ノート対ペン “文房具戦争”の背後には?

ノート対ペン “文房具戦争”の背後には?
「キャンパスノート」に「サインペン」。皆さん職場や学校で1度は手にしたことがあるのではないでしょうか。これらの文房具を作っているメーカーどうしがなぜか今、対立しています。取材を進めると、恋愛ドラマ顔負けの大人たちの複雑な事情があるようです。(大阪放送局記者 谷川浩太朗)

老舗文具メーカーのラブコール

子どものころから慣れ親しんだノート、「キャンパスノート」。大阪 東成区に本社がある文房具メーカー、「コクヨ」が昭和50年に販売を開始したロングセラー商品です。
このコクヨがラブコールを送っている会社があります。東京に本社がある筆記具メーカー「ぺんてる」です。サインペンや筆ペン、それにノック式ボールペンなどの製品で知られる会社です。
コクヨからのラブコールは株式の取得という形で突如表面化しました。5月10日、コクヨが突然、ぺんてるの株式のおよそ37%を保有する投資ファンドに101億円を出資し、実質的にぺんてるの筆頭株主となったことを発表したのです。

いきなりの筆頭株主。人間に置き換えても、ちょっと強引なような気もします。

コクヨの悩み

なぜコクヨがこうした対策に打って出たのか?それには理由がありました。

コクヨは年間の連結の売上高が3000億円を超える文房具業界の最大手です。しかし、国内市場は人口減少に加えてオフィスのデジタル化が進み、市場の縮小という課題に直面しています。

海外での販売展開に活路を見いだしたいところですが、コクヨの海外売上高は全体のおよそ7%。中国やインドを中心に、販路を広げていますが、世界展開をはかるにはまだまだ時間がかかると悩んでいました。

ぺんてるの反発

一方、ぺんてるは海外売上高の比率は65%余り。アメリカやヨーロッパを中心に、強固な海外販路をもっています。

ぺんてるは売上高がおよそ400億円とコクヨの8分の1程度の会社なのですが、かつて「サインペン」の販売を開始したときに、アメリカのジョンソン大統領が書き心地に感激したというエピソードがあり、これをきっかけに海外事業が急成長したという、グローバル企業なのです。
コクヨの株取得に対して、ぺんてるは猛反発。事前に連絡なく、突然株式を買われたとして、ホームページで「当社は今後とも、創業来の独立性を堅持する」というコメントを掲載したほどです。

熱い思いと募る不信感

コクヨからすると自社が強みをもつノートやルーズリーフなど「書かれるもの」とぺんてるの強みの「書くもの」の筆記具は商品の重複がなく、理想的な提携先だと考えています。

7月の決算会見の場で、ぺんてる株の実質的な筆頭株主になって初めて公の場に現れたコクヨの黒田英邦社長は、良好な関係や提携の利点を強調しました。
「提携に向けて前向きに話し合いを進めている。同じ文具メーカーだが、紙と筆記用具で商品は全く異なるうえ、ぺんてるは幅広く海外への販売チャネルを持っている。両社の強みを生かせば、海外事業などでウィンウィンの関係を構築できる」
一方、ぺんてるの反発姿勢は変わっていません。8月20日のNHKの取材に対してぺんてるは次のようにコメントしています。
「今回のファンドを通じた出資について、コクヨ側から事前の説明がなかったことは遺憾だ。現時点で業務提携などの協議は実施しておらず、当社として有益かどうか判断する段階にはない」

第3のライバルも登場?

さらに両社の関係を複雑にしているのは第3のライバルの存在だと業界ではうわさされています。関係者によると実はぺんてるは、コクヨに次ぐ業界2位の文房具メーカー、「プラス」との提携を模索していたというのです。
プラスとコクヨは文房具やオフィス用品の販売でライバル関係にあります。両社のアルファベットをとって「PK戦争」とも言われるぐらいです。

コクヨにとってみれば、提携したいぺんてるがプラスと接近すれば、競争上不利になってしまう。それなら一気に株式の実質的な取得という、荒っぽい手法に出よう、こう考えたのではないかとの見方も浮上しています。

海外戦略や国内市場シェアの確保。企業の生き残りにかける熱意は予想を超えた行動につながることがあるようです。コクヨ、ぺんてる、プラスの行動は文房具業界の再編につながるのか、注目していきたいと思います。
大阪放送局記者
谷川浩太朗

民間企業に5年余り勤めたあと平成25年にNHK入局。
沖縄局を経て、去年から地元・大阪で経済取材を担当。