苦手にならないリコーダー

苦手にならないリコーダー
学校の音楽の授業といえば、リコーダー。授業のあとの帰り道、友達とリコーダーを吹きながら歩いた思い出がある人もいるかもしれません。でも、指がなかなか動かない。すぐにピーっと外れた音が出てしまう。人一倍、苦労して苦手意識を持つ子どもたちもいます。そんな子どもたちにも音楽を楽しんでほしいという願いが、今、共感を呼んでいるそうです。(ネットワーク報道部記者 大石理恵 大窪奈緒子 目見田健)

自信のない音色

今月、発達障害のある10歳の長女のために、あるリコーダーを購入したという奈良県の女性に話を聞きました。去年から学校でリコーダーを習い始めた長女。自宅でも練習していましたが、母親が耳にするその音色は、いつも「弱々しくて自信なさげ」だったそうです。

「障害があるとこんなに不器用なものかな」と案じていた女性。ネットで話題になっていたあるリコーダーに目がとまりました。それは、一つ一つの穴の上にシリコン製のキーが付いているリコーダー。
ネット上では「指先の細かい動きが苦手な発達障害のある子や不器用な子でも扱いやすい」という投稿が相次いでいました。

女性は「そんなに違うものかな?」と半信半疑で購入。早速、長女に吹かせてみると前よりも安定した音が聞こえてきました。
「劇的に変わったわけではないですが、『リコーダーは楽しいものだ』、『道具が違うだけで自分もちゃんとやれるんだ』と自信が持てるようになったと思います。長女には『学校に持っていっていい?』と聞かれました。先生に相談してみようと思っているところです」

リコーダーをうまく吹けない

発達障害と笛の演奏には関係があるのでしょうか。特別支援教育が専門の創価大学教育学部 安部博志准教授は、「発達障害の子どもたちの一部は、指先の動きが苦手な傾向がある」と話しています。

そのうえで特徴的だという4つのケースをあげてくれました。

▼定規を使ってもまっすぐ線を引けない
▼コンパスを使っても円を描けない
▼なわとびで腕と足の動きが合わせられずうまく跳べない
▼リコーダーの穴を指で押さえられずうまく吹けない

リコーダーの演奏について安部准教授は、「器用にうまくできるように繰り返して練習するなど努力で補おうという考え方は親にも子どもにもストレスになる。もしかしたら何回練習してもうまくできないかもしれない。そうすると子どもは『やらされている』と感じ、音楽の授業が嫌いになる」と指摘します。

アルトもあれば…

奈良県の女性が入手した新しいリコーダー。同じメーカーの製品は今のところ、主に小学校で使うソプラノリコーダーしかありません。しかし、ネット上では。
「手が小さかったので、アルトリコーダーは塞ぎきれないことがありました。あったらいいなぁ…」
「我が子、高校でも音楽でアルトリコーダーの授業があって、冷や汗ものでした。出来ないものは出来ないのでそれに対応するためのツールは是非にと思います」
中学で学習するアルトリコーダーでも、同じものがあればと、期待する声が相次いでいます。

販売店とメーカーが動く

こうした声に、リコーダーの販売代理店がツイッターで反応しました。
「一連の流れ、拝見しております!弊社としても実現に向けて、現在メーカーと交渉を進めております。皆様の熱い想いはメーカーにもきちんと届いているので、ご安心ください!」(販売代理店のツイッターより)
代理店には、メールなどでも直接、障害のある子どもの保護者から「このリコーダーを使うことで、音楽の授業を楽しめている」「子どもが中学になっても、授業を楽しめるようアルトリコーダーがあったらうれしい」といった期待の声が寄せられているといいます。

シリコンキーを使った「NUVO」製リコーダーの販売代理店、「キョーリツコーポレーション」の板鼻幸人さんは「こうした、隠れたニーズがあったのかと驚いています。保護者の方からの声に“なんとか実現したい”と私も、胸が熱くなる思いでいます。こうした日本での動きや要望を製造メーカーに伝えたところ“前向きに検討したい”との返答を受けています。さまざまな方が音楽を楽しめるよう、努力していきたい」と話していました。

きっかけは「学校に行きたくない」

握力の弱い子どもや発達障害の子どもも楽しく演奏を。そんな思いから生まれたグッズはほかにもあります。

神奈川県の主婦が考案したリコーダー用の演奏補助シールです。指が滑りにくい特殊な素材でできていて、リコーダーの穴にシールを貼ると、穴をふさぎやすくなるほか穴の位置も分かりやすくなるそう。

4年ほど前に販売を開始したところ、発達障害の子どもだけでなく、盲学校に通う子どもも多く使ってくれているといいます。

開発した主婦で、「アイディア・パーク」の代表を務める北村ゆかさんは「きっかけは、『リコーダーがうまくできないから学校に行きたくない』という長男のひと言でした。『こういう商品を待っていた』と、泣きながら電話をくれるお客様もいます。たかがリコーダーと思われるかもしれませんが、子どもが楽しく演奏できることが子どもの自信につながります。こうした製品が少しでも子どもの生きやすさにつながっていけばうれしいです」と話しています。

苦手を感じない社会に

リコーダーをめぐって始まったこうした動きについて、安部准教授は「非常に素敵なことだと思う。応援したい」と好意的に受け止めています。
「保護者が子どもを『成功体験』に導きたいと考えての動きは共感します。子どもが音楽を『嫌い』にならないよう『楽しい』と感じさせることは重要です」
一方で安部准教授は、学校現場の対応にも目を向けます。
「例えば、多くの児童・生徒と見た目が違う笛を使っていると、子どものプライドが傷つくかもしれないし、からかわれる対象になるかもしれない。そうなった時に、子どもたちの特徴を理解した配慮ある指導が教師にできるかも問われていると思います」
そして最後にこう付け加えました。「この動きはあくまで入り口で、道具を使って克服するだけでは、根本的な問題は解決しません。その先には、多様な性質や特徴のある一人一人を、社会全体が理解しサポートしていく姿勢が求められています。いろんな人たちが“苦手”を感じなくなるよう、それぞれの悩みに当たり前に寄り添っていける社会になっていけばと思います」と話していました。