67歳でも飛んでます! 人気職種もいまや…

67歳でも飛んでます! 人気職種もいまや…
ある職場を訪ねてみると、「高齢者」や「外国人」がずらり。中には、67歳で現役ばりばりの人まで。でもそこは、慢性的な人手不足に悩む運送やサービスなどの現場ではありません。

その職場とは、今も昔も人気職種「パイロット」です。この業界も人手不足の危機に直面していました。このままでは将来、飛行機の便が減ったり、最悪、飛んでこなくなったりするおそれもあるようです。今回は、パイロットの人手不足の危機、取材しました。

(社会部記者・渡辺謙)

67歳 日本最年長のパイロット

「腹筋、背筋、ランニングマシーンをそれぞれ1時間はやります」

筋トレメニューを説明してくれたのは67歳の現役機長、川本行夫さん。体調管理には人一倍、気をつかっています。

宮崎市に本社を置く航空会社「ソラシドエア」に勤務していて、日本最年長の機長のひとりです。

詳しいデータがないので定かではありませんが、航空会社の機長としては、ひょっとすると世界でも最年長の可能性さえあります。
川本機長はもともと日本航空に入社し、パイロット歴は45年。最初に取得した免許は、ダグラスDC8型機。その後、B747型機、B777型機などに乗り、国際線も飛んでいました。

退職後、今の会社に誘われ、羽田空港と各地を飛び回る、現役ばりばりの機長です。

60歳以上の機長が380人超

こうしたケース、実は珍しくありません。川本さんに話を聞かせてもらおうと会社を訪ねるとー。

川本さんは2人の新人たちの訓練を見学していました。

その新人たちはなんと2人とも65歳。

実は、この会社では機長のおよそ5人に1人が65歳以上。さらに、およそ3人に1人が60歳以上の機長です。

でも、こうしたベテランや超ベテラン機長を積極的に採用しているのはこの会社だけではありません。国内の主要航空会社では65歳以上の機長は75人。60歳以上になると381人もいて、実に機長全体の1割近くを占めています。

パイロットって何歳まで?

いったい、パイロットは何歳まで飛び続けられるのか?本当に大丈夫なのか?と思っている人も多いかと思うので、調べてみました。

パイロットの年齢の上限は国によって違い、日本の場合は68歳未満。ちなみにICAO=国際民間航空機関が定めている上限年齢は65歳未満。日本は国際標準を3歳も上回っていました。

ただ、国は厳しい条件をつけています。そもそもパイロットは年に1回の身体検査が義務づけられていますが、60歳以上は、それが年2回に。より精度の高い心電図などを調べる検査も義務づけられます。

65歳以上になると、さらに厳しい身体検査が課されます。これらの試験にパスし続けられる人はほんの一握りで、誰でも飛び続けられるわけではないようです。

このため国内のLCCなどでは超ベテランパイロットの「争奪戦」ともいえる状態が起きているのです。

高齢機長 争奪戦に

なぜ、ここまで厳しい条件を課せられた、世界的にも異例とも言える超ベテラン機長を採用しているのでしょうか。

ソラシドエアの担当者は次のように話してくれました。
「航空需要が増え、どの航空会社もパイロット確保は年々難しくなっている。『即戦力』である高齢機長がいなければ、日々の運航を続けるのは難しくなっている」
こうした状況について、国土交通省の担当者にも聞いてみました。
「年齢の引き上げは航空各社からの要請で徐々に緩和されてきたが、会社からはもっと引き上げるのはどうかと要望が出ている。それだけパイロットがひっぱくしていると思われる。ただ病気のリスクなどがあるため、現状ではこれ以上の引き上げは検討していない。これまで日本では高齢パイロットが原因の事故は起きていません」
どうやら日本の空は大手を除くと、もはや超ベテラン機長がいないと、路線の維持が難しい状況に陥っているようです。

空の世界も救世主は“外国人”

