WEB特集

コンビニへの1000階段

「同じような経験をしている人とつながりたい」
「対面は無理だけどチャットなら」
NHKの特設サイトに投稿を寄せてくれた、ひきこもり当事者・経験者。私たちは、番組の企画として、チャットアプリLINEで「ひきこもりの当事者」たちをつなぎ、“解決策”を一緒に模索する試みを行うことにしました。参加者は9人。3週間で行われたやり取りは3000件以上になりました。暗い部屋に閉じこもっているイメージでとらえられがちな“みえない”ひきこもりの人たちと本音で対話した20日間の記録です。
(クローズアップ現代+ディレクター 岡田歩)

7月13日(土)グループ結成

三連休の初日、ひきこもり当事者と経験者のLINEグループのアカウントを立ち上げました。参加を呼びかけたのは特設サイトひきこもり“100万人”のクライシスに当事者として投稿を寄せてくれた方々。メールや取材を重ねた後「参加したい」と協力を引き受けてくれた9人のメンバーで結成しました。
あまたさん(34)
ひきこもり歴10年 4年間のアルバイト経験を経て現在はIT企業に勤務
おもちさん(30代)
家庭環境の不和から10年以上ひきこもり 親からの自立を目指している
けいこさん(51)
ひきこもり歴25年 弟と2人暮らし
さくらさん(38)
ひきこもり歴17年 実家で高校生の娘を育てるシングルマザー
清水さん(43)
ひきこもり歴12年 両親と同居しながら、週3日3時間清掃員として働く
Mimiさん(28)
幼い頃のいじめと家庭環境が原因で社会人2年目の時に外出困難に 現在は在宅で働く
ちあきさん(36)
ひきこもり歴16年 3年前に親元を離れ現在は就労移行支援に通う
まこさん(30)
いじめと家庭環境が原因で小4から中3までひきこもり
もりさん(52)
80歳の母親と暮らす 7回のひきこもり経験あり
一人一人をグループに招待し、あいさつ文を送ろうとしたやさき…

「こんにちは」1人が皆にあいさつを。すると「はじめまして」「宜しくお願いします」と自己紹介が次々に始まります。

本当に参加してくれるのか?と不安いっぱいだった私は少し拍子抜けしてしまいました。

もう一つ驚きだったのが、「今手が離せないので後で参加します」「私も外出中なので…」という書き込み。

病院に行ったり、娘のお弁当を作ったり、在宅で仕事をしたり、新聞から社会の動向を探ったり、就労移行支援に通ったりと、ひきこもりの方々は結構忙しいようです。

マニュアルは意味が無い

ひきこもりを“解決”するためには何が必要か。そういう問題意識があった私は、早速、現状から次のステップに進むためにやるべきことを提示する“ひきこもり脱出マニュアル”のようなものを作ることを提案してみました。

ところが。
「マニュアルはあっても意味が無いと思います」
「それが広まることにより世間が“こうすれば出てくる”と決めつけてしまい苦痛になります」
次々に上がる反対の声。
一方で、「前向きな体験談」が知りたいという声が上がりました。
「何がきっかけで外に出るようになったかの体験談をいちばん聞きたい」
「ひきこもり中に自分でもできたことを知りたい」

また、高校進学を機にひきこもりを脱し、派遣会社で働くまこさんからは「ひきこもり後の生活」について光をあててほしいという投稿が寄せられました。

「ひきこもりからの回復はゴールではありません」
「就労が一つの区切りにはなっていますが、ひきこもりから回復してからも人の目が気になる、自分が自分を生きている気がしないなどの自己肯定感の低さに悩まされました」

家から出られるようになった、就職できた、ことが決して“解決”ではないと、気付かされました。初日の会話は、5時間余り続きました。

終了後、ある参加者からスタッフに個別のメッセージが届きました。
「トークスピード速すぎてついていけていない方もいると思いますので、個別で聞いてあげてください。差し出がましい様ですがせっかく集まった方なので」

他人を気遣うメッセージから優しさと繊細さがかいま見えました。

7月14日(日)ひきこもりは甘え?

