電柱大国ニッポン ~“無電柱化”が進まないワケ

電柱大国ニッポン ~“無電柱化”が進まないワケ
台風15号の影響で、千葉県で起きた大規模停電。その大きな原因が、「電柱」でした。日本全国にある電柱は、3500万本。その一部が倒れたことで、これだけの被害につながったのです。ただ海外では、電柱が1本もない都市もあるといいます。なぜ、日本は、“電柱大国”になったのか?調べてみると、日本ならではの原因が見えてきました。(社会部記者 清木まりあ 渡辺謙)

電柱は災害に弱い!

最大93万戸余りで停電が起きた千葉県。電柱が倒れる被害が相次いだほか、倒木で電柱からのびる電線が切断されたことなどが、大きな原因でした。今回、千葉県を中心に、2000本の電柱が倒れるなどの被害が出たと推計されています。

この電柱の倒壊。過去、地震や台風、竜巻のたびに、被害が起きています。
東日本大震災では、なんと5万6000本もの電柱が被害を受けていました。電柱は、災害にめっぽう弱いんです。

停電対策の切り札 「無電柱化」

「地震や台風などの被害を受けにくい『無電柱化』の必要性を改めて認識した。『無電柱化』のスピードアップを推進していきたい」
千葉県の被災地を視察した、赤羽国土交通大臣の発言です。今後の対策として挙げたのが、「無電柱化」。ことばは聞いたことがありますが、どれだけ進んでいるのか。国土交通省のデータを、詳しく調べてみました。

「無電柱化」は、電線などを地下に通すことで、地上の電柱をなくすこと。風や地震の揺れで倒れる電柱をなくしてしまう、停電被害をなくすための抜本的な対策です。歩道が広くなるメリットがあるほか、地上の電線がなくなるため景観もよくなります。

遅れる日本の「無電柱化」

海外の事例を調べてみます。多くの都市で取り組みが進んでいて、ロンドンやパリ、香港、シンガポールでは、なんと、「無電柱化率」が100%!つまり、都市に、電柱が1本もないといいます。

一方、「災害大国」日本はというと。東京23区で8%。東京は全国で最も無電柱化が進んでいますが、それでも8%です。

都道府県別に見てみると、「無電柱化率」が1%に満たない県は全体の4割ほどありました。海外の都市に比べ、日本は大きく立ち遅れていました…。
さらに驚いたことに、日本は無電柱化が進むどころか、電柱が今も増え続けていました。平成20年には3525万本だったのが、平成29年には3585万本。9年間で60万本も増えていました。1年に約7万本の電柱が増えていることになります。まさに、“電柱大国ニッポン”!!

早い戦後復興を目指したがゆえに…

なぜ、日本は“電柱大国”になったのか?国土交通省の担当者に聞くと、戦後の復興が原点にあると話しました。

実は戦前、日本でも、電線を地下に埋める取り組みが進んでいました。しかし、戦後、いかに早く復興を進められるかという課題に直面します。
中でも重要だったのが、早く安定した電力を供給すること。当時の政府が、コストや時間のかかる地下ではなく、地上に電柱を建てることを選択したということなんです。

その流れが、高度経済成長期、そして現在まで続いているのではないかと、担当者は話していました。

早い戦後復興を目指したがゆえに建てた電柱が、いまは大きな災害のたびに倒れ、人を苦しめている…。なんだか皮肉な話に思えました。

立ちはだかる日本ならではの壁

それでは、「無電柱化」を海外のように、ドンドン進めればいいのでは?しかし、そうはいかないようです。

国は、3年前に法律を作って、無電柱化を進めることにしました。再来年3月までの3年間で全国で2400キロメートルを無電柱化する方針を掲げています。しかし、なかなか難しいと言います。

いちばんの理由は、当然、「コスト」。1キロメートルの範囲を無電柱化するには、5億3000万円もの費用がかかり、十分な予算が捻出できていないのです。

コストがかかる理由の1つに、東京など日本の大都市ならではの大きな「壁」がありました。それは、電線を埋める「地下」の問題です。

地下はもう「満タン」?

その「地下」の問題を、実際に見に行ってみよう。建設が進められている東京メトロの新駅「虎ノ門ヒルズ駅」の工事現場に、特別に入らせてもらいました。

地下の暗い通路を歩くと、目についたのは、大小さまざまな「管」。これらが入り組むように、張り巡らされていました。これこそが、無電柱化を阻む、大きな壁だと言います。
地下には、電力ケーブルだけでなく、ガス管や水道管、それに通信ケーブルなど、大量の設備が埋まっています。世界一、複雑とも言われる東京の地下。

管やケーブルなどをつなぎ合わせると、東京23区だけでも、10万キロ、地球3周分の長さに達するとも言われているそうです。

実際に地下を歩いてみて、すでに東京の地下の多くは、「満タン」の状態にあるのだと実感しました。

「見取り図」がない! 「図面」に間違いも

さらに、無電柱化を阻んでいるのが、「図面」の問題だといいます。「満タン」の地下に電線などを通すには、管やケーブルの網の目をぬうように、設置する必要があります。

しかし、その「全体の見取り図」を誰も持っていないのです。

ガス管はガス会社、水道管は自治体、電線は電力会社といったように、設備の管理者がそれぞれ分かれているためです。作業では、それぞれの図面を重ね合わせながら通す場所を確認する必要があり、大きな手間になっているそうです。

虎ノ門ヒルズ駅の現場を取材すると、さらに難しい問題も起きていました。担当者は図面が間違っていることも多いと指摘します。
「この管は、図面に描かれていた位置よりも、実際は20センチほど下にあったんです。実際の位置が違うと、工事に支障が出ます。この管を埋めた業者と協議して、図面どおりの位置に戻したところなんです」
図面と実際の位置が違うなんて、そんなことがあるんですか!

取材をした別の建設団体の関係者からは、さらに衝撃的な発言も。
「地図にある位置と実際の位置が違うことって多いんですよ。そのせいで水道管を傷つけてしまったりする事故も起きているんです」
この関係者に聞くと、去年1年だけでも、図面が間違っていたことが原因で水道管や電力ケーブルを損傷や切断する事故が、全国で20件ほど発生しています。周辺の地域で、断水や停電が起きてしまった事例もありました。

図面が間違っているだけでなく、どの図面にも載っていない、管理者も分からない管が埋まっていることもあるそうです。こうした管は、「不明管」と呼ばれ、勝手に撤去することもできず、扱いが非常に難しいといいます。

新たな技術で「無電柱化」を加速化

地下の「図面」を、新たな技術を使って作ろうという動きも始まっています。特殊な車で日本全国の道路を走り、地上から地中をレーダーで探査する取り組みです。
地下空間の測量を行い、その情報を、AIで分析。ガス管、水道管、通信ケーブル、その他の構造物などを判別し、それぞれの位置や形状も正確に解析して、3Dのマップにしようというのです。
地質調査会社と電機メーカーがタッグを組んだ、大規模なプロジェクト。来月から、実証実験が始まろうとしています。

“無電柱大国” に変われるか?

取材をしてみると、無電柱化がなかなか進まないワケが、いろいろと分かってきました。

しかし災害が起こるたびに、私たちの生活に支障を及ぼしているのですから、できないワケばかり並べず、今こそ本格的に進めていく必要があると感じました。

無電柱化の問題、これからも取材を続けていきたいと思います。