問い続ける「なぜ軽減税率?」

問い続ける「なぜ軽減税率?」
消費税率10%への引き上げが迫っている。今回初めて導入される軽減税率に対応するため、小さな商店から巨大スーパー、外食チェーンまでその準備に追われている。取材をしていると、「複雑で分かりにくい」「企業は準備の負担が大きい」など、軽減税率への不安をよく耳にする。なぜ、軽減税率は導入されるのか、今後どうなっていくのか。10月1日を前に、改めて考えたい。(経済部記者 影圭太)

軽減税率 導入のねらい

軽減税率は、消費税率10%への引き上げにあわせて10月から初めて導入される。「酒類と外食を除く飲食料品」と「定期購読契約が結ばれた週2回以上発行される新聞」にかぎり、税率を今と同じ8%に据え置く。

生活必需品の税率を維持することで、所得が低い世帯の負担の増加を和らげるのが導入のねらいとされている。しかし、これまで私が取材した小売りや外食の企業担当者からは「制度が複雑でわかりにくい」とか「準備の負担が大きくて間に合うか不安」といった声が多く聞かれた。

わたしたち消費者の財布にとっては、一部であっても税率が8%に据え置かれるのはありがたいとも思えるが、企業にとってはレジの改修や値札の張り替え、従業員の教育などの対応に追われたし、今も追われているというのが実態と言わざるをえない。

緊急政策提言

この軽減税率に対し、ことし3月、経済学者らが発起人となって「緊急政策提言」を出していた。

その内容は、【1】消費税率10%への引き上げは予定どおりに行うが、軽減税率は導入しない。【2】景気への深刻な影響が予想される場合には、代わりに1回かぎりの措置として全世帯に一律の給付を9月中に行う。【3】明らかに高所得と認められる世帯については給付を行わない、などとなっている。

軽減税率に対して真っ向から反対を主張しているのだ。税率を一本化したうえで、増税によって景気が悪化する場合には各家庭への補助金などの給付で家計を下支えしたほうがいいと主張している。

すでに混乱を生んでいる?

軽減税率のスタートを半月後に控えた9月中旬、緊急政策提言の発起人の1人、東京大学の星岳雄教授に話を聞きに行くと、こう話し始めた。
「軽減税率が導入されれば必ず混乱が起こる。制度の開始に向けて店側はレジの改修など準備しなければならないことが多く、負担も大きい。すでに混乱を生んでいるとも言える。これは学問的な話ではなく、実務の話だ」
星教授によれば、今では、賛同する学者はおよそ200人にまで増えているという。
「多くの学者に賛同を呼びかけたが、中には増税自体に反対だという理由で提言に賛同できないという人もいた。ただ、軽減税率そのものに賛成するという人は今のところ1人もいない」

ねらいは的外れ?

軽減税率になぜ反対なのか。提言はその理由を明確に示している。1つは、導入のねらいである、低所得者の負担軽減にはつながらないためとしている。

星教授は「高所得者のほうが金額で見ると食料品への支出額が大きくなるので、高所得者のほうが有利になる制度になっている。格差は変わらないどころか、大きくなる懸念さえある」と話す。

そしてもう1つは、店舗側がレジなどを準備する事務コストが増える上、税務当局の徴税コストも高まってしまうことをあげている。

すでに軽減税率を導入しているヨーロッパ各国でも、対象商品の線引きが複雑になっていることは早くから指摘されていた。
例えばフランスでは、キャビアは標準税率が適用されるが、フォアグラやトリュフは国内産業の保護を目的に軽減税率が適用される。

軽減税率の対象になろうと、さまざまな業界が政治への働きかけを強め、対象が拡大されてしまうおそれもある。

そうなると税収もさらに落ち込む。制度の複雑化に加え、対象が拡大されることで、財政にマイナスの影響が及び、結局、標準税率をさらに引き上げざるを得なかったというのがヨーロッパ各国の先例で示されていたことだと提言は指摘している。

今議論する意味は…

軽減税率が導入されることは、3年前から法律で決まっていることで、それに向けた準備も進められてきた。にもかかわらず、経済学者たちが反対を主張し続ける理由は何なのだろうか。
「軽減税率が10月に導入されたからといってそれでおしまいではない。導入されたとしても、結局何のための制度だったのか、この先ずっと問われ続けていく。今後、軽減税率をどうすべきか本当に検討される時のためにも、今から議論をしておくことが重要だ」

「わたしたち専門家で10月以降の混乱を検証し、さらには所得が低い世帯の暮らしがよくなっていないことも検証する必要がある。その検証の結果をもって、政治や役所に働きかけていくことも考えている」(星教授)
税率引き上げも軽減税率の導入も、スタートして慣れていけばそれでいいというものではない。経済や暮らしにどのような影響を与え、導入の目的は本当に果たされているのか。10月1日という節目だけを見るのではなく、10月1日以降に起こる現実をしっかり見つめていきたいと思う。
経済部記者
影 圭太

平成17年入局
山形局 仙台局を経て
現在は財政担当