東京パラリンピックに期待できない

東京パラリンピックに期待できない
「パラリンピックに出る人たちは『特別』」
「所詮、瞬間的なイベント。時がたてば忘れる」

これは、障害のある人がパラリンピックについてつづった言葉です。

1年後に迫った東京パラリンピックを前に障害者を対象に行われた意識調査の結果が、発表されました。
そこからは、障害のある人たちが感じてきたパラリンピックへの心の距離が見えてきました。
(スポーツニュース部記者 国武希美)

意識調査で思いがけない結果が…

民間の研究機関、障がい者総合研究所は7月、障害のある人たち2000人を対象に、東京パラリンピックについてどのように感じているか、インターネットを通じてアンケート調査を行い、374人から回答を得ました。

その結果です。
「東京パラリンピックを通して障害者への理解が進むと思うか」という質問に対して、▽すべての障害者に対して理解が進むと答えた人は、おととし10月の調査より1ポイント減って12%だったのに対して、▽全く進まないは5ポイント増えて17%、▽あまり進まないは7ポイント増えて33%となり、否定的な回答が半数にのぼりました。
「東京オリンピック・パラリンピックを観戦したいか」という質問に対しては▽両大会とも観戦したいと思っている人が45%いる一方で、▽両大会とも観戦したいと思わないが40%、▽パラリンピックを観戦したいと思わないが11%と観戦に消極的な人がおととしより10ポイント増え、51%と半数を超えました。

広がる心の距離

自由記述欄にあったのはこんな言葉の数々でした。
「結局、パラリンピックに出る人たちは『特別』だから」「所詮、瞬間的なイベント。時がたてば忘れる」
「理解を示しているように見せることに酔っていて実は偏見は消えていない」
「パラリンピックは不自由な生活を余儀なくされ、苦しい生活を送っている障がい者の理解には、残念ながらつながらない」

自分たちはパラリンピックから取り残されているという思いが数多くつづられていました。
調査を行った障がい者総合研究所の戸田重央所長は、結果は、予想よりもはるかにネガティブなものだったと話しました。

そのうえで、「開幕が1年後に迫っても障害者自身が社会にあまり大きな変化を実感できていないことで、逆に現実味を帯びて失望感やあきらめに近い感情になっているのではないか」と指摘しています。

裏切られた期待

障害のある人たちが抱く失望感はどこから来るのか。
東京都内に住む福田美和さんは28歳の時に脳出血で倒れ、左半身にマヒが残りました。生活には車いすが手放せませんが、在宅で仕事をしながら自立して暮らしています。

パラリンピックが東京で行われることが決まった7年前は、どんな風に社会が変わっていくのだろうかとわくわくしたそうです。駅や道路、公共施設などのバリアフリー化工事が行われハード面の整備が進むのを見て、障害者への社会の理解も進むのではないかと期待していました。

ところが、その期待は裏切られました。
例えば、外でトイレを使うときに数10分待たされることは日常茶飯事。

いつも使う駅の障害者用トイレは、30分たつと、外から開けられるようになっています。待ちくたびれた福田さんがドアを開けると、おむつを替えるためのシートに寝転がってスマートフォンを操作している男性や、新聞を読んでいたサラリーマン、お弁当を食べていた人も。

こうした経験はすでに10回以上にのぼるそうです。

福田さんは、「ドアを勝手に開けたことに対して『ちぇっ』と舌打ちされる。こちらが悪かったのかなって思って、悲しいです」と話していました。

タクシーがとまってくれない

街なかでよく見かけるようになったロンドンのタクシーのような背の高いワゴン型のタクシー。

車いすのまま乗れるとして普及が進み、乗りやすくなると期待していました。

しかし、路上でこのタクシーをとめようとしても、一度もとまってくれたことがないといいます。

福田さんは杖をついて歩くこともできますが、立ってタクシーをとめようとするときは、すぐにとまってくれるため、その違いにがく然とするそうです。

パラリンピックは楽しみたいのに…

車いすに乗っていると、突然街なかで知らない人から声をかけられ、その言葉に傷つくこともあるといいます。

「パラリンピックを見た方から、『すごいわねー』って近づいてきて、『あなたも何かやったら、がんばんなさいよ、できるわよ』って。

応援のつもりで言ってくれているのもわかりますが、障害の種類は千差万別です。ちょっと押しつけみたいに感じて」と話す福田さん。
それでも「パラリンピックは見に行きたいし、できれば、みんなと一緒に盛り上がって楽しみたい。心からパラリンピックを応援できるように、ちょっとの優しさを差しのべてくれる社会になってくれたらうれしいなって思うんです」とひとつひとつの言葉をかみしめるように話していました。