翌日も続くやり取り。1時間携帯を見ずにいると、あっという間に未読の件数が100件を超えていました。

「外に出たくてもおなかが痛くなり一歩も出られませんでした」「つらかったですね」潰瘍性大腸炎や過敏性大腸炎、うつ病、パニック障害など、それぞれが抱える精神障害や体調について情報交換が行われていました。

30代のおもちさんも統合失調症に苦しんできたと言います。子どもの頃から両親に「お前は何もできない」と言われ続けてきたおもちさん。

「家事を教えてもらえず、練習する機会が与えられないのでいまだ洗濯物が畳めません。大人になっても『そんな事も出来ないのか』『それじゃ社会に出ても何もできない』と言われる」

大学在学中にパニックを起こし動けなくなったのが10年間のひきこもり生活のはじまり。周囲から辛辣(しんらつ)なことばを浴びせ続けられたといいます。

「親戚や周囲からも『怠けている』と言われます。私は辞めたくて学校を辞めた訳ではありません。学びたい事がたくさんあり、技術を磨きたかった。それを何らかの形で生かす仕事に就きたかった。だからこそ、退学せざるを得なくなりサインをした時がとても悔しくて泣きました。それを『病気で逃げた』『怠けている』『社会は甘くない』『楽をしている』と言われる事が本当に苦しいし悔しい」

おもちさんは、現在、通院しながら就労支援を受けていて、一人暮らしを始めるためにアパートを探していると話していました。

20回目の就職

世間から甘えていると思われることに強く反応した参加者がいました。80歳の母親と暮らすモリさん52歳です。

「『外に出られない=働いていない、甘えてる!』みたいな感じ。世間体に縛られないように世の中がなっていけばいいのになぁ;;」

7度目のひきこもり時期を経て20回目の就職を果たし契約社員として働き始めたばかりといいます。履歴書の空白期間や転職回数に対して面接官から冷たい目を向けられるのが怖く、偽りの自分を演じるようになってしまったと言います。

「他人がどう思ってるか?が異常に気になってしまう性質で、世間の目…気になってしかたないです」

モリさんは「一つの会社に長く勤めるべき」という社会通念に苦しんでいました。おもちさんやモリさんを苦しめていた目には見えない「世間の目」や「社会通念」。そこで、他の参加者にも「社会や周囲の○○すべきをくみ取って、本当は○○すべきと理想の自分を作ってしまうこともあるか?」と聞いてみました。
すると「外で働くべき」「普通になるべき」「ひきこもりは近所の目から隠れるべき」「笑顔でいるべき」「空気読むべき」という「べき」に苦しめられていることがわかってきました。

中でも多かったのは「普通であるべき」。彼らを苦しめる「普通」とはどこからやってくる価値観なのでしょうか。

親の価値観 プレッシャーに

「外で働いて当たり前っていう世間の考えを抹消したい…」と書き込んだのは28歳のMimiさん。

幼い頃のいじめと家庭環境をきっかけに人と関わるのが怖くなり、そのストレスが積み重なり新卒で入社した職場を1年で休職。全般性不安障害と診断され外出困難になりました。7年前からライターとして自宅で仕事をしていますが、両親は“まっとうな仕事”として認めてくれないと言います。

「友達がどこかに旅行に行った話とかを親に話すと、○○ちゃんはちゃんと働いているからねって言われます。うちの親にとっては、家で働いている=ちゃんと働いていない。親のべきに苦しめられています」

Mimiさんは、「恥をさらして皆に見せます」と1枚の写真をグループに投稿しました。両親から理解されない苦しみをはき出したノートでした。
「人並みに生きるのがそんなにいいのかよ」「内職だろうが何だろうが働きたいって思えた自分のこと認めてほしい」
いちばん身近な存在である親の「普通・人並みであるべき」という価値観に苦しんでいました。

親の寄り添い “脱”ひきこもりにも

一方で、親の寄り添いがあったからこそ“脱”ひきこもりできたという参加者もいました。不登校から10年ひきこもっていたあまたさんは両親が何も言わずに実家に置いてくれたことに救われました。

「両親には家にいさせてくれたことを感謝しています。ひきこもりは家を追い出せば自分で勝手に生きていくものだという意見をよく聞きますが、いちばん無気力な時期に追い出されていたら野垂れ死んでいたかもしれません」

いじめがきっかけで小中学とひきこもっていたまこさんは、姉と兄も不登校からひきこもりだったので母親があわてなかったことに助けられたといいます。

「母が『私自身が犯罪者になったとしても私を見捨てないだろう』という感覚を感じ取ったときに頑張って高校を目指そうと思いました。親が世間の目ではなく、私を信じてくれた。少なくとも私がそう感じたことで一歩を踏み出せました。親戚からいろいろ言われるのをブロックしてくれていました」

