“危険な台風” 気象庁会見から見えたものは…

“危険な台風” 気象庁会見から見えたものは…
大型で非常に強い台風19号。12日に東海地方または関東地方に上陸する可能性が高まってきた。今の勢力で上陸すれば東日本では観測史上初めて。
気象庁は11日に開いた会見で、1200人を超える犠牲者が出た61年前の台風を引き合いに出し「それに匹敵する」と呼びかけた。
今回の台風19号。
気象庁が指摘する「危険な状況」とは、いったいどういうことなのか。
記者会見から台風の姿や警戒点を読み解いた。
(社会部記者 老久保勇太 ネットワーク報道部記者 管野彰彦 斉藤直哉)

大雨特別警報が関東・東海に?

「広い範囲で記録的な大雨となる見込みで、状況によっては大雨特別警報を発表する可能性があります」
11日午前11時からの会見序盤、気象庁の梶原靖司予報課長はこう述べ、最大級の警戒を呼びかけた。

もし、関東地方で大雨特別警報が出るとなると、平成27年の「関東・東北豪雨」で栃木県と茨城県に発表されて以来。

『特別警報』ということばが与えるインパクトや影響を気象庁が知らないはずはない。これまでの会見では質疑の中で可能性に触れることはあったが、会見の“ど頭”から言及すること自体、異例のこと。

ある幹部は「気象庁に長年いるが、関東に近づくこんな台風は見たことない」と漏らす。

会見室にいた記者(老久保)は、それだけ今回の台風に対する危機感を伝えようとする気象庁の意図を感じた。

“犠牲者1200人超 狩野川台風に匹敵か”

「12日から13日にかけて、西日本から東北地方では広い範囲で台風に伴う非常に発達した雨雲がかかるため、非常に激しい雨や猛烈な雨が降り、東日本中心に“狩野川台風”に匹敵する記録的な大雨となるおそれがあります」
梶原課長が大雨の見通しを語る中で言及したのが、61年前の「狩野川台風」だ
昭和33年(1958年)9月に静岡県へ接近し、神奈川県の三浦半島に上陸。

台風による大雨で伊豆半島を流れる「狩野川」が決壊したほか、各地で氾濫や土砂災害が相次いだ。
犠牲者は、合わせて1200人を超えた。
年配の人の中には、今も強い記憶となって刻まれている台風だ。

この台風では、とにかく雨が降り続いて記録的な豪雨となり、伊豆半島中部では総雨量が750ミリに達した。

また1日に降った雨の量は
▽伊豆大島で419.2ミリ ▽東京の都心で371.9ミリ
▽埼玉県秩父市で288.7ミリ ▽横浜市で287.2ミリ。

東京の都心と横浜市の観測史上最多雨量は令和の今に至るまで、この時から更新されていない。

今回の台風では、接近前から東日本の太平洋側を中心に、雨が長時間にわたって降り続くと予想されている。

雨の予想は変わる可能性があり、地域によって土砂災害や洪水のリスクが高まる雨量に差はあるものの、平年の数か月分に達するような雨量に至る可能性がある。

これだけの雨が降れば、大きな河川でも氾濫の危険性が高まり、土砂災害が起きるおそれが十分にある。

そうした危険性を知ってもらうためにも、あえて「狩野川台風」を引き合いに出したという。

暴風と高波高潮の危険も

「12日から13日にかけて、西日本、東日本、東北地方の広い範囲で猛烈な風が吹き、記録的な暴風となるところもある」
会見では大雨だけでなく、風や波、高潮にも繰り返し警戒が呼びかけられた。

11日夕方時点の予想では、12日にかけての最大風速は東海で45メートル、関東甲信で40メートル。車を運転するのも難しく、走行中のトラックが横転するような風とされ、屋外での行動は極めて危険だ。
さらに最大瞬間風速は東海、関東甲信ともに60メートルと予想されている。
先月の台風15号の際、千葉市で観測した最大瞬間風速は57.5メートル。
去年、関西空港で強風に流されたタンカーが連絡橋に衝突した台風21号の際に58.1メートルを観測した。それに匹敵する風が吹く可能性があるというのだ。