さらに、この業界でも、救世主として期待されているのが「外国人」です。

関西空港を拠点にするLCC、「ピーチアビエーション」。空港での乗務前のブリーフィングでは英語が飛び交います。

コロンビア人のヴァネガス アンドレスさん(48)は、9年前に来日。コロンビアやスイス、国内の航空会社で乗務をした経験を持つ、ベテラン機長です。現在は国内線と国際線での乗務のほか、訓練部門の一員として、若手の教育も担当しています。
この会社では、現在は10か国以上30人あまりの外国人パイロットが勤務しています。
運航本部の那波俊之副本部長は、外国人パイロットの採用についてこう話しています。
「経験豊かなパイロット、貴重な即戦力で欠かせない。日本人のパイロットを確保するのが航空会社間で競争が激しくなっていたので、スタート時から、外国人パイロットに視野を広げて獲得作業を続けてきた」
こうした状況はこの会社だけではありません。

成田空港を拠点にするLCC、「ジェットスタージャパン」では、外国人がパイロットのおよそ1割を占めています。
海外のジェットスターグループの外国人パイロットが入社しやすい制度も作り、積極的に採用を進めています。

運航本部の松倉弘明業務部長はその理由を次のように話しています。
「路線を拡大していく中で、外国人パイロットは絶対に必要であり、世界にあるグループという企業メリットを生かして、外国人パイロットをしっかりと確保していく」

国も“外国人”採用を後押し

国も、外国人パイロットの採用を後押ししていて、4年前には外国人パイロットの在留資格の要件を緩和。飛行経歴・1000時間以上から、250時間に大幅に短縮しました。

こうしたこともあり、今では、日本の航空会社で働く、外国人パイロットは481人にのぼり、パイロット全体の7%を占めています。

もはや外国人パイロットなしでは、毎日の運航が維持できない会社もでるほど、その存在感を高めています。

ところが、その外国人パイロットも集めにくくなっている現状があります。世界的にもパイロット需要が高まっていて、中国などでは、日本より給料が高く条件がいい航空会社も少なくなく、争奪戦になっているといいます。

国土交通省の担当者も、こう懸念を漏らしています。
「これまでは日本人が集まらなければ外国人で補充するという流れだったが、世界的にパイロット需要が高まっていて、日本を選んでもらうのは難しくなってきている」
まるで、未来の日本における外国人労働者を占うような現象がすでにパイロット業界では起きているようです。

機長養成には10年程度 費用1億円超

では、なぜ、人気職種のパイロットが、人手不足の危機に直面しているのか?

日本ではこの10年間に、LCCなど5社の航空会社が誕生し、運航便数も1.3倍に増えました。

それに伴って、当然、必要なパイロットの数も増えますが、実は、パイロットの養成には多くの時間と費用がかかります。

副操縦士として乗客を乗せて飛べるようになるまでに3年。さらに機長になるまでは10年程度かかります。また、機長1人を養成するのに、1億円以上かかるという試算もあります。

大手以外でも自前でパイロットの養成を始めていますが、早いところでも養成を始めてまだ5年。去年、ようやく自社養成した初めての副操縦士が誕生した段階です。

つまり、急増する航空需要に養成が追いついていない状況で、大手以外では、即戦力の「外国人」や「高齢者」の機長が不可欠の状態になっているのです。

年間400人前後の新規採用なければ運航維持困難も

ちなみに国の試算では、2020年に年間380人、30年には年間430人の新たなパイロットの採用をしなければ、航空各社の運航が維持できなくなるおそれがあるというデータもあります。

本当にそうなると、飛行機の便が減ったり、最悪、飛んでこなくなったりするおそれもあります。

航空各社や国などは若手パイロットの養成に力を入れていて、少しずつではありますが、そのすそ野も広がってきています。知っているようで知らないパイロットの人手不足の危機。引き続き取材し、お伝えしていきます。