スニーカー “リセール” 市場が熱い!

スニーカー “リセール” 市場が熱い!
「ほしいモノがあったら、徹夜で並んででも手に入れる…」
“物欲(ブツ欲)”などと言いますが、徹夜で並んでもかなわなかった場合(もしくは、そんなことはしたくない場合)、「じゃあ、少し金を上乗せしてでも…」ということもありますよね。

経済ニュースを取材していると、「需給」ということばを耳にします。(「需要と供給」、経済の基本ですね。)いくら安くても、需要(ほしい人)がなければ売れません。逆にほしい人が多ければ、価格はどんどん高くなっていく。そう、株価みたいなものです。

「スニーカー」の世界は、いま、圧倒的に需要が強く、市場がどんどん大きくなっています。特に「リセール・マーケット」と呼ばれるところで、です。有名デザイナー、ミュージシャンらとコラボした「レアもの」には、多くの「スニーカーヘッズ」と呼ばれるスニーカー好きが引き寄せられます。

その本場、アメリカで感じたリセール・マーケットの「熱」と「変化」を、「スニーカーなんて…」と思っている人たちにもお伝えしたいと思います。
(アメリカ総局記者 野口修司)
《「リセール・マーケット」》
メーカー、ブランドが販売した商品を、原則、未使用のまま改めて売る市場。「2次流通市場」、「セカンダリー・マーケット」、「転売市場」とも呼ばれる。人気商品の場合、定価を上回る値段で売れることから、利益となる。

耳を疑う“やり取り”と、目を疑う“値札”

ニューヨーク・マンハッタン南にある「ソーホー」地区はファッションの街。高級ブランドをはじめ多くの路面店があるこの界わいに、リセールのスニーカーを扱う店も数多くあります。その1つ、「Flight Club」に取材に行きました。

「リセール」なんて言うし、ひなびた感じを想像しそうですが、いや、大きい、それに壮観とも言えるディスプレーです。入ってすぐ右が、会計のレジ。
取材を始めようとしていると、ロシア語(?)をしゃべる中年男性が入ってきました。手にはスニーカーの箱。どうやら、ここで買ったが、交換したいようなのです。息子さんにでも頼まれたのか、サイズが違っていた様子…。

「無理です」。店員は、そんなことを言い放ちます。まさに、つっけんどん。お父さんは、つい先ほど買ったらしく、きょとんとしています。次第に、やり取りは険悪に…。

その向こうで、別のお客さんが1足お買い上げです。その時の店員のひと言は、「“ファイナル・セール”よ」。人気のお店ですし、閉店する訳ではありません。その意味は「売り切り」。つまり「返金、交換お断り」です。
なぜか?それは「ニセモノとのすり替え」防止のためだというのです。レシートがあろうが、精算したら、もうそれまで、なのです。店の外に持ち出せば、すり替えも可能だからです。「ホンモノしか置いてない」ことが、こうした店にとっては生命線です。

あ、さっきのロシアのお父さん、新たに現金を手にして何かやっています。どうやら、よけいに金を支払うことで交換にこぎつけたようです。

ここで販売しているスニーカーは「レアもの」ばかり。レジで傍観していると、会計時の金額がトンデモナイことになっています。
「え?これ、1600ドル?(約17万円)」

1足で、です。最近はロシアや中国の人たちの需要が伸び、リセール市場をさらに大きくしています。

毎年2ケタの成長

低成長、低インフレなんてことばは、今のこの市場には全く当てはまりません。
スニーカー業界を分析しているアナリストのジョン・ケーナンさんの調べでは、毎年2ケタ成長。いま、北米のスニーカー市場(定価で売る「1次市場」)は2兆円ほど。

これに対して「リセール」は2000億円程度ですが、2025年には3倍にはなる、という見立てです。いまどき、そんな成長市場、あまりないですよね。

25歳で年商1億円の “転売ヤー(転Buyer)”

成長産業には寵児(ちょうじ)も現れます。ソーホー地区に、4年前に自前の店を持ったジョー・サピアさん(25)は、いまや年商100万ドル(1億円超)のリセール業者です。

このビジネスを始めたのは15歳のころ、懐かしそうに、こう振り返ります。
「高校生になると、よく親に言われたんだよ。『そろそろ、自分のキャリアのことを考えなさい』と。選択肢は2つ。『進学してキャリアを作る準備をする』、もしくは『自分自身でキャリアを作る』ってね(笑)」
お姉さんの友達の、ちょっと年上の兄貴のような“クール”な人たちに憧れ、彼らが身につけるもの、好きなモノを、片っ端から調べ、自分も手に入れたいと奮闘を始めたジョー。

気付けば、余分に入手できたものを、欲しい人に譲ったりして、それで「もうけ」が、でき始めたそうです。きっかけは、今の外見とは違って(笑)、ほほえましいものでした。
「(サピアさん)まさか、ちゃんとした商売をやっているなんて、その時は自覚もしてなかったけどさ(笑)」
事業を広げ、できれば北米とオーストラリアで5店持ちたいそうです。

無視できなくなってきた成長市場

ルイ・ヴィトンやグッチといった高級ブランド店の前を通りかかると、「スニーカーが多いなぁ」と感じることがあります。ニューヨーク5番街の路面店もそうでした。高級ブランドなのに、カジュアル路線をかなり意識しています。

それはまた、冒頭で書いたように、大手スポーツブランドとコラボスニーカーを作るデザイナーを、その後、起用していたりするところにも見て取れます。
同じソーホー地区にあるリセール店「Stadium Goods」。開業から5年足らずですが、去年、ルイ・ヴィトンの出資を受けて業界を驚かせました。

創業者で、いまもCEOを務めるジョン・マクフィータースさんは、明快にその理由を語ってくれました。
「10年、いや15年前だったら、ヴィトンのような高級ブランドを求める人とスニーカーを欲しがる人って、明らかに違っていた。それが、だんだん一緒になってきたんだと思うよ。だからこそ、ヴィトンもウチに出資することによって、新しい購買層を見つけられたんだと思う。そういう市場になってきているんだ」
取材していると、「もう1つの理由」みたいなものも見えてきました。それは「魅力的な購買データ」です。

例えばAというブランドは、自身の顧客がBのブランドのどんな商品を買っているか、直接知ることはできません。リセールでは、それが可能です。つまり、業界を横断する横串のような情報です。

顧客の好み、流行の兆し、それらがリセールという「何でもあり」の市場では、極めて効率的に入手できるという訳です。
先日、ネットでのリセール販売では知られた「Stock X」で、不正アクセスによって680万人分の顧客データが流出した可能性があることがわかったそうです。出るところに出れば、よだれの出るようなモノなのでしょう。

成長市場の行き先

限定品が売り出された日は、それを(おそらく)徹夜で手に入れた人たちが、ここに紹介してきたリセール店の裏口(笑)に再び列を作ります。定価の何倍もの流通価格になれば、ぬれ手にあわとは言いませんが、大きな利益です。

「真贋(しんがん)」という最大の障壁さえ越えられれば、買い求める人はあとを絶ちません。爆発的に成長するマーケットが、どう変化していくのか。プレーヤーがどう増えていくのか。

あまりハマらない程度に(苦笑)、見ていきたいと思っています。
アメリカ総局記者
野口修司

平成4年入局
政治部、経済部、
ロンドン支局などをへて現職