「表現の不自由」展再開 抽せんに定員の22倍超

「表現の不自由」展再開 抽せんに定員の22倍超
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愛知県で開かれている国際芸術祭で、中止された「表現の不自由」をテーマにしたコーナーがきょう再開され、抽せんで選ばれた人たちが、ガイドツアー形式で鑑賞しました。抽せんには定員の22倍を超えるのべ1300人余りが参加し、大きな混乱は無かったということです。
8月1日から開かれている「あいちトリエンナーレ」では、「表現の不自由」をテーマに、慰安婦問題を象徴する少女像や昭和天皇をコラージュした映像作品などを展示するコーナーが設けられましたが、テロ予告や脅迫ともとれる電話などが相次ぎ、開幕から3日で中止されました。

このコーナーについて芸術祭の実行委員会は金属探知機を設けるなど安全対策を強化したうえで、8日午後、再開しました。

再開に先立ち、午後1時ごろには鑑賞を希望する人が詰めかけて入場者を決める抽せんが行われ、選ばれた人たちは手荷物を預け、金属探知機でチェックを受けていました。

実行委員会は8日、コーナーの中の取材を認めませんでしたが、入場者が1回あたり、30人を上限としたガイドツアー形式で、時間を区切って見て回りました。

抽せんには2回のガイドツアー、合わせて60人の定員に対し22倍を超えるのべ1358人が参加したということです。人数を限定したり、警備員を増やしたりして、大きな混乱はなかったということですが、会場の外では再開に反対する人たちが声を上げていました。

芸術祭の実行委員会は9日以降、ツアーの回数を増やしてより多くの人が鑑賞できるようにする方向で検討することにしています。

実行委員会によりますと8日、愛知県庁や展示会場には午後5時までに抗議を中心とした電話がおよそ200件かかってきたということです。

識者「不自由展の再開は妥当」

展示再開について表現の自由に詳しい慶應義塾大学法科大学院の横大道聡教授は「表現は誰にとっても心地のいいことだけが流通するわけではありません。人によっては、不快な表現であったりとか、反感を覚えるような表現も当然保障されるわけです。それに対する反対が多いなどの理由で、表現を抑圧したり、自粛したりすべきではありません。展示の中止は、安全上、危機管理上の理由という説明でしたので、対策が十分に取れるということになれば、再開するという判断は妥当だと考えます」と一定の評価をしました。

そのうえで、「いろんな表現に触れることができることが非常に重要な価値であり、そういった空間で過ごしていること自体からわれわれが恩恵を受けているという視点を持つことが重要ではないか」と述べました。

一方で、「今回は不測の事態で展示中止になったわけですが、表現の自由を守るため、事前の準備や対応をきちんとしていれば、最小限に食い止めることができたはずです。実行委員会やその会長である知事の対応が不十分だったことが、事態を深刻にした一因となったことは、忘れるべきではないと思います」と指摘しました。

「表現の不自由」 展示を見た人は…

展示が再開された「表現の不自由」をテーマにしたコーナーを鑑賞した人たちからは、さまざまな声が聞かれました。

千葉県から来た20代の女性は「現代アートをよく見に行きますが、この程度の表現ならばよくあると思いました。抽せんで入場者を絞って見なければいけないことはおかしいように感じました」と話しました。

また、埼玉県の30代の男性は「立場が違えば受け取り方も違ってくるのかもしれませんが、作家は自分の立場で世の中をよくしたいというメッセージを持って表現していると感じました」と話していました。

三重県の50代の男性は「もっとまがまがしい感じかと思っていましたが、中に入ると明るい感じでイメージが違いました」と話していました。

名古屋市の20代の男性は「作品を見ずにバッシングする人もいると聞きますが、遠くにいてスマホなどで情報に触れてわかってしまう気になる時代だからこそ、実際に見て体験してみることがいちばん大事だと感じました」と話していました。

厳重な警備の中で開催

8日の展示再開にあたり、主催者側は、会場に多くの人が集まることによる混乱を避けるため、入場者を抽せんで、一回当たり30人に制限する対応をとりました。

会場には、入場を希望する人たちで長い列ができ、2回に分けて行われた抽せんには、60人の定員に対し、22倍以上となる1358人が参加しました。

展示会場の中でも、安全を確保するためとして、見学者は入場する際に手荷物を預けたり、金属探知機による検査を受けたりしていました。

千葉県から来たという50代の男性は、「なぜここまでしないといけないのかという意見もあるかと思いますが、私はストレスは感じませんでした。非常に静かな環境で作品を見ることができてよかったです」と話していました。

展示会場の中の様子は

8日再開された「表現の不自由」をテーマにした展示会場では混乱を避けるためとして、内部の撮影が認められませんでした。

展示内容は中止される前とほぼ変わらなかったということですが、2回目のガイドツアーに参加した人たちの話によりますと会場の中には警備員がいて、ものものしい雰囲気だったものの静かな環境が保たれていて、昭和天皇を取り扱った映像作品の前では、係員の呼びかけで、全員が座って20分間にわたり、鑑賞したということです。

参加した40代の男性は、「きょう参加した人の多くは、展示を楽しみにしていた人たちだと思います。いろいろなことがあって、いったんは中止となった展示を再開してくれてありがとうという気持ちです」と話しています。

「表現の自由」「検閲」説明する掲示も

今回の展示再開にあたり、会場の入り口には見学者に「表現の自由」や「検閲」について考えてもらうパネルが新たに用意されました。

「表現の自由」については、多様な意見を発信したり議論したりすることで、よりよい社会を作るために、憲法で認められた権利だと説明されています。

そのうえで、受け取る人によっては、不快な表現があることも合わせて記されています。

また、「検閲」については、インターネット上での批判や「電凸」と呼ばれる、度を超した抗議などによって、過度な自粛や自主規制が多くなっていると指摘し、公的な美術館や図書館は、さまざまな意見や主張を紹介するプラットフォームとしての役割があると説明しています。

パネルを読んだ40代の男性は、「今回の展示がいったん中止に追い込まれたのは残念ですが、今後の各地の美術展の教訓としてもらいたいです」と話していました。