アル・ゴアが叱る “省エネ大国ニッポン”はどこへ?

アル・ゴアが叱る “省エネ大国ニッポン”はどこへ?
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日本各地に被害をもたらした台風19号。
被害の全容は、いまだに把握できていません。
今回、気象庁は「これまでに経験したことのないような大雨」という言葉を繰り返し伝え、避難や警戒を呼びかけました。

科学者たちは、地球温暖化の影響によって、こうした台風は今後ますます増えるだろうと警告を発してきました。

その声を30年以上にわたって訴えてきたのが、アメリカのアル・ゴア元副大統領(71)です。
2006年に発表した映画「不都合な真実」で気候変動に警鐘を鳴らし、翌2007年にはノーベル平和賞を受賞しました。

そのゴア元副大統領が今月、来日。

なぜ今、日本へ?
地球温暖化対策の“元祖”とも言えるゴアさんを直撃しました。(国際部記者 佐藤真莉子)

「日本の環境政策は変わってしまった」

これはゴアさんが、インタビューの最初に発した言葉です。

来日したのは、東京都内で講演するためでした。その名も「地球温暖化対策に取り組むリーダー養成講座」。政府関係者から学生まで、800人以上が参加しました。

実はこの講座、すでに中国やインドを含む世界13か国で開かれ、延べ2万人以上が参加しています。
日本は1997年、京都議定書の採択を主導し、世界に先駆け“省エネ大国”として環境問題に取り組んできました。

それを考えると、日本でもっと早く開催してもよかったのでは?

その疑問をぶつけたところ、返ってきた答えが冒頭のひと言でした。

京都議定書の採択には、ゴアさんもクリントン政権の副大統領として力を尽くしました。当時、日本は環境問題でリーダーシップを発揮していましたが、日本はそのときと変わってしまったと言うのです。

いったい何が…?

相次ぐ石炭火力発電所の建設

ゴアさんが指摘するのは日本が、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素を多く排出する「石炭火力発電所」の建設をいまだに進めているという事実です。
「福島の事故のあと、日本はなぜ、石炭火力発電所の増設という方向に向かったのか。理解できない」
東京電力・福島第一原子力発電所の事故で、日本国内では原子力発電所の稼働が停止。国じゅうで“節電”の意識が高まりました。

当時、福島放送局に勤めていた私は、「これ以上、電力供給を原発には頼れない」という危機感が全国的に高まるのを肌で感じました。

震災の1か月後、東京に出張したときも、地下鉄の車内で電気が暗く、「電力の大消費地」でも節電に積極的に取り組んでいるのだと実感したのを覚えています。
その後、原発に頼っていた電力生産をできるだけ安価に補おうとした日本。行き着いたのが火力発電でした。

資源エネルギー庁によりますと、2014年の国内の電源構成は、震災前の2010年に比べて天然ガス火力発電が19%、石炭火力発電が3%増えました。
風力発電や太陽光発電といった再生可能エネルギーもわずかに増えましたが、全体としては、化石燃料を燃やす火力発電所を増やす方向に進んだのです。
さらに日本は海外でも、インドネシアやベトナムといった東南アジア諸国での石炭火力発電所の建設を支援しています。
発展途上国では、コストの高い再生可能エネルギーより、安い火力発電のほうが魅力的だと捉える国が少なくありません。
「日本は税金を使って、東南アジア諸国に石炭火力発電所を建設するのを支援するべきではない」ーー
講演でも、インタビューでも、ゴアさんは繰り返し、日本の環境政策を痛烈に批判しました。
「一人一人が、電気を消したり、水筒を持ち歩いたりすることは大切だ。しかし、もっと大切なのは、政策や法律を変えることだ。世界に石炭火力発電所を建設しようという日本の方針をやめさせるべきだ」

