IoTでつなぐ防災

IoTでつなぐ防災
雨が激しく降ってきた。台風が近づいている。でもまだ… 迷っているうちに状況が悪化すれば、行動の遅れが命にかかわることになります。早い段階で危険を知らせ、防災・減災につなげるためにはどうすればよいのか。今、期待されているのは、あらゆるモノをインターネットにつなぐIoTの技術です。この技術を使ってデータを可視化し、防災情報を迅速に提供しようという取り組みを取材しました。(経済部記者 寺田麻美)

業界超えたデータで

はじめにご紹介するのは、異業種3社のコラボ。通信会社のKDDIとトヨタ自動車、それに地盤のコンサルティング業務を行う「応用地質」がIoT技術を活用し、ことし8月に共同で開発した防災システムです。KDDIはスマートフォンの位置情報、トヨタは自動車の走行情報、そして「応用地質」は、水位や地盤の傾斜を測るセンサーの情報をそれぞれ提供。このビッグデータを組み合わせ、1つの画面に表示します。
画面の地図上では、エリアごとにどのくらいの人が集まっているのかがわかるようになっています。たとえば、人が多く集まっているエリアは「赤」で表されます。

また、道路の渋滞状況も色分けして表示されます。渋滞は「赤」、混雑していると「黄」などとなっています。

地図上には水位計などの情報をもとに、浸水や土砂崩れの危険が迫っている場所も表示されます。

こうした情報を重ね合わせることで危険なエリアに何人が残っているのか、避難するためにどの道路が使えるのかといった災害時に必要な情報を得ることができます。
また、スマートフォンのデータを活用すれば避難所にいる人の数や年齢構成も把握できるので、救援物資がどのくらい必要かがわかるとしています。3社は、こうした情報を防災に役立てるため、この秋にも自治体で試験的に運用することにしています。
KDDIの原田圭悟ビジネスIoT企画部長は、「3社のデータを組み合わせることで、新しい知見が得られることになる。このシステムを通して、住民に有効な情報を出していきたい」と話しています。

率先避難を「見える化」

一方、IoT技術を使って早めの避難を促そうという研究も始まっています。国土技術政策総合研究所の熊谷兼太郎研究官は、災害時の避難場所に、人の流れを測定するIoTセンサーを設置し、避難する人の数をリアルタイムで把握するシステムを開発しています。避難している人の数は自治体を通じて住民のスマホなどに送られます。
こうした試みの背景には、“率先避難”という考え方があります。津波など災害の危険性を周囲に知らせながら先頭に立って避難し、周囲にも避難を促す。東日本大震災の際に注目された“釜石の奇跡”では「率先避難」が周りの人にも広がった結果、多くの住民の命が救われました。
熊谷研究官は、IoT技術を使って、実際に避難した人たちを“見える化”し、避難をためらっている人に対して同調する行動を促そうと考えています。熊谷研究官は、「東日本大震災では、ほかの要因とあわせてですが、4割の人が周囲の人がきっかけで避難したと報告されている。IoT技術を活用して、避難をためらっている人の避難を促せるよう研究を進めたい」と話しています。

こうした取り組みについて、IoTデータの活用に詳しい早稲田大学リサーチイノベーションセンターの稲田修一教授は、「早い段階で多くの情報を集めることができるIoTの技術は、災害時の早めの避難に役立てることもできる。一方で、受け手がその情報をもとに適切な行動に移せるかが課題で、情報を正しく理解する力を高めていかなければならない」と話しています。

IoTでつながることで生まれる防災対策。私たちの命と暮らしを守る新たな役割が期待されています。
経済部記者
寺田 麻美

H21年NHK入局。高知放送局を経て経済部で財務省、流通業界などを担当。現在は、消費の現場から防災まで幅広い分野を取材。