ここまできた動画の加工 見せたくないモノが自動で消える?

ここまできた動画の加工 見せたくないモノが自動で消える?
写真の肌の色を調整したり、体型を細く見せたり。インスタグラムやツイッターなどのSNS上で当たり前になってきている動画や画像の加工。その編集ソフトの“老舗”が1982年創業のIT大手のアドビだ。10年余りにわたってアドビを率いるシャンタヌ・ナラヤンCEOに、会社が描くクリエイティブの未来を聞いた(経済部記者 野上大輔)

いらないものは消せる?

自転車で走る男性を上空から撮影したこちらの動画。左隣には赤い車が併走して走行している。これが下の動画では赤い車が消され、そこには何もなかったように砂道が広がっている。
これはアドビが提供する編集ソフトの機能を使って作成した映像だ。映像をつくる際に消したい箇所の範囲を指定すると、その対象が動いていても追跡して消し、消された部分は違和感のないように復元される。

これはすべてAI=人工知能の“仕業”で、編集ソフトの中の機能として利用することができる。これまで画像や動画の編集というと、プロのクリエイターによって行われるイメージが強かったが、編集経験のない誰でも加工ができる時代が訪れている。

インド出身のCEO

文書ファイルの「PDF」や画像編集の「フォトショップ」などでよく知られる米企業、アドビ。
ことし7月、アドビが東京で開いた企業向けのイベントに出席するため、CEOのシャンタヌ・ナラヤン氏が来日した。インド出身で、コンピュータサイエンスで修士号を持つエンジニアのナラヤン氏。

グーグルのサンダー・ピチャイCEOやマイクロソフトのサティア・ナデラCEOなどアメリカのシリコンバレーのIT業界にはインド出身の経営者が多いが、ナラヤン氏はその先駆けとして、2007年からアドビを率いている。

個人がストーリーを伝える時代

編集ソフトの分野では最大手だが、どこかプロ向けというイメージも強く、スマホで簡単に加工ができるアプリが続々と登場するなど、編集ツールの世界での競争は激しくなっている。

そこで、ここ最近、重視している理念は「Creativity for all」(=すべての人に創造性を)。これまでサービスの主な使い手だった編集のプロではなく、一般の個人の利用の拡大をねらっている。

背景にはインスタグラムなどのSNSやYouTubeの浸透で、誰もが映像の発信元になっていることがある。会社では編集ソフトの分野の市場規模として、2020年には242億ドル(日本円で約2兆5600億円)、2021年には292億ドル(日本円で約3兆880億円)まで拡大することを見込んでいる。

この“編集の大衆化”をリードしていくことが重要だと考えているナラヤン氏。たとえば1人の学生でも、世界有数の企業でも、情報を画像や映像で自分なりに伝えたい思いは変わらないと話す。
「(ナラヤンCEO)一人一人が自分のストーリーを語りたいという時代になっています。コンテンツの制作を手助けするアドビにとっては黄金時代です。プロの皆さんだけではなくて、ストーリーを伝えたいすべての人にプラットフォームを提供できるようにしていかなければいけません」
中でも日本は、マンガやイラストなど「画のデザイン」を大切にする文化があり、アドビが重視する市場の1つだ。特に加工のソフトの分野で利用者も多いという。

そうした利用者の1人、会社役員の矢向直大さん(35)は3年前から一眼レフで撮影した写真をアドビのソフトを使って編集し、インスタグラムやツイッターで発信している。
絵の明るさを調整したり、色を加えたりするなど、1枚の写真当たり15分ほどで編集し、SNSに投稿。個人で手軽な発信を実現している。
「編集ツールを使わずに発信することは考えられない」

編集もAIに

アドビでは市場の拡大だけではなく、最新のテクノロジーを開発し、編集ソフトの機能に活用している。

その1つの柱がAIだ。編集ソフトには新しく開発されたAIが搭載されている。例えば、明るくきれいにみえるように肌の色を自動で調整したり、プロが加工した数万点の画像データをもとにワンクリックで、自動で画像を修正したりするという。

ことし4月から新たに提供されたのは、動画の中で映したくないものを消してくれる機能だ。例えば、結婚式やその「前撮り」で2人の映像をきれいに切り出したい時には、映り込んだ人を消すことも可能になる。

これまでは人の手で地道な編集作業が行われていたが、AIを使うことで制作の時間を短縮し、自動的に加工ができる未来を描いている。
「(ナラヤンCEO)AIはクリエイティブの世界を大きく変えます。いまは大量の演算能力を手にすることができるようになったので、頭で描いているアイデアとかさまざまな特徴をよりスピーディーに表現できると考えています」

フェイクのリスクも

こうした加工技術の進化で、不安になるのはフェイク画像やフェイク動画があふれること。誰でも加工できる世界では、その分、映像や画像にリスクがつきまとう。アドビとしてこの問題をどう考えているのか。
「(ナラヤンCEO)フェイク対策はアドビ自身が責任をもって対処していかなければならないと思っています。コンテンツが制作されたらそれが本物なのかを証明しなければならないと考えています。動画や画像をつくった人が誰かということを特定できるようにすること、改ざん防止のテクノロジーに投資をすることで、リーダーシップをとっていきたい」
アドビでは、画像や映像が修正されたものなのか、見破る技術を研究しているという。加工された画像を元に戻す技術も研究し、対応を急ぐ。

人の目では判断ができないものをAIの力を使って痕跡を探し出す手法を使うということで、業界の最大手として一刻も早い実用化が待たれる。

写真を撮影した瞬間から加工ができるアプリも最近では人気を呼ぶなど、変化が激しくなっている編集ソフトの世界。特に若い世代は撮ったものを自分の手で編集する習慣がついている人も多い。

手元で編集作業を行う時代が訪れることで、発信される映像や画像の量も格段に増えていくだろう。気持ちのよいコンテンツがあふれる未来を築けるか、一人一人の発信者の工夫が問われる時代になりそうだ。
経済部記者
野上大輔

平成22年入局
金沢局をへて
現在、経済部で金融業界を担当