世界に取り残されるニッポン

日本の政策を批判するのは、ゴアさんだけではありません。

2015年にフランスで開かれたCOP21で採択された、「パリ協定」。
先進国に温室効果ガスの排出削減を義務づけた京都議定書以来、18年ぶりとなる温暖化対策の国際的な取り決めで、発展途上国を含むすべての国が協調して温室効果ガスの削減に取り組む、初めての国際的な枠組みとなりました。世界の温暖化対策は、歴史的な転換点を迎えたのです。

しかし、世界がこのように「脱炭素社会」に向かう中、日本は逆行するかのように石炭火力発電所の建設を続け、途上国にも積極的に輸出。こうした日本の姿勢に対しては、世界から批判の声が高まっています。
日本はかつて京都議定書を採択したCOP3で議長国を務めたほか、2度の石油危機を乗り切った経験をもとに、省エネ技術や電気自動車、水素エネルギーの活用など、環境の分野でトップランナーの役割を果たしてきました。

それは、ゴアさんも認めるところです。

しかし、いつのまにか、世界の流れに乗り遅れてしまったのです。

日本の「技術」と「若者」に期待

それでも、ゴアさんは日本への希望を捨てていないと言います。

その理由は、2つあります。

1つは、日本の「技術」です。
「日本の技術やノウハウを、再生可能エネルギーへの移行を促進するために使うべきだ」
20年余り前、この日本で、京都議定書の採択に尽力したゴアさん。
その言葉には「どうした日本!?今やらなくてどうするの!」という、叱責ともとれる思いが込められているように私には感じられました。

日本の技術力があれば、再び環境分野のリーダーになれる、いや、なってほしい、そんな思いが伝わってきました。
そしてもう1つ、日本の「若者」に期待を寄せています。
インタビューでゴアさんは「日本にも、グレタ・トゥーンベリさんはいないの?」と逆に聞いてきました。
グレタさんは、スウェーデンの16歳の女の子です。毎週金曜日に学校を休んで温暖化対策を訴え続ける活動に、世界中の多くの若者が共感。ことし9月の国連総会を前に各国で行われたデモには、過去最大規模の合わせておよそ400万人が参加しました。
日本でも東京で行進が行われましたが、集まったのは2800人。

ニューヨークの25万人と比べると、圧倒的に少ない数字です。そんな状況についてゴアさんは次のように述べ、理解を示しています。
「日本人はコミュニティーを尊重するから、デモといった形は難しいのかもしれない。しかし、日本の科学者や若者は、同じくらい、気候危機を訴えたいという強い思いを持っている。日本らしい訴え方を見つけられることを願っている」

批判を受けても活動を続けるのは「未来」のため

ところが、そのグレタさんは今、「大人に操られている」とか、「学校に行って経済を学ばないと環境問題は訴えられない」などといった批判の声にさらされています。

ゴアさんも以前、2006年に映画『不都合な真実』を発表すると、「政治的プロパガンダだ」とか、「地球温暖化はうそだ」といった批判にさらされました。
こうした批判を受けながらも、なぜ活動を続けるのか、尋ねました。
「いつの時代も、気候変動を訴える人に対しては批判する勢力がいる。最も典型的なのは、石炭業界などと政治的につながっていて、既得権益を失うのを恐れる人たちだ」
「私には4人の子どもと、7人の孫がいる。彼ら、未来の世代のことを気にかけている。人間である以上、いま行動することによって未来を自分たちの手に取り戻す義務がある」
未来の世代への責任は、自分たち大人が負っている。副大統領として世界の第一線で活躍してきたゴアさんの、責任感の強さがひしひしと伝わってきました。

“観測史上、最高の気温”“最強の台風”“数十年に1度の大雨”。こうした異常気象が、毎年のように押し寄せる現在。ゴアさんのメッセージを、あなたはどう受け止めますか?

「今こそ、行動を!」
国際部記者
佐藤真莉子
平成23年入局
福島局、社会部を経て
平成27年から国際部
アメリカ、ヨーロッパを担当