アスリートでも感じる距離

障害者アスリートの中にさえ、パラリンピックに距離を感じてきた人もいます。
都内に住む福田彰さんは現在62歳です。

16年前、脳出血で倒れ右半身にまひが残りました。電気店を営んでいた福田さん。倒れた当時、働き盛りで、子どもは中学生。言葉も発することができず、体も動かない。絶望の淵で2年間、引きこもりのような生活を送っていたそうです。

しかし、家族の支えもあって好きだった水泳を再開し、みるみるうちに力をつけ、福田さんは障害者の水泳の全国大会で2度の優勝まで達成しました。

それでもパラリンピックは年齢に加え、自分の障害のクラスでは不利になるため、出場を目指すことはあきらめていました。
福田さんは、「スポーツをする障害者でさえ、パラリンピック選手というのは雲の上の存在。生活で精一杯という人もたくさんいる。パラリンピックが盛り上がってもわれわれの生活は変わらない、と冷めた感情を持っている障害者は多いのではないか」と指摘します。

社会との距離を縮めたい

福田さんは水泳の指導や就職相談などで障害のある人たちと話をする機会が多いそうです。

その中で多くの人たちが社会への失望感や障害者どうしの距離を感じ、それがパラリンピックへの心の距離にもつながっているのではないかと考えるようになりました。

福田さんはひとつのアイデアを思いつきます。それは「障害者も健常者も、誰もが一緒に楽しんでコミュニケーションをとれるような機会を提供すること」です。

そこで目を付けたのが、「卓球バレー」でした。
卓球バレーは、1チーム6人でいすや車いすに座った状態で卓球台の上で音が鳴る球を打ち合うゲームです。

まだまだ一般には知られていませんが、筋ジストロフィーの子どもたちのために考案されたゲームで、子どもからお年寄りまで、障害者も健常者も同じように楽しめるとして、全国に広がり始め、現在、競技人口は国内外で5万人にのぼっています。

誰でも楽しめる卓球バレー

福田さんは2年前から地元で卓球バレーを広める活動を始め、現在はおよそ100人が楽しんでいます。

取材した日は、大会出場を目指す都内の選抜チームが練習を行っていました。

中でもいちばん声を上げて熱中していた左半身にマヒのある女性は、「みんなと会話が出来てチームワークも愛しく思えてこんな私でもスポーツしようかなという気持ちになれた」と笑顔で話してくれました。

足に障害のある会社員の男性は、卓球バレーを「『明日につなぐなにかの架け橋』みたいなもの」と表現します。

さらに、障害のある夫とともに参加した女性は、「こんなに誰でもできるとか、健常者と障害者が一緒のチームでできるとか、やらないとわからなかった。いろいろな人たちと知り合えて本当に良かった」と話していました。

福田さんはこうした場に障害者や健常者にかかわらず多くの人に参加してもらうことで、パラリンピックに対して障害者が抱くネガティブな感情が少しでも薄らいでいけばと願っています。
福田さんは、「卓球バレーで多くの人々がコミュニケーションをとれる糸口がつかめないかなと思っています。でも方法はいろいろあっていい。みんなが少しずつ、少しずつ、世の中が明るく見えるように、ただ、続けていくだけですね」と笑顔で話していました。

ちょっとの優しさを差し伸べる社会を

今回のアンケート結果は「表面的な部分だけを見てわかった気になっていないか」と自分自身の取材姿勢を見つめ直させられるものでもありました。

そして、パラリンピックそのものへの失望感と言うよりは、社会の側に課題があることを如実に映し出しているようにも感じました。
車いすの福田美和さんが、心が折れてしまうような多くの出来事を語っていただいた最後に願った「ちょっとの優しさを差し伸べてくれる社会」。

東京パラリンピックまであと1年あります。そんな社会に少しでも近づいていけるよう、これからも取材を続けていきたいと思います。
スポーツニュース部記者
国武希美