暴力には暴力で!? 先鋭化する差別主義

暴力には暴力で!? 先鋭化する差別主義
移民大国、アメリカが長く直面してきた人種問題。いま、その問題が深刻になっています。「白人のための国家を取り戻そう」という過激な思想が、急速に広がっているのです。自分と肌の色が違う人を敵とみなし、殺害する事件が相次いでいます。アメリカ社会で、いったい何が起きているのか。その深層に迫りたいと取材を始めました。(アメリカ総局記者 及川利文)

アメリカはわれわれの国だ

8月、オレゴン州ポートランドを訪ねました。「全米の住みやすい街」ランキングの常連で、自然にあふれ、色鮮やかな建物が並び、路面電車が行き交う美しい街です。
ところが、この日は、異様な雰囲気がありました。午前11時をすぎても、中心部のほとんどの店が閉まっているのです。店に張られていた貼り紙には、「本日は、事情により臨時休業します」と書かれています。

この日、全米から、白人中心の国家をつくろうとする白人至上主義団体と、それに抗議する人たちが集まり、大規模なデモが予定されていたのです。
正午前、デモが予定されていた公園に少しずつ人が集まり始めると、あっという間に数千人が集結しました。

(市民グループ)「差別主義者は、帰れ!!」
(白人至上主義者)「アメリカはわれわれの国だ!」

双方が詰め寄り、相手のかぶっていた帽子に火をつけるなど、緊迫した状況になりました。アメリカでは、白人至上主義者が公然と集会を開き、これに抗議する市民との間で、たびたび摩擦が生じています。

そして今、差別的な思想を持つ人たちの言動が、ますます先鋭化しています。

相次ぐ殺人事件

アメリカの調査機関によりますと、去年、白人至上主義者が銃などを使って起こした殺人事件で、命を落とした人は39人。前の年の18人から倍以上に増えました。
そして、ことし8月には、南部テキサス州エルパソの大型小売店で、白人至上主義者とみられる男が銃を乱射し、メキシコ人8人を含む22人が死亡。

エルパソは、メキシコとの国境沿いに近いことから移民が多く、人口およそ68万人のうち80%ほどがヒスパニック系です。男は、この町までわざわざ車で10時間かけて来ていました。

事件に共感?広がる

なぜ悲惨な事件は起きたのか。男が事件前にインターネット上に投稿したとされる文書からその動機が読み取れます。

「テキサスでヒスパニックによる侵略が起きている」
「移民はアメリカの未来にとって有害なだけだ」

そこには、移民への敵意が記されていました。
男が、文章を投稿していたとみられているのは、匿名のネット掲示板「8chan(エイト・チャン)」。この掲示板には、ことし3月、ニュージーランドでイスラム教の礼拝所を襲撃し、51人が死亡した事件を起こした男や、4月にカリフォルニア州のユダヤ教の礼拝所で銃を乱射した男も犯行声明を書き込んでいました。

掲示板は、過激な白人至上主義を主張する場になっていると厳しい批判を浴び、いまは閉鎖されています。

しかし、ネット上には…
「エルパソの事件に感銘を受けた」

事件に共感するような書き込みが相次いでいます。

移民への怒りは理解できる

こうした差別的な声を吸い上げて、勢力を拡大する白人至上主義団体があります。
「この国をつくったのは白人なのに、このままでは少数派になる。白人は優遇されていないのに、白人以外は常に恩恵を受けている」
こう話すのは、もともと保守系のメディアで働いていたパトリック・ケイシー代表です。団体を結成したきっかけは、前回の大統領選挙でトランプ大統領の演説を聴き、移民によって白人の存在が脅かされていると感じたからだと言います。
ことし結成したばかりにもかかわらず、メンバーはすでに500人余りに急増。その半分は大学生で、中には弁護士や会社経営者もいます。毎日のように入団の申し込みがあり、団体を大きくするのに、今が絶好のタイミングだと言います。
(ケイシー代表)「全米に拠点を作り、各地でわれわれの考えを広めていきたい」
テキサスの乱射事件について、どう考えているのか。質問をぶつけました。

(記者)テキサスで銃を乱射した男も白人至上主義者とみられています。過激な思想が罪のない人の命を奪っているとは思いませんか?
少し間を置いてこう答えました。
(ケイシー代表)「暴力は決して許されないことだが、移民への怒りは理解できる」

娘の命をむだにしない

一方、白人至上主義の広がりに危機感を持ち、立ち上がった女性がいます。スーザン・ブローさん。2年前、娘のヘザーさんを亡くしました。

バージニア州シャーロッツビルで開かれた白人至上主義団体の集会に抗議していたヘザーさんたちに、当時、20歳の白人至上主義の男が車を暴走させて突っ込んだのです。娘の名前がつけられた通りを歩きながら、ブローさんは当時を振り返りました。
(ブローさん)「娘は、この町に憎悪の居場所はないという意思を示そうとしていたと思います」「座って泣いているだけでは何も変わらない。行動しなければ」
ブローさんは、差別的な思想の広がりを食い止めようと各地で訴えています。そして今、もっとも力を入れているのが、白人至上主義の思想に染まりやすい、若者への働きかけです。
ブローさんのもとには、ヘザーさんの思いを受け継いでほしいと世界中から義援金が集まりました。それをもとに、娘の名前をつけた基金を立ち上げ、差別をなくす活動をしている高校生や大学生を支援しています。義援金は、2年たった今も寄せられています。
(ブローさん)「私たちはまだ、憎悪を持つ人に対処できていません。活動する若者を勇気づけ、支援していくことで、差別による犯罪を減らしていけると思います。私たちは、一刻も早く行動しなければいけません」

トランプ大統領が“お墨付き”を与える

なぜいま白人至上主義が過激化しているのか…。差別的な思想を掲げる団体の動向を調査する専門家は、トランプ大統領の移民に攻撃的ともいえる言動が、関係していると指摘します。
「トランプ大統領は、移民に対して、暴力的で非人道的なことばを使います。それを聞いた白人至上主義者は、大統領も言っているじゃないか、自分たちの考えは正しいと誤解します。大統領が、お墨付きを与えて、白人至上主義者を後押ししているようなものです」

アメリカ社会に焦燥感

今回の取材で、強いショックを受けたのは、多くの白人至上主義者が大学生だということです。白人至上主義団体の代表は、あえて大学のキャンパスに行き、勧誘活動をしていると話していました。

アメリカの調査機関によりますと、去年、全米の大学で行われた勧誘活動は、300件以上にのぼっています。背景の1つと考えられているのが、自分たちの権益をアジア人や黒人、そしてヒスパニック系の人たちに奪われるのではないかという焦燥感です。

アメリカでは移民の増加によって、2050年には、白人の人口が全人口の半分以下に減少する見通しです。これは今、10代後半から20代前半の大学生が、働き盛りの40代や50代になる頃です。

さらに、こうした若者の多くが、資本主義やグローバル化の波から取り残され、社会の中で孤立して、極端な思想に染まりやすくなっていることも、白人至上主義が拡大する要因となっているとも言われています。

もう1つ気がかりなことがあります。それは、白人至上主義と思想的に対極にあるグループも、過激化していることです。アンチ・ファシズムを意味する「アンティファ」と呼ばれる人たちです。暴力には暴力で対抗すると公言し、白人至上主義者とたびたび衝突しています。

先鋭化する差別主義をどうすれば食い止めることができるのか?アメリカ社会はいま、その答えを見つけられずにいます。
アメリカ総局記者
及川利文