商機は端境期にあり! 本州最北端のイチゴ

商機は端境期にあり! 本州最北端のイチゴ
みんな大好き、イチゴ!旬を迎える冬から春には、スーパーにもたくさんの品種が並んで、食べ比べをしたり、ついつい1パック、ペロリ…なんてことありますよね。
このイチゴの産地として、いま注目されているのが本州最北端の青森県下北半島です。
夏が短く、冬は強風が吹きすさぶ下北半島でなぜイチゴ?その理由を取材しました。(青森放送局 むつ支局記者 佐野裕美江)

スイーツの主役!イチゴ

東京・渋谷のセンター街にあるクレープ店。女子高校生を中心に、スイーツ好きの人たちが列を作っています。

この店ではこの時期、下北半島のイチゴを使っています。イチゴの旬は冬から春にかけてですが、このイチゴは夏から秋に収穫されることから「夏秋(かしゅう)イチゴ」と呼ばれています。

クリームにぴったりな酸味が特徴です。

夏から秋は下北産で

全国に150店以上展開するこのチェーン店では、夏から秋にかけて使う国産イチゴのおよそ70%を下北産でまかなっています。

「夏秋イチゴ」は輸入品に比べ、夏場でも鮮度が高いまま提供でき、クレープやケーキなどの業務用として引き合いが強いといいます。
この会社の仕入れ担当の河端昌美課長は「海外産は輸送に時間がかかり、イチゴが傷んでロスも出てしまう。一方、下北産のイチゴは、2~3日で店舗まで届き、品質の高いイチゴをお客さんに提供できる」と、そのメリットを説明していました。

商機は端境期にあり!

下北半島の産地を訪れました。

東通村の山あいの道を進むと、そこには農業用ハウスが広がっていました。ここで最初に生産を始めたのが、村田睦夫さん(58)です。
もともと卸売市場で野菜や鮮魚を競りにかけていた村田さん。その経験から、夏場に国産イチゴが出回らないことに気がつきました。

そして20年近く前、冷涼な下北の気候を利用し、夏から秋の「端境期」にイチゴを作ろうと挑戦を始めました。

しかし、当初は苦労の連続でした。下北半島には、夏になると霧を伴う冷たい風「やませ」が吹きます。「そんなところでイチゴが栽培できるのか」ーーー周囲からは反対する声もあったと言います。

当初はわずかしか収穫できず、2年目を終えた時に借金は2000万円に膨らんでいました。

そんな時、村田さんがめぐり会ったのが、北海道・旭川の業者です。北海道を中心に栽培されていたイチゴの苗を紹介してもらいました。

この苗は、ほとんど季節を問わず栽培できるものでした。これを3年目から植え出すと、イチゴの収穫量は徐々に増え始めたのです。
さらに村田さんにとって追い風になったのが、イチゴの取引価格です。冬のイチゴに比べて2倍から3倍もするのです。

誰も挑戦しなかった「端境期」の生産に商機を見いだした村田さん。18年目となった昨シーズンの販売額は3200万円まで拡大しました。
村田さんは「この地域独特の気候を生かせば、需要がある谷間を狙って販売できるという確信があった。発想の転換で始まったイチゴ栽培は、農業を盛り上げるモデルケースの一つになりうる」と話しています。

新戦力の若者も次々に参入

村田さんの成功は地元の農家にたちまち広まりました。

そして村田さんに続けと、若手の農家が続々とイチゴ栽培を始めるようになったのです。

現在、下北地方のイチゴ農家は26人と、この5年で倍増しました。実に半数以上が30代以下の若者です。
販売額も産地全体で9600万円に達し、貴重な端境期のイチゴ産地として、全国に知られるようになりました。


イチゴ栽培を新たに始めた農家を取材しました。
むつ市出身の佐藤航さん(33)です。

高校を卒業したあと、神奈川県のラーメン店で働いていましたが、自然の中でのびのびと働きたいと、4年前に故郷に戻ってきました。

村田さんのもとで1年間、研修を受けたあと、原野だった土地を借り受けて、1人でイチゴ栽培を始めました。

農業の経験は全くなかったということですが、ハウスの建設から手がけ、いまでは4棟で生産しています。
なぜ農業の素人だった佐藤さんが、イチゴ栽培をできるようになったのか。

そこには創始者の村田さんをはじめとする産地のネットワークがあります。

イチゴの生育具合や病害虫対策など、生産に関する知識を村田さんから細かく教えてもらえます。

さらに生産したイチゴは村田さんが組織する組合を通して出荷されるため、販路も確保されていて売れ残る心配がほとんどありません。
佐藤さんは「困った時に村田さんにすぐ相談できて心強い。規模も拡大しながら、より安心して食べてもらえる高品質なイチゴを作っていきたい」と話しています。

広がる端境期ビジネス

財務省の貿易統計によりますと、端境期の夏から秋に使われる輸入品のイチゴは過去5年で年間およそ3000トン。額にしておよそ30億円です。

それを国産イチゴに切り替えようと、いま端境期を狙ったイチゴの生産は、長野や北海道などでも広がっています。
また、ほかの作物でも端境期にビジネスチャンスを見いだす動きがあります。

去年、種苗メーカーと国の研究機関がカボチャの新品種の開発に成功しました。このカボチャは、国産が不足する冬から春にかけて出荷できるということで、新たな需要の掘り起こしにつながると期待されています。

さらに石川県の建設会社が設立した農業生産法人は、業務用のカット野菜向けに、耕作放棄地で栽培したキャベツを端境期に出荷する取り組みを行っています。

端境期の需要に応えようと、下北半島の農業は若者たちで活気づいています。彼らの目標は出荷額5億円の産地になることです。

今後も若手の参入が相次ぎ、産地としての価値を高めることができるか注目したいと思います。
青森放送局 むつ支局記者
佐野裕美江
平成28年入局
事件・経済担当を経て
本州最北端の支局で取材
ショートケーキはイチゴから食べる派