また東海、関東、伊豆諸島の沿岸では、うねりを伴って波の高さが13メートルの猛烈なしけが続くと予想されている。
さらに、高潮。
台風の中心付近は気圧が低く、海面が吸い上げられてふだんよりも上昇する。今は大潮の時期で、満潮時刻と台風の接近・通過が重なると高潮が発生するおそれがある。

加えて、非常に強い南風が吹くと海水が吹き寄せられて海面はさらに高くなるおそれもある。高波と違い海面全体が盛り上がるため、海岸近くは非常に危険だ。

“沿岸前線”で長雨のおそれ

台風19号は多くの人が暮らす首都圏を直撃しようとしている。

会見ではふだん雨量が多くなりやすい山の南東側の斜面だけでなく、平地でも記録的な大雨になるおそれが指摘された。

その原因は、局地的なため天気図には現れにくい「沿岸前線」だ。

狩野川台風の時も、この“沿岸前線”によって大雨となった可能性があるとのこと。

今回も首都圏の平地でも長時間雨が降り続き、記録的な雨量となるおそれがあり、警戒が必要だ。
「本州上の朝の気温が結構冷え込んだりということで、大気の下層に冷たい空気がたまっているという状況がありまして、湿った暖かい南東風と陸上の冷気層との間の前線が、非常に明瞭になるということも想定されまして、そういった前線は停滞性が強いということもあり、その前線の近くで総雨量が非常に多くなるというおそれがある」

東側だけじゃない 北西側にも気をつけて

今回の台風19号、関東や東海を中心に影響が避けられないが、日本海側でも警戒が必要だ。その理由は『秋台風』と『高気圧』。
「今回の台風はいわゆる秋台風でして、大陸方面から日本海方面にかけて、勢いよく高気圧が張り出してくるということで、台風の危険範囲ではない北西側などでも、この高気圧と台風との間で気圧の傾きが急になり、台風の北側あるいは西側でも暴風あるいは強風が広い範囲で吹く。また、湿った北東風、北風の吹きつけによって、北陸から山陰地方などでも総雨量が多くなるおそれがある状況を想定しております」
反時計回りに風が吹く台風は、進路と風の向きが重なるため、一般的に東側で風や雨が強まることが知られている。

ところが今後、大陸から日本海にかけて移動性の高気圧が張り出す予想となっている。

その高気圧と北上する台風の間で気圧傾度(気圧の傾き、狭いほど風が強まる)が急になり、台風の北西側、つまり北陸や山陰など日本海側でも暴風や強風が吹くおそれがある。

また日本海側では、北寄りの湿った風が吹きつけることで雨が降り、台風が三陸沖に進んだあとも湿った空気が流れ込み続ける。

総雨量が多くなるおそれがあり、警戒が必要だ。

かなりの大雨と暴風 確実に

「難を逃れることを最優先にして、不要な外出はせずに、安全を確保していただきたい」
会見で梶原課長は、繰り返し命を守る行動をとるよう呼びかけた。
特に気がかりなのは、先月の台風15号で大きな被害を受けたばかりの千葉県や伊豆諸島だ。千葉では3万5000を超す住宅が被害を受けた。今も屋根にシートをかけた家も多く、復旧は十分に進んでいない。
「台風15号の被災地では、ブルーシートの状態の家屋もまだたくさんあるという状況です。そういった場合、今回の台風によって、まず確実に、かなりの大雨でかなりの暴風となるということで、家の中にとどまること自体、危険なことも想定されます。地元の市町村が開設している避難所をとにかくを活用するとか、あるいは早い段階で親戚といったところに退避するとか。とにかく難を逃れる方策をしっかりとってもらいたい」