データでわかった!いま人気の山と思わぬ落とし穴

データでわかった!いま人気の山と思わぬ落とし穴
夏山シーズン真っ盛りですが、皆さんは登山と言えばどんな山を思い浮かべますか?
富士山や北アルプスなどなど魅力的な山はたくさんありますが、実はいま、登山者が多く訪れているのは、こうした有名な山だけではないんです。
登山をする人たちの間で急速に普及が進む「登山アプリ」。その利用者の行動記録を集めたビッグデータを分析すると「新たな山の楽しみ方」や「登山での思わぬ落とし穴」が見えてきました。

(ネットワーク報道部ディレクター 三宅明香・紅林隼 NHKグローバルメディアサービスディレクター 市川隆・森義久・福島百合恵 映像センターカメラマン 小柳一洋・岡部馨 大阪局カメラマン 鳥越佑馬)

普及が進む「登山アプリ」

最近、多くの登山者が利用している「登山アプリ」。
スマートフォンの地図上に、予定の登山ルートや実際に登った道を表示したり、利用者どうしが「登山記録」を共有できるアプリもあります。その便利さから利用者は年々増加しています。

データでわかった!「いま人気の山」

そこで、登山アプリの利用者がどこの山を訪れているのか調べてみました。
こちらは、登山アプリの「YAMAP」の延べ150万人の利用者の位置情報をもとに、どの山にどれくらいの人が訪れたのかを集計したグラフです。
去年1年間に訪れた人が多かった山を見ると、著名な山だけでなく聞き慣れない低い山も。上位100位のうち、標高1000メートル以下の山が31に上りました。なぜ低い山も人気なんでしょうか?

多くの登山者が“低い山”に その魅力とは?

9位にランクインした東京・青梅市の「御岳山」を訪ねました。
関東平野を見渡せる標高929メートルの御岳山。
ここを訪れた人に話を聞くと、意外な答えが返ってきました。
「頂上は目指しません」
「頂上は目指すものなんですか?」

せっかく山に来たのに「頂上に行かない」とはどんな登山なんでしょう?


立ち寄った先はどこ?

立ち寄った先をデータから調べてみると…。
▽気軽に沢沿いの岩場を歩いて自然を満喫できる「ロックガーデン」、
▽森の妖精と言われる「レンゲショウマ」の群生地、そして、
▽参拝者の宿泊施設「宿坊」が立ち並ぶ場所など、
登山者が話していたとおり、山頂以外にも多くの人が訪れていたことがわかりました。
このうち「宿坊」は、もともと、修験の山として知られる御岳山に参拝に訪れた人のための宿。
質素で倹約、精進料理が出されるのでは?というイメージがありましたが、そこには旅館と遜色ない部屋。多くの地元産食材を使った料理も提供していました。
最近は家族連れも多く訪れるなど宿泊者が年々増えているそうです。
宿坊の宿泊者の中には、滝に打たれに来たという人もいました。この日、滝行を体験した人の中には、主婦や女性会社員の姿も。
気軽に非日常の世界を体験したり自然を満喫できたりするのも、この山の魅力のようです。
全国の低い山の魅力を伝えている「低山トラベラー」、大内征さんに聞いてみると「登山の途中に歴史のロマンを感じられる神社・仏閣があったり、街の近くにありながら非日常を感じられたりする『ほどよさ』があるのが低山のだいご味。こうした新たな山の楽しみに魅力を感じた人たちがSNSやアプリで発信し、共有されることでさらに人気が広がっている」とのことでした。

思わぬ落とし穴!低い山でのリスクが浮き彫りに

一方、登山アプリのデータの分析を進めると、気軽に登山を楽しめそうな低い山に思わぬリスクもあることがわかってきました。
登山アプリ「ヤマレコ」の利用者が公開している過去2年分の投稿を調べると、「道迷い」に関連したワードを含んだ投稿が870件もありました。
このうち実際に「自分が道に迷ってしまった」というケースは271件に上りました。
こうした「道迷い」はどこで起きているのか。地図に可視化してみると、関東や近畿など都市部に近い山で多く起きていました。そして、全体のおよそ7割は標高1000メートル以下の低い場所で起きていたこともわかりました。

投稿内容から、こうした「道迷い」では幸い大きな事故や遭難に至らずに済んだケースがほとんどでしたが、これまで山岳遭難の統計にも現れてこなかった「低い山でのリスク」が、データから浮き彫りになりました。

低い山で道迷い なぜ?

