混迷テコンドー問題 選手と協会の深い溝は埋まるのか

混迷テコンドー問題 選手と協会の深い溝は埋まるのか
東京オリンピックを前に、テコンドーの統括団体「全日本テコンドー協会」の強化体制や方針をめぐって、選手側と金原昇会長を中心とした協会側が対立しています。
9月には選手側が協会主催の強化合宿をボイコットする異例の事態に発展。
国際競技団体も調査に乗り出しました。
協会は選手側の声を反映し、歩み寄る姿勢も見せていますが、選手たちの不満の声はやみません。両者の埋まらない溝の背景に迫りました。
(スポーツニュース部記者 猿渡連太郎)

異例の意見書提出

ことし6月、テコンドーの強化選手たちが、協会に意見書を提出しました。
求めたのは、
▽月1回の強化合宿の参加を、任意にすること
▽選手が出場する公式な大会前後の調整の際、所属先のコーチの指導を認める、といった強化方針の改善でした。

なぜ、こうした意見書が出されたのか。
関係者によりますと、強化方針をめぐる協会と選手側のぎくしゃくとした関係は1年ほど前から始まっていたと言います。
選手などは、
「(合宿や大会の)参加費用が必要以上に高額ではないか。自己負担金が減らない」「国際大会で、所属先のコーチの旅費を選手が払うこともあった」などと不満を漏らしていました。
また「世界選手権では、試合前のミーティングがなく、強化合宿に行っても、テコンドーの知識や経験のないコーチもいて技術の向上につながらない」と話す選手も。
協会のアスリート委員長を務める元オリンピック代表の高橋美穂理事が選手の要望を取りまとめ、理事会などで改善を求めました。しかし状況は変わらず、選手たちが意見書の提出に踏み切ったのです。

これに対して協会は回答案を準備。しかし協会内の人事の動きが間に入ったため、手続きに時間がかかり、選手側が期限とした6月末までに回答を示すことができませんでした。

伝わらなかった選手の思い

協会が、選手側に対して動いたのは9月になってからでした。
9月に予定されていた日本代表候補選手などの強化合宿に、多くの選手が不参加の意向を示していることが報じられたのです。
協会は12日に「強化合宿に関するお知らせ」と題した文章をホームページに公開。選手側に話し合いの場を設けることを提案します。
さらに18日には再びホームページを更新。意見書の作成に携わった選手に前日までに回答書を提出し、10月1日に選手との話し合いをすることを公表しました。
こうした対応に一部の選手からは「ようやく話し合いができる」と期待感を示す声も聞かれました。
それでも、予定より遅れ22日から始まった強化合宿に参加したのは、対象となったおよそ20人中わずかに2人。選手側の不信感は根深く、話し合いの行方がどうなるのか注目されました。

初めての話し合いも…

そして今月1日。協会と選手側の初めての話し合いが行われました。
この席で協会の金原昇会長は「選手とのコミュニケーションが不足していた。真摯(しんし)に受け止めたい。このような結果になり、われわれの関心が薄かった。おわびしたい」と一連の対応を謝罪しました。
しかし、このあと話し合いの席で選手が耳を疑うような発言がありました。
今回の対立については、国際競技団体の「ワールドテコンドー」が協会の運営状況などを調査していました。
この調査に対し、金原会長など協会が「選手側に不満はない」という回答をしていたことが説明されたのです。
出席した一部の選手は「事実と異なる」などと反発。
選手の多くが途中退席し、協会への不信感が増す結果となってしまいました。
会合を途中退席した日本代表候補の江畑秀範選手は、協会の対応に失望した様子を隠しませんでした。
「(協会のワールドテコンドーへの)回答書を読んで驚いた。ほとんどがうその内容ではないか。われわれ選手は協会側ともっとコミュニケーションを深めて信頼関係を築きたかったが、協会は本当に変わらないな、というのが正直な気持ちだ」
またシドニーオリンピック銅メダリストの岡本依子副会長は、会議のあと、組織を刷新する必要性について言及しました。
「この組織に任せていいのかなと危うさを感じた。協会の姿勢が恥ずかしいし、誰かが責任をとらないといけない。理事会の解散も手段の1つだと思う」

深まる溝

協会と選手側の溝が一層深まった中、8日、協会の理事会が開かれました。この席で、選手側の立場に立って活動してきた高橋理事と岡本依子副会長は、会長を含む理事が全員辞職して新体制で臨むことを提案します。
しかし、理事会は「審議事項に当たらない」と議題として扱いませんでした。
一方で理事会は、選手との信頼関係がうまくいっていないことなどを理由に強化スタッフの中心を担う3人を交代させることを決定。
強化体制を変えることで選手側の要望を一部受け入れる形になりました。

こうした対応に選手からは「幕引きを図ろうとしている」などといった意見が。もはや協会と選手との関係は、修復できないところまで来てしまったと感じました。

対立解消なるか

この問題は、今後、どのように展開していくのか。
全日本テコンドー協会の傘下に入る都道府県の協会の代表者などの「正会員」は、金原会長を含む全ての理事を選び直すよう求めるため「正会員総会」の招集に動いています。
この総会は、理事の選任や解任をすることができる強い権限を持ちます。
全ての正会員の過半数が出席したうえで、出席者の過半数が賛成すれば、理事全員が解任されることになります。
協会の金原会長は、今の理事の体制で協会の運営を続けていく考えです。
「理事と強化スタッフで一致団結し、東京オリンピックに向けて一刻も早く選手にすばらしい環境を与えることが責務だ」

専門家「体制を一新すべき」

今回の問題について、スポーツ倫理やガバナンスが専門の早稲田大学の友添秀則教授は、両者が改めて話し合いをして、それでも解決しなければ、体制の一新が必要だと指摘します。
「両者に全く信頼関係はない。1度、すべてを公開する形で選手側と協会が話し合い、そこで協会側が合理的な説明ができなかった場合は、正式な手続きを踏んで会長の更迭や理事の総辞職を行い、体制を一新すべきだ」

最後のチャンス

解決の糸口が見えない今回の対立。
協会と選手側が、信頼関係を築いてこなかった大きな“ツケ”が回ってきたとも言えます。
選手への期待が高まる自国開催のオリンピックへの残り時間を考えれば、今こそが「ゼロ」からの関係を作り上げ、再出発できる最後のチャンスです。