林業の事業者に依頼があるということで、過去には、災害の発生から数週間たってから現場に出動するというケースもあったそうです。

松下さんは、「初動の遅れは復旧の遅れにつながりかねない。林業関係者も災害時に現場に急行できる仕組みを作るべきだ」と訴えました。みずからのアイデアの実現に向けてすでに動いているといいます。
「初動対応の強化に向け、福井県と京都府とは連携を強化するための議論をすでに始めている。こうした仕組みを確立して土砂災害の被害を最小限に抑えたい」(松下明弘さん)

こども食堂を防災教育の拠点に

一方、大手通信会社で働きながら「こども食堂支援機構」の代表理事を務める秋山宏次郎さんは、「無料、低価格で栄養のある食事を提供する『こども食堂』を防災教育の拠点にしたい」と訴えました。
秋山さんがこども食堂の支援に関わるようになったのは、非常食の取り扱い方に違和感を覚えたことがきっかけでした。
仕事で関わった企業の中に、定期的に非常食を新しいものに取り替える必要があるとして、まだ賞味期限までかなりの期間があるのにお金をかけて非常食を捨てているところがあったのです。
一方で、食事を必要とする「こども食堂」があり、この両者を結び付ければ、企業がこども食堂を支援する仕組みができるのではないかと考えました。

最終発表の席で、秋山さんは、次のように訴えました。
「企業や自治体で備蓄されている非常食のデータを一元的に管理するシステムをつくりたい。そして定期的にこども食堂に提供し、非常食を通じて子どもやその家族に防災について考えてもらう防災教育の場を作りたい」(秋山宏次郎さん)
イベントでは、このほか、運動会に防災訓練を組み合わせる「防災運動会」を全国の学校や企業で実施し、楽しく防災について学べるような仕組みをつくりたいといったアイデアも披露されました。

防災力強化に向け連携を

審査の結果、ここでご紹介した3件を含む、6件のアイデアが11月に仙台市で開かれる防災の国際会議「世界防災フォーラム」で世界に向けて発信されることになりました。
2年後の事業化を目指して、さらに具体的な検討が進められることになっています。これらのアイデアに共通しているのは、いまある社会の仕組みを行政や企業とつなぎ合わせれば地域の防災力を強化できるという考え方です。
防災という共通目標に向かって社会が結束する。そのためのアイデアをどのように生み出し、それをどう活用するのかという視点がこれからさらに求められると思います。
経済部記者
菅澤佳子
平成16年入局
札幌局を経て経済部
現在、防災などのプロジェクトを担当