なぜ、低い山では道に迷いやすいのでしょうか。
低い山で道に迷い、その体験をアプリに投稿した男性とともに、現場を訪ねました。
向かったのは神奈川県の三浦半島にある、通称「三浦アルプス」。
市街地からすぐの場所にあり、標高がわずか200メートル前後の山々です。
なぜこのような場所で道迷いが…?
この男性は当初、青で示した地元の協議会が推奨する「主要ルート」を通る計画を立てていました。ところが…、実際には沢などに通じる黄色で示した誤ったルートに入ってしまいました。
なぜ道を間違えてしまったのか。
周辺を見渡すと、林道や山菜採りの道、それに作業用の道など、多くの道が混在していました。分岐点も至るところにあり、男性は進むべきルートを見誤ってしまったのです。
低い山では多くの道が混在するケースが少なくありません。さらに、土地の権利関係が複雑などの理由で、そもそも登山道が整備されづらいという背景もあるようです。
むしろ低い山だからこそ、道迷いが起きやすいリスクもあるのです。

道迷いの情報を共有へ

この男性だけでなく他の多くのアプリ利用者が歩いたルートのデータを重ねると…。青色の「主要ルート」から外れたたくさんの「道」が、オレンジ色の線として描き出されました。

男性は今回、「低い山でのリスク」を多くの人と共有したいと考えて、みずから「道迷い」の経験をアプリに投稿したと言います。
登山アプリを運営する的場一峰さんは「道迷いが起きやすいという『低い山のリスク』が今回、見えてきた。こうしたリスクをアプリの利用者どうしで共有して、安全な登山につなげてほしい」と話しています。

低い山に潜むリスク 安全に登山を楽しむには

便利な登山アプリなどが普及し低山を楽しむ人が増える一方、見えてきたリスク。
登山をするうえでどのような準備と心構えが必要なんでしょうか。
日本山岳レスキュー協会の事務局長も務める山岳ガイドの島田和昭さんに聞きました。
島田さんは「どんなに標高の低い山でも便利なツールだけでなく、最低限の装備として、コンパス、地図、ライト、非常用のレスキューシートなども携帯することが大切だ」と装備の重要性を指摘します。そして、「自分の身の丈に合った登山をすること、常に道迷いや天候の急変のリスクを念頭に危機感を持って山に入ることが大切だ」と話しています。

山でのスマホ利用の注意点

道迷いや遭難してしまった場合、携帯電話やスマートフォンがあれば安心というわけではありません。

アプリを使う場合は、ふだんよりもバッテリーの消費が大きいので、携帯バッテリーを持っていくことも必要です。

また、山の中では見通しのよい尾根筋や山頂付近以外では携帯電話は圏外になってしまうことが多く、遭難してしまった場合、居場所が特定されにくくなるというリスクも高まります。
そうした中、「ココヘリ」という小型発信機の利用も広がっています。
福岡市の会社が運営する会員制の山岳捜索ヘリサービスで、登山者が遭難した場合、重さ20グラムの小型発信機から発せられる電波をヘリコプターが受信し居場所を特定するものです。
発信機は一度の充電で約3か月間、電波を発信し続けることができ、提携している民間ヘリコプター6社のほか、全国33都道県の警察航空隊や防災ヘリでも受信機を導入しています。

準備は万全に リスク知って楽しい登山を

今回の取材で見えてきたのは、低い山でも一歩足を踏み入れればそこには山のリスクが潜んでいるということ。
最新の山の情報を入手し、しっかりとした計画を立てる、そして持ち物もきちんとチェック。
魅力ある低山を大いに楽しむためにも、ぜひ安全第一でお願いします。

このテーマについては、8月12日(月)の「おはよう日本」の特集でもお伝えします。