3つ子の1人を床にたたきつけ死亡 2審も母親に実刑判決

3つ子の1人を床にたたきつけ死亡 2審も母親に実刑判決
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愛知県豊田市で生後11か月の3つ子の1人を床にたたきつけて死亡させた罪に問われた母親に、2審の名古屋高等裁判所は「育児の十分な支援が得られず、酌むべき点も少なくないが、刑が重すぎて不当だとは言えない」として、1審に続いて懲役3年6か月の実刑判決を言い渡しました。
この裁判は、去年1月、愛知県豊田市の自宅で、生後11か月の3つ子のうち、次男を床にたたきつけて死亡させたとして、母親の松下園理被告(31)が傷害致死の罪に問われたものです。

1審の名古屋地方裁判所岡崎支部は「うつ病になる中、負担が大きい3つ子の育児を懸命に行ったことに同情はできる」とした一方、「執行猶予を付けるほど軽い事案ではない」として、懲役3年6か月の実刑判決を言い渡し、弁護側が「刑が重過ぎる」として控訴していました。

24日の2審の判決で、名古屋高等裁判所の高橋徹裁判長は「抵抗するすべを持たない生後11か月の子どもを1メートルを超える高さから繰り返し畳の床にたたきつけたのは危険で悪質な犯行で、泣きやまない子どもにいらだちを募らせた動機は身勝手で過剰な反応だ」と指摘しました。

そのうえで「産後うつが犯行の動機に一定の影響を及ぼしたことや、本人の責任感の強さから夫や両親、行政機関による十分な支援を受けることができないまま、負担の大きい多胎育児に1人で取り組む中で起きた痛ましい事案であり、酌むべき点も少なくないが、刑が重すぎて不当だとは言えない」として、1審に続いて懲役3年6か月の実刑判決を言い渡しました。

判決前に支援団体が署名提出

判決を前に、双子や3つ子を育てる「多胎」の家庭を支援する団体のメンバーが、執行猶予を付けるよう求める追加の署名を名古屋高等裁判所に提出しました。

署名では「1審判決は3つ子を育てる過酷さと、それを支援すべき制度や社会資源の不備を正しく評価していない」としたうえで、「責任を被告個人に負担させる判決には問題がある」と訴えていて、すでに提出したものを合わせると1万3400人分を超えるということです。

母親 3人が同時に泣くとどうしていいかわからず

地裁の審理では被告の母親の育児の状況が明らかになりました。

母親は3つ子を出産したあと、1人につき1日8回、3時間おきにミルクをあげていました。3人で1日24回。睡眠時間は1、2時間ほどでした。

何より戸惑ったのは常にどの子かが泣いている状況で、3人が同時に泣くと、どうやってあやせばいいのかわからなかったことだと明かしました。

地元の愛知県豊田市や保健師からは育児を助けてくれる「ファミリーサポート」のサービスや、双子の親向けのサークルを紹介されましたが、住んでいたのはエレベーターのないマンションの4階。3人の乳児を連れて外出するのは難しく、利用することはありませんでした。

地区を担当する保健師に、次男が泣きやすいことやミルクの吐き戻しが多いことを伝え、保健師もこうした実情を記録に残していましたが、3つ子の育児に留意した助言はしていませんでした。

また子どもたちの健診で、豊田市に「泣き声が気になり、長男と次男の口を手でふさいだことがある」と申告していましたが、その後、具体的な対応はとられませんでした。

出産後、夫は育児休暇を取得しましたが、事件の2か月前に仕事に復帰していました。

1審判決受け さまざまな立場から署名活動

1審の判決をめぐっては「3つ子の育児の過酷さを正しく評価していない」などとして、2審では執行猶予を付けるよう求める署名活動がネット上で行われました。

また、ことし5月、双子や3つ子を育てる「多胎家庭」を支援する団体のメンバーが名古屋高等裁判所を訪れ、1万件を超える署名を提出しました。

一方、虐待を受けて育ったという人が「実刑判決は妥当だ」という意見を示すための署名活動を始め、1審の判決は大きな議論を呼びました。

母親「ごめんねという思い」

弁護士によりますと、母親は保釈後、残された長男と長女が入る児童養護施設の近くに住み、両親らが付き添って、月に1、2回の頻度で面会してきたということです。

子どもたちから「ママ」と呼ばれたりだっこを求められたりすると、家族の絆を改めて確かめているようだったということです。

2審の高裁の審理で母親は「次男の命を奪ったこと、長い未来を奪ったことに、ごめんねという思いでした。5月末に納骨した際、『人としての次男はもういない』と感じ、やったことの大きさや、もう会えないことを思うと、涙が止まりませんでした」と述べていました。

