「借金でがんじがらめは嫌」 アフリカに広がる中国の光と影

「借金でがんじがらめは嫌」 アフリカに広がる中国の光と影
「いくらでも貸してくれると言うから、たくさん借りてしまった。
でも、その結果、何でも言うことを聞かないといけなくなるとまでは思わなかった」
決して穏やかではない、こうした状況。個人としても大変ですが、それが国レベルでも起きていたらどうでしょうか。
「債務のわな」にはまってしまうのではないか、という不安が広がっているアフリカの国々。その借金の相手は、中国です。
(ヨハネスブルク支局長 別府正一郎)

どこを見ても中国

アフリカ南部の大西洋に面したアンゴラ。
かつてはポルトガルの植民地で、街角のラジオからは陽気なラテン音楽が大音量で鳴り響きます。
しかし、首都ルアンダを車で走ると、この国で大きな影響力をもつ別の国の存在が明らかになります。
中国です。
幹線道路で次から次に目に飛び込んでくる中国語の看板。
建設業や運送業、食材販売までありとあらゆる業種の中国企業の広告であふれています。
中国企業の問屋街では、多くの中国人が働いていました。
口々に「アンゴラの生活は気に入っているよ。商売繁盛だ」と話していました。

都市まるごと中国製

中国の進出で特に際立っているのが、道路や港などの大規模なインフラ建設です。
その象徴となっているのが、首都から30キロ離れた郊外に誕生している新都市です。

5000ヘクタールの敷地にそびえたつ700棟の高層マンション。
学校やライフラインも整備され、7万人が暮らす一つの都市がまるごと中国によって建設されています。
アンゴラで長年続いた内戦は2002年に終結しましたが、まだ混乱が続く2008年、中国政府が全額を融資して、450の中国企業が工事に乗り出しました。

今後さらに拡張され、将来的には20万人が暮らす予定です。
住民のひとり、エンジニアのオクタビオ・サンバさん(39)は、6年前に妻と5人の子どもと移り住んできました。

120平方メートルの3LDKを日本円でおよそ800万円で購入。
20年の住宅ローンで返済するといいます。
「中国のおかげで、マイホームを持つという夢がかなった」と喜んでいました。

膨れあがる借金

しかし、こうしたインフラ建設はタダではありません。
建設費はあくまで借金で、新都市の総事業費の350億ドルにしても、アンゴラ政府は中国に返済していく義務があります。
中国のアフリカでの融資の実態について公式な統計は公表されていませんが、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学の研究グループでは、2000年から2017年にかけて、中国政府や政府系の金融機関が、アフリカ各国にあわせて1430億ドル(約16兆円)を融資したとする調査結果をまとめています。

中国は、資源が豊富で、人口が急増し消費市場としても有望なアフリカを巨大経済圏構想「一帯一路」に取り込もうと、この20年、惜しみなく金を注ぎ込み続けています。

この中でも最も多額の融資をしてきたのが、アンゴラです。
その額はおよそ430億ドルに上ります。

借金の担保は原油

それにしても、そんなに貸し付けても心配にならないのでしょうか。
実は、そこには大きなからくりが用意されていました。

アンゴラへの融資で、中国は多くの場合、担保として原油を押さえています。
アンゴラはアフリカでも有数の産油国です。
むしろ、輸出の95%を原油が占め、原油以外は輸出できるものがないような国です。
この唯一ともいえる資産で、借金の返済を保証させているのです。

しかも、今は原油価格が下がっているので、返済にはより大量の原油が必要となっています。

中国にしてみると、融資した資金は、インフラ建設を受注した中国企業に還元される上に、原油も手に入るという仕組みなのです。
地元大学の経済学者のカルロス・ロザド氏は「完全に中国に有利な仕組みで、アンゴラ政府はどうしてこんな不利な融資条件にサインしたのか信じられない気持ちになる」と話していました。

国民を顧みない借金

そうした契約に次々にサインしてきた人物が、独立後、アンゴラで40年近く長期政権を維持したドスサントス前大統領です。

もともとはポルトガルからの独立運動の闘士でしたが、長期政権が続く中、親族で権力を固め、アンゴラは“アフリカで最も腐敗した国”とまで言われるようになりました。
首都ルアンダの中心部では、1泊500ドルもする超高級ホテルが建ち並び、海岸沿いでは欧米のブランドに身を固めた若者がジョギングしていますが、車で10分も走れば、トタン屋根のスラム街がどこまでも続いています。

3人に1人は貧困層

借金の返済によって、国の財政がひっ迫する中、アフリカ有数の産油国でありながら、国民の3人に1人は1日1.9ドル以下の収入で暮らす貧困層です。
インフレで物価も上がっていて、暮らしは厳しくなる一方です。
スラムの住民は「中国の投資は自分たちに何の恩恵ももたらしていない」と話していました。

変わり始めた風向き

こうした批判に対して、中国側は、アフリカを「債務のわな」に陥れるつもりはないと反論し、中国の融資は「アフリカの指導者に歓迎されている」として正当化しています。

それでも今、アンゴラでは少しずつ中国との向き合い方を見直す動きが出ています。

ドスサントス前大統領は、さすがに長期政権にほころびが出て、2年前、とうとう退任に追い込まれました。
その後、新たに就任した今のロウレンソ大統領は改革を掲げています。

中国企業が担っているルアンダの主要駅の工事現場を訪ねると、工事が完全に止まっていました。
ロウレンソ大統領が、この駅や新空港の建設について、中国企業が行っている建設の事業費が不透明で膨らみすぎているとして見直しを命じたということです。

日本への期待の声も

こうした中で、アンゴラ政府からは、日本に期待する声が聞かれました。
政府の投資促進機関のリシノ・バスコントレイアス会長は、インタビューで「アンゴラは、融資や投資を受け入れる相手を多角化したい」としたうえで、「そこで、ぜひとも来てほしいのは日本だ」と述べました。
日本も、アンゴラの政権が変わった今、チャンスを見いだそうとしています。

ことし5月には、河野外務大臣がルアンダを訪問し、投資環境の整備に向けて協力していくことで一致しました。

また、南部の港では、日本の国際協力銀行などが融資して、今後、日本企業が拡張工事に乗り出すことになっています。

日本はどうするの?

しかし、こうした動きはまだまだ始まったばかりです。
河野大臣の訪問にしても、日本の外務大臣としては実に17年ぶりのことでした。

中国と肩を並べて競っているような状況とは程遠いのが現状で、アフリカの現地では、圧倒的な存在感の中国に比べて、「日本人を見たことがないが、どこにいるのだ?」という声をしばしば聞きます。

アンゴラと同じように中国への借金が多いザンビアの野党指導者は、インタビューで「中国の融資は略奪的だ」と批判しながらも「経済発展のためのインフラ整備は必要だ。でも、日本人や企業は来るのか?」と問いかけてきました。
日本では、今月28日から30日まで、日本のアフリカ外交の柱となっているTICAD=アフリカ開発会議が横浜市で開かれ、アフリカ各国の首脳らが参加する予定です。

アフリカで中国への見方に変化が出ている今こそ、日本の存在感を高める重要な機会です。

それだけに、日本が資金だけではなく、人と人の関係も含めて、どれだけアフリカに関与して巻き返していくのか、その本気度も試されることになります。
ヨハネスブルク支局長
別府正一郎