5年間で35人死亡 対策進まない“危険な踏切”

5年間で35人死亡 対策進まない“危険な踏切”
「亡くなってからでは遅いと思うんですよね。もう誰の命もなくなってほしくない」
去年6月、29歳の女性が「ある踏切」で事故に遭い、この世を去りました。事故から1年余り。女性の夫は「事故は防げたのではないか」という思いを持ち続けています。調べてみると、同様の踏切では全国で事故が相次いでいますが、改善が進んでいない実態がありました。(佐賀放送局記者 内田皓大)

早すぎる別れ

福崎美紀さん、29歳。夫の大智さんと生後10か月の娘と3人で暮らし、仕事に復帰したばかりでした。娘の成長を何よりも楽しみにしていたといいます。
そんな幸せな日々が一変したのは、去年の6月16日。仕事を終え、いつものように保育園に車で娘を迎えに行く途中、踏切で列車と衝突したのです。現場に駆けつけた大智さんの目に飛び込んできたのは大きく壊れた車でした。
「自分の子どもを残して旅立ってしまうというのはすごく悲しいことだと思います。空から見ているだけではなく、抱きかかえたい、抱き締めてあげたいと絶対言うはずです」

警報機も遮断機もない踏切

踏切というと、警報機の音とともに遮断機がおりてくるものを思い浮かべると思います。こうした踏切を「第1種」踏切といいます。

一方、事故が起きた、佐賀県小城市の踏切は“警報機も遮断機もない”「第4種」と呼ばれる踏切でした。美紀さんは、ふだん通っていた遮断機のある踏切の道の手前に農作業の車が止まっていたことから、初めてこの踏切を通ったとみられています。
ここは特急も通る複線区間で、多いときにはおよそ5分に1本のペースで列車が通ります。現場に足を運んでみると、踏切の幅はおよそ2メートルしかなく、坂になっているため一時停止線までの距離もつかみにくくなっています。
また、線路に沿って立つ電柱が何本も重なって視界が遮られ、接近する電車が見えにくくなる場所もありました。少し離れた場所に警報機のある踏切もありますが、車のエンジン音などでかき消されてしまう可能性もあると感じました。

地域特有の事情も

この踏切では、平成9年以降、車やミニバイクが関係する事故が3件起きていました。JR九州は、道路を管理する小城市に廃止などを要請していたということですが、対策はとられませんでした。

背景には、地域特有の事情があります。九州有数の穀倉地帯・佐賀平野の西側に位置する小城市、現場の踏切の両脇にも田んぼが広がっています。農家の人がトラクターや田植え機などを移動させたり、住民が行き来したりするのに、踏切は欠かせないというのです。

市は、生活道路として利用する住民がいる以上、住民の理解を得ずに踏切を廃止するのは難しいといいます。一方で、利用者は限られていて、数千万円の費用がかかるとされる遮断機などの設置には、鉄道会社も消極的です。

5年間で35人が死亡

全国には2726か所の第4種踏切があります(平成29年度末現在)。国土交通省によると、平成27年度までの5年間の平均では、100か所当たりの事故件数は第1種と比べ1.4倍と高く、「高速道路で信号のない横断歩道を渡るようなもの」とも例えられます。

相次ぐ事故を受け、国の運輸安全委員会は、第4種踏切の死亡事故について、平成26年度から調査を始め、ことし2月に調査結果をまとめました。

この5年間に起きた事故で亡くなったのは35人。このうち、去年9月、自転車に乗っていた小学4年生の女の子が亡くなった広島県福山市の踏切では、その前の年にも死亡事故が発生するなど、複数の踏切で繰り返し事故が起こっていました。

運輸安全委員会は「安全確認を踏切の通行者の注意力のみに求める安全対策には限界がある場合もある」と指摘しました。

急がれる対策

美紀さんの事故を受け、小城市はポールや看板を立てて農繁期以外は車が通れないようにする緊急の対策をとりました。広島県福山市の踏切でも、ことし2月に警報機や遮断機が設置されました。しかし、危険な踏切はまだ全国各地に残っています。

鉄道の安全対策に詳しい関西大学社会安全学部の安部誠治教授は、踏切を個別に評価して危険性の高いものを把握し、優先順位をつけて対応にあたるべきと指摘します。
「5、6年に1件くらい重大な事故が起きている踏切は何らかの改良措置をするべきだと思う。鉄道会社は施設の改善をする必要がある。自治体は自分たちが主導して、地域の人にも入ってもらい、多少不便だけど廃止、廃止ができなければ別の安全対策ということをしていく必要がある」
運輸安全委員会も、危険性の高い踏切について、鉄道事業者や地元自治体に、早急に対策をとるよう求めています。

もう誰の命もなくなってほしくない

最愛の妻を失った大智さんは、国や自治体、鉄道会社は踏切の安全を向上させる義務があるのではないかという思いを持ち続けています。今回取材を受けてくれたのも「自分が声をあげることで同じような事故を防ぎたい」という思いからです。
「亡くなってからでは遅いと思うんですよね。亡くなる前に対策するから安全なんですよね。ことが起こって命がなくなってしまったあとに対策したところで、遺族は苦しいだけです。地域や県や国を巻き込んで安全面に力を入れていけたらと本当にそう思っています。もう誰の命もなくなってほしくない」
ことし5月、小城市の事故現場を訪れた人がいます。14年前に踏切事故で母親を失った横浜市の加山圭子さんです。
母親の事故のあと、全国のさまざまな鉄道事故の現場をみずからの目で確認し、毎年、国に安全対策を求める活動をしています。

癒えない悲しみを抱えながら、それでも同じ思いをする人が出ないでほしいという思いで声をあげ続ける遺族たち。こうした声を受け止め、踏切の安全について抜本的に考え直す必要があると思います。
佐賀放送局唐津支局記者
内田皓大

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