漫画で語る台風15号と大停電

漫画で語る台風15号と大停電
台風15号で千葉県を中心に大規模な停電が起きて2週間余り。まだまだ復旧の途上にある中で、ネット上では被災者がその体験をリアルに描いた漫画が話題です。電気のない暮らしやその中で感じた思い。次に災害に直面するかもしれない私たちの姿が描かれています。(ネットワーク報道部記者 野田綾 秋元宏美)

室外機 さようなら

「台風15号で学んだこと 災害は想定外の出来事三昧

この書き出しで始まる漫画を描いたのは、千葉県木更津市に住む小説家で漫画も描く金沢有倖さんです。

足に障害があり、ふだんは車いすなどを使って生活している金沢さんは、母親と弟の家族3人で暮らしています。

その家を台風15号が自宅を襲った夜を描いたシーン。照明がついたり消えたりを繰り返したあと、夜中の2時ごろに完全に停電しました。

「きっとすぐ復旧する」

そう思って屋外を見た瞬間、思いもかけない光景を目にします。

ベランダが池のようになり、エアコンの室外機が水没していました。

漫画には「室外機 さようなら」と、心の声も添えられています。

このあと、必死の思いで外に出た金沢さんは、室外機が飛ばないよう家の壁に引き寄せるとともに、排水口に詰まっていた木の枝や葉っぱを取り除きました。
「被害がもっと大きくなると思ってやったのですが、あとから冷静に考えると、あの暴風雨の中ではやってはいけないことでした。とにかく必死でした」

翌日に見た光景

一夜明けると家の外には昨日とは全く違う世界が広がっていました。

隣接する雑木林の木が飛び散り割れた窓ガラス。隣の家の屋根も飛び、壁もありませんでした。

“社会で共有されていない”

目の前に広がる惨状。

でも、そのことが社会で共有されていないと感じたことを描いたのが次のシーンです。
わずかに充電が残っていた小さなテレビは、台風のことを伝えず、ネットや電話もほぼ使えませんでした。

「そのうち復旧するだろう」と思って家の片づけなどをしていたと金沢さんに、市内に住む人から「君津市の巨大な鉄塔が倒れたらしい、いつ停電が復旧するかわからないらしい」との情報が伝えられました。

その時初めて、「長期戦になるかもしれない」と大きな不安を覚えたそうです。

追い詰められる被災者

さらにじわじわと精神的に追い詰められる状況も描かれています。

市役所が防災無線で流す放送で使われる「被災者」という単語に、自分が置かれた現実を知る瞬間

最近、脳の腫瘍を摘出する手術を受けた金沢さんは、市外にある病院に通えず、薬も切れてしまいました。暑さの中で食欲もなくなり、息苦しくなるなど、次第に体調も悪化しました。
「今夜は持ちこたえられてもあしたはもうダメかもしれない」
そう思い始めた3日目、ようやく電気が復旧しました。
「自分のところは3日目で早く復旧したので、千葉の中でも被害は軽いほうです。でも、情報も入らず、不安な気持ちで日々を過ごしていました。漫画を通して、災害を他人事だと思わないこと被災した当事者は情報のない中で心の余裕もなくなってしまうこと電気のある生活とない生活は全く違うということを意識してもらいたい

停電と暑さ ペットも大変

9日間続いた電気のない暮らしを描いた漫画もあります。

千葉県内に住む女性、「スガさん」が描きました。

自分を含め家族3人と5匹のペットと暮らすスガさん。

ペットと一緒では避難所には入れないだろうと、日頃から家族の食料や水、衣類などに加え、ペットの餌やペットシートなども備えていました。

しかし、電気のない暮らしは想定通りとは行きませんでした。

暑さでバテ気味のペット。車の中で涼ませてあげようと冷房の効く車内に避難させるも、乗り慣れない猫はよけいに体調を崩します。

携帯電話もつながりにくい中、なんとか獣医に連絡を取り、指示を受けながら自宅に戻って、ぬれタオルなどで体を冷やすなどしてやりすごしたと言います。

夜 停電の中考えたこと

停電1日目の夜。スガさんは、消防車や救急車が遠くで行き交う音を耳にしながら考えました。
「自分たちは今までどれほど電気を当たり前に使い、それに頼って生きてきたんだろう」
そして同じ時刻、外では当たり前の日常に戻すために、夜を徹して作業をしている人たちがいることを思ったと記しています。
「電気や水道、通信などというライフラインは、空気のように当たり前でいて、常にそれを提供してくれる人々の汗と努力があってこそだと思います。私は災害直後から、電柱や電線に架かった倒木や被害を目撃しており、それを一つ一つ元の戻していくことは並大抵ではないと感じていました。一刻も早い電気の復旧を望みましたが、同時に、作業員のみなさんがケガ無く作業に当たってくださるようにと祈っていました」

ほしい情報は?

停電3日目からスガさんは仕事で東京に行きました。

コンビニには商品が並びテレビはグルメ情報を流すなど、千葉の停電がうそのようでした。

情報はスマートフォンで簡単に得ることができました。
そこで被災地が必要としている情報を集めようとしたところ、あることに気付きます。

例えば停電情報。市町村ごとに停電の件数が書かれていました。

しかし実際は、番地ごとに停電状況も違います。

被災者がほしいのは、もっとピンポイントで示された復旧や支援の情報だったのです。

一方で、情報が簡単に手に入る環境にいると、情報の更新が過剰に気になり、気持ちが落ち着かなくなるという感覚も知ったと言います。

被災地を支える日常

停電から9日目。スガさんが暮らす地域でも電気が復旧しました。

食卓を照らす照明のもと、「ごはんが白く見えるってありがたいねえ!」と、当たり前の日常が戻ってきた喜びを描いています。

ペットたちも無事でした。

今回の台風では、猛暑の中で長引いた停電や断水に加え、被災地の情報が隣の東京にすら十分伝わらないもどかしさや復旧作業の遅れなどさまざまな課題が指摘されました。

こうした状況を被災地の千葉と日常生活が続く東京で見つめたスガさんは、次のように話してくれました。
「被災して日常を失った場所から、東京に出てきて複雑な思いはありました。でも、日常は社会を支えるためにありそれは巡り巡って被災地と呼ばれる場所にも返ってくるのです。大切なことは、ほんの少し自分のリアルとして災害というものを捉えて感じ入ることではないかと思います」
今回紹介した2つの漫画は、ツイッターのそれぞれのアカウントで読むことができます。
@ariko830
@suga23_5cm
そこには、備えていても思いもしなかったことが起きる災害時の暮らしのリアルが描かれています。

そして、突然襲ってくる理不尽な状況にどう向き合えば良いのかを教えてくれているように感じました。