法廷での被告の様子は

この日、被告は、髪を後ろで1つにまとめ、黒い縁の眼鏡をかけて法廷に入りました。表情は固く、証言台の前に立つと裁判長のほうをまっすぐ見つめました。

そして、判決が言い渡されると、最初は無言のままでしたが、途中から下を向いてときおり鼻をすすり、手でほおや口元の涙をぬぐっていました。

言い渡しが終わると、裁判長に向かって深く一礼し、足早に法廷を後にしました。

被告の弁護士「育児への理解欠けた判決」

被告の代理人の間宮静香弁護士は判決について、「大切な命がなくなったことに対しての判決として重く受け止めますが、3つ子育児の過酷さや孤立せざるをえない育児への理解に欠けた判決と考えます。育児に多くの母親が追い詰められており、母親だけにその負担がのしかかる現実が、このような事件を引き起こす原因となっていることを司法が理解しなかったのは大変残念です。全国の自治体には、同じ事件が起きることのないよう、多胎支援に力を入れていただきたい」とコメントしています。

支援のNPO代表「厳しい判決で非常に残念」

双子や3つ子を育てる「多胎家庭」の支援をしている岐阜県のNPOの代表で、1審から傍聴を続けてきた糸井川誠子さんは「厳しい判決で非常に残念です。母親は何度も、助けを求めるシグナルを出していて、事件を防ぐチャンスはありました。多胎育児の大変さを考慮した判決ではないと感じました」と話しました。

そのうえで、「今回の事件は愛知県の豊田市で起きましたが、ほかでも十分起こり得ることだと思っています。支援はまだまだ足りていないので、その輪を広げる必要があります」と話しました。

識者「いろんな意見出るべき」

元刑事裁判官で法政大学法科大学院の水野智幸教授は、今回の事件について「執行猶予と実刑、両方の判断があり得る」と指摘しています。

そのうえで2審も実刑になったことについては、「『3つ子を育てるのは大変だが、1人で抱え込まずに子どもの安全を第一に考えるべきだ』という考え方に立って、同情の余地はあるにしろ、実刑を選択したのだと思う」という見方を示しました。

1審の実刑判決の後、執行猶予を求める署名運動などが始まったことについては「かなり珍しいことで、議論が巻き起こること自体はよかったと思う」と話しました。

そのうえで「3つ子の育児が今、社会で言われているよりもっと大変だと考えている人はきょうの2審の判決がおかしいという議論を起こすと思うし、今後のためにもいろんな意見が出るべきだ。判決を契機として社会が動いていくことはあるし、きょうの判決はその一つなのだろうと思う」と話していました。

インターネット上の反応は

インターネット上では、24日の2審判決についてもさまざまな声が上がっています。

SNSでは、「3つ子を育てる過酷さは確かにあるけど、それを情状酌量の余地があると捉えるかどうかだと思うな。個人的にはそれで情状酌量されたら子どもは親の所有物とみなされている気がする」などと実刑が妥当だとする意見があります。

一方で、「母親に責任があるのはそれはそうだけど、母親だけに責任を負わせる事案じゃないよね。自分だったら11か月もたないかも。ほんとに、社会全体で子どもを育てる国にならないと」などと母親が置かれていた環境の厳しさに思いを寄せる意見もあります。

また、「罪を犯したことは取り返しがつきませんが、とても難しい問題だと…。悲しい事件です…」「この事案はもっと背景を勉強しないと何も語れない」などと、育児の過酷さと本人の責任のバランスを考える難しさを指摘するツイートもありました。

豊田市 事件後 双子や3つ子の親に特化した教室開催

事件のあと愛知県豊田市は多胎家庭への独自の支援策を進めていて、出産前に必要な情報が得られるよう、双子や3つ子を出産予定の親に特化した教室を定期的に開いています。

また多胎家庭について、今年度からこども園に入園しやすくする取り組みを始めたほか、家事を手伝うヘルパーの利用期間を長くしました。

市によりますと、多胎の子を出産予定の親に特化した教室を開くことで、同じ境遇の親どうしのつながりができつつあるということです。

またヘルパーのサービスは10世帯ほどの多胎家庭が利用登録をしているということで、今後、ヘルパーを派遣する事業所の数を増やすことも検討しているということです。

厚労省も支援強化へ

厚生労働省も多胎家庭への支援を強化する方針です。

昨年度、民間の調査会社の協力を得て、自治体の意欲的な取り組みや保護者のニーズを知るアンケート調査を行いました。自治体や保護者からは「多胎家庭へのサポートや情報がほしい」とか、「情報交換ができる場所を知りたかった」といった要望や意見が寄せられたということです。

調査結果を踏まえ、来年度以降、多胎育児を経験した人の体験談を聞く場を設けたり、多胎家庭に専門の支援者を派遣したりしている自治体を対象に、事業費の半額を補助する方針を固めました。

一方、日本多胎支援協会によりますと多胎家庭のサポートに当たる「多胎ネット」と呼ばれる都道府県単位の組織が全国11の都府県に作られていますが、北海道や中国・四国地方には無く、「多胎ネット」が無い地域での支援をどうしていくか、課題になっているということです。

(11都府県=◆秋田県◆宮城県◆東京都多摩◆静岡県◆岐阜県◆愛知県◆石川県◆大阪府◆兵庫県◆佐賀県◆鹿児島県)