せめて“猛暑”のままで 温暖化対策の新技術とは

せめて“猛暑”のままで 温暖化対策の新技術とは
「猛暑」「災害級の暑さ」。ことしも厳しい夏となっていますが、猛暑どころか、最高気温40度以上の「激暑(げきしょ)」が当たり前になると警告する動画がネットに公開されています。訴えているのは地球温暖化。温暖化で何が起きるというのか、そして始まった新たな技術開発の現場を取材しました。(社会部記者 杉田沙智代)

40度以上が当たり前に?

ネット上の天気予報は2100年8月。気象キャスターが伝えます。
ことしもほぼ全国で40度を超える激暑となりました。各地のことしの最高気温は、名古屋で44度1分、東京で43度3分、北海道の札幌でも40度5分を記録しています。熱中症などで亡くなった人は1万5000人を超えました
これは、環境省が制作し、7月に公開した「未来の天気予報」です。地球温暖化が今のペースで進んでしまったら、どんな夏になるのか、その予測を伝えています。

気象庁が「猛暑日」という用語を定義したのは2007年。最高気温が35度を超える日が相次いだためでした。今度は、40度以上を「激暑」と呼ぶのが当たり前になる時代が来るかもしれないというのです。

世界が注目する気温が

この天気予報、よく見ると、次のような見出しが表示されています。

『「1.5℃目標」未達成』
「1.5℃」実はこれ、温暖化対策を迫られる世界各国で、今、共有されている気温です。きっかけは、去年10月に発表された報告書でした。
「1.5℃ 特別報告書」
IPCC=「気候変動に関する政府間パネル」という、世界の科学者などが参加する国連の専門機関がまとめました。報告書は次のような予測を示しています。
『世界の平均気温は、2017年時点で、産業革命前に比べておよそ1度上昇していて、このまま二酸化炭素などの温室効果ガスの排出が続けば、早ければ2030年に1.5度上昇し、異常気象がさらに増加する。しかし、2度上昇するのに比べれば、生態系などへの影響は低い』
1.5度と2度の違いなんて、わずかなものに感じてしまいます。

しかし、例えば、さんご礁は1.5度上昇すると70%から90%失われると予測されているのに対して、2度の場合は99%以上、ほとんど消滅してしまうとしています。

温暖化の原因を回収する?!

温暖化をせめて「1.5℃」に抑えることが、世界の共通目標になりつつあります。

日本は、ことし6月に長期戦略をまとめ、今世紀後半のできるだけ早い時期に、排出ゼロ、いわゆる「脱炭素社会」を目指すことを掲げました。

この長期戦略には、目をひいた点が、ほかにもありました。二酸化炭素の排出を抑えるだけでなく、いったん排出された二酸化炭素を“回収する”技術の実用化です。大気の中から、いわば掃除機のように二酸化炭素を吸い取れないかというのです。

研究開発の現場に行ってみた

なかなか壮大な話です。取材を続けていると、国の委託を受けて研究開発が行われている現場に特別に入ることができました。兵庫県明石市にある川崎重工業の工場です。

敷地内の一角にある研究ラボで、まず見せてもらったのが、この粒状の白い物質です。お菓子の袋の中に入っている乾燥剤に似ています。
「アミン」という化学物質を、軽石のようなものにコーティングしたものです。「アミン」には二酸化炭素を吸収する性質があるといいます。次に、たくさんのパイプや配線が張り巡らされた装置の説明を受けました。
先ほどの白い粒が、透明のパイプの中にたくさん詰め込まれています。

「じゃあ、二酸化炭素を通してみましょう」
担当者がひと言。レバーをひねると、白い粒が入ったパイプに、二酸化炭素を含むガスが流れる仕組みだといいます。

「アミンが二酸化炭素を吸っていますね」
いったい何のことだろうと戸惑っていると、担当者が、装置についているパネルを指さしました。表示されている数字は、装置内の二酸化炭素の濃度を表しています。

わずか数分で、パネルの数字は10万ppmから0ppmまで下がりました。
こんな簡単なことなの?と思ってしまいます。しかし、実験したのは10万ppmです。これに対して大気中の二酸化炭素の濃度は、通常は300から400ppmです。ぐんと低濃度の大気のなかから二酸化炭素だけを回収するには、アミンをコーティングした粒に改良を加えることが必要だといいます。

さらに、二酸化炭素を回収して終わりではありません。環境省は、回収した二酸化炭素を植物工場に入れて光合成を促すなど、資源として利用することを想定しています。

アミンがいったん吸収した二酸化炭素を取り出すには、熱エネルギーを加える必要があるということですが、このときに使うエネルギーが多いと、逆に二酸化炭素を排出するという本末転倒な事態になってしまいます。そこで、ボイラーからの排熱といった“余ったエネルギー”を使おうと計画しているそうです。

環境省はこう話しています。
「まずは3年かけて技術を確立し、2022年以降、大気中から二酸化炭素を回収する装置の開発に入ることを目指している」
取材を通して、まだまだ道のりは長いと感じました。

二酸化炭素回収は温暖化対策の切り札か?

同様の技術は、海外でも開発が進められています。スイスのベンチャー企業は、ごみ焼却施設の屋上に巨大な装置を設置して二酸化炭素を回収しています。1トン回収するのに、およそ6万5000円から8万5000円かかり、回収できるのは、年間900トンだということです。
これに対して、世界中で排出される二酸化炭素はおよそ300億トンを超えると言われています。回収技術だけでは、とても太刀打ちできそうにありません。専門家に意見を聞きました。
「温暖化対策の一つとして将来の選択肢になり得るので、研究・開発を進めることは必要です。ただ、このような技術を実用化し、さらにコストを下げる段階まで行くには時間がかかるし、結果的に実現できないおそれもあります。温暖化は、新しい技術開発のみを頼りにして解決できるような状況ではなくなっています」

私たちに何ができるのか

「1.5℃ 特別報告書」をまとめたIPCCの議長は、気温の上昇を1.5℃に抑えることは可能だとするとともに、次のようにも指摘しました。

『社会は、前例のない変化を求められることになる』

夏が「激暑」とならないために、大きな災害が増えないように、何ができるのか、そして私たちの暮らしはどうなっていくのか。まずは節電など自分にできることを実行しながら、取材を続けたいと思います。