なぜ? ハワイ先住民の蜂起 矛先は日本にも

なぜ? ハワイ先住民の蜂起 矛先は日本にも
日本人にも人気の観光地ハワイ。

そのハワイの社会を二分する大きな論争が今起きているのをご存じでしょうか。この論争、日本人にも大きな関係があるのです。(ロサンゼルス支局長 及川順)

論争の舞台は「聖なる山」

私はこの問題を取材するため、8月、ハワイ島に向かいました。

ハワイ島はハワイ州で最も大きな島。地元ではその名もビッグアイランドとも呼ばれています。日本からの直行便も飛び、コーヒーが有名なコナ、それにマウナケアという山などが主な観光地です。
論争の舞台となっているのが、そのマウナケア。
標高は4205メートル。

「ハワイアン」と呼ばれる先住民にとっては聖なる山ですが、舗装された道を車で登っていくと、山頂付近には、太陽からの日ざしを受けて、真っ白に光る建物の一群が。各国が整備した天体の観測施設です。
ハワイは、四方が海に囲まれ、晴れた日が多く、大気の揺らぎが少ないことから、世界で最も天体観測に適した場所の一つと言われています。
現在は13の望遠鏡があります。
日本の国立天文台が設置した「すばる望遠鏡」もその1つです。

「第2の地球」を探すTMT

山頂付近で計画されているのが、TMTと呼ばれる大型望遠鏡の建設です。TMTは「Thirty Meter Telescoupe」の略。口径30メートルの望遠鏡です。

TMTは日本、アメリカ、カナダ、中国、インド5か国の共同プロジェクトで、建設費は1800億円。およそ15年前からプロジェクトは始まりました。
プロジェクトに参加する国立天文台のTMT推進室長の臼田知史さんは、TMTの目的の1つは「第2の地球」を探すことだと話します。
「太陽系の外にある惑星を観測して、酸素や水など生命の存在に不可欠なものがあるかを調べることができるかもしれない。そうすれば、地球上でどのように生命が誕生してきたのか、その謎の解明にも役立つ。そのためにもTMTはぜひ作りたいんです」

TMTは中断、反対派は拠点を形成

「第2の地球」というと、なんかわくわくする話ですが、TMT建設計画は地元での反対運動が急速に強まり、工事は中断されています。

マウナケアの5合目、標高2000メートルほどのところに着くと道路は封鎖され、そこから上には登れなくなっていました。建設反対の人たちがテントを張り工事車両が通れないようにしているのです。そして、ここは今、反対派の活動拠点となっています。

反対の中心は「ハワイアン」

誰が建設に反対しているのか。
活動の中心は先住民「ハワイアン」の人たちです。

活動拠点では1日3回、先住民の伝統に沿った儀式が行われています。

フラと呼ばれる踊りも行われますが、多くの人がイメージするようなゆったりとした雰囲気のフラダンスとは大きく異なります。もっと力強く、時にはもっと荒々しく、そして、宗教的な雰囲気のものだと感じました。
こうした儀式を取りしきっている1人、ケクヒ・ケアリイカナカオレさん(52)に話を聞きました。

マウナケアは、ハワイアンにとって神々や先祖であり、自分自身でもあるといいます。その山が意に反して開発されていることに怒りを感じているというのです。
「私たちはTMTの計画を中止するまで、ここを動きません。争うことはしたくありません。ただ、私たちにとってかけがえのない、美しい山を守りたいのです」

僕たち、私たちはハワイアン

マウナケアの山頂付近には、これまでも各国の望遠鏡が次々と作られてきました。しかし今回、建設反対運動はこれまでとは違う広がりを見せています。

なぜなのでしょうか。

その理由を解明する鍵の1つが、ハワイの若い世代の意識の変化です。ハワイでは、アメリカ本土への同化政策の一環としてハワイ語が禁止されていた時代もありましたが、この30年でハワイ語を教える学校が増加しました。
アメリカでは、小学生ぐらいの頃から複数の言語で授業を行い、バイリンガルに育て上げる「イマージョン教育」という方法を導入している学校があります。英語とスペイン語の「イマージョン」もあれば、英語と日本語の「イマージョン」を行っている学校もあります。
そして、ハワイでは、英語とハワイ語でこの「イマージョン」を導入している学校もあるのです。

こうした取り組みの結果、一時はほとんどいなくなってしまったハワイ語を話す人は、いまでは1万人をこえました。そして、若者の間では、先住民ハワイアンとしての誇りを持とうという意識が高まっているのです。

SNSが運動を加速

また、反対運動が短期間に拡大したスピードにも注目です。
ここにも若者という要因が大きく関わっています。
反対運動の分岐点は、ことし7月、ハワイアンのいわば長老たちが、TMTの建設を阻止しようと山頂に続く道路を封鎖した際、警察当局に逮捕されたことです。

ハワイアンの文化に対する権力の乱用だと怒った若者たちは、逮捕の様子を撮影した動画をSNSなどで拡散。これに呼応した若者たちが、そしてさらに大人たちまでがマウナケアの中腹に集まり、短期間で拠点を形成したのです。
さらにSNSの威力はこれだけにとどまりません。

ハワイ出身の歌手ブルーノ・マーズさんや、俳優のレオナルド・ディカプリオさんらも支持を表明。今やマウナケアには、ヨーロッパなど海外からも反対運動への支持を表明する若者が来るようになっています。

国立天文台は戸惑い

TMTは当初は7月に建設開始の予定でしたが、結局先送りされました。

着工を目前にしての計画変更に関係者は戸惑いを感じています。
TMTの責任者、臼田さんもその1人です。

長年、ハワイで観測・研究を行ってきた臼田さんは、家族ぐるみで地元の人たちとつきあい、子どもたちはハワイ語も勉強していました。そして、地元の学校でのいわゆる出前授業などもやってきました。
「地元といい関係を築けてきたと考えてはいたんですが。正直言うと今回あそこまで大規模に反対運動が起きてしまったことは残念で仕方がない」

科学と文化の両立は

科学の発展と地元の文化の尊重をどう両立させるか。

ハワイに限らず、世界各地でアイデンティティーの尊重を訴える流れが強まる中、両立を目指した模索が続くことになりそうです。
ロサンゼルス支局長
及川 順

平成6年入局
政治部、アメリカ総局(ニューヨーク)などをへて
ことし6月からロサンゼルスに