まこさんにお願いして、まこさんの母めぐみさんにも話を聞かせてもらいました。めぐみさんは、3人の子どもが次々とひきこもりになったことで、最初は自分を責め続けていたと言います。それでも、時間をかけて子どもたちと向き合ううちに、心境の変化が訪れました。

「自分がなんとかしてあげようと思わないことです。それは自分の価値観を押しつけているだけなので。親がしんどい顔していると、自分が責められていると感じてますます自信を無くすと子どもたちから言われました。それからつらくなったら一人で温泉に行ったり、息抜きをして笑顔で普通に過ごすことを心がけました」

めぐみさんは、このように考えられるようになるまで10年かかったと話しました。

コンビニまでの1000階段

グループ開始から10日目の7月23日(火)の夕方。1つの書き込みに目が止まりました。
「驚いたことに外食恐怖があるのに、フードコートに人がいなかったこともあってかラーメンを食べられたんです!!病院の検査がきっかけでいつもより長く動けました!たぶんここでしか分かってもらえない興奮を伝えたく!」

すると、「わー-!!!頑張りましたね!」「おめでとうございます!」他のメンバーから喜びを分かち合うかのような声が。
投稿したのは、実家で高校生の娘を育てるシングルマザーのさくらさん(38)。21歳で結婚、出産。その後の離婚をきっかけに、うつ病、パニック障害、そこからひきこもりになりました。以来17年間、家から出られるのは、月に数回、家族に付き添われた病院への通院などに限られていると言います。

フードコートでラーメンを食べる。私にとっては、ごく普通のことに思えることに、大興奮した様子で投稿するさくらさん、そしてその投稿に寄せられる共感の嵐。私にとっては、驚きでした。
ひきこもり状態にいる人たちは、そうでない私たちが思いもよらない壁のようなものを感じているのではないか。そう気付かされた私は、ほかの参加者に、次のような問いをぶつけてみることにしました。

「外出までのステップを親が10段階だと思っているとすると、実際はどのくらいありますか?」すると。

「親が3段ぐらい。私が1000段ぐらい」「ひきこもり経験がない人の一段とひきこもり当事者の一段はかなり差があります」
メンバーの一人、ちあきさんはこう説明してくれました。

「例えば、健康で元気で社会の中で頑張ってる人が、コンビニでフラッペを買うということは、なんでもないことだろうと思うけど、ひきこもりの人にとっては、まず周囲をうかがう、ドアを開ける、閉める、服を着替える、顔を洗う、匂ってないか確かめる。服のしわを嘆く、外に出るだけの体力がない、周囲の視線がこわい。コンビニについたとしても、フラッペってなに、今のコンビニこんなんなの、他のお客さんが気になる、店員さんの視線がきになる、でレジに行くまでだけでも大変なんです」
参加者の証言から再現

小さな一歩

だからこそ、その1000段を一気に駆け上がることを求めないでほしいというさくらさんの発言。

「ご家族や周囲の方には、焦らないでいてほしいです。金銭とか介護とか、いろいろ心配してもらっているのも分かってるけど、出られないんです。ただ、出られないなりにこのくらいの事ならできるのではないかとそれなりに考えています」

小さな小さな一歩の積み重ねの先にコンビニがあり、その先に“自立”や“就労”“夢”があることを私は初めて知りました。その小さな一歩はわかりやすい一歩ではない。だから世間は『何もしていない、甘えている』と決めつけてしまう。でもそれぞれのペースで確かに今よりも居心地のよい世界へ踏み出そうとしているのだと気付かされました。

NHKの特設サイトにメッセージを送ってくれたそのことこそが彼らが現状を変えたい、何かをしたいという勇気ある一歩だったのです。何よりも大事なのは、最初の一歩は思わず自分がやりたくなること。○○べきでなく○○したいが大事だそうです。

「目標は作った方が外に出られます。私の場合は好きなアーティストのライブチケットを取ります。そうすると体調が悪くても行けてしまうからです」

そして欲求から生まれた行動が達成することが成功体験になり、更なる一歩を踏み出す糧となるといいます。

「遠くに行けた時の達成感はすごいです!自信がつきますし、行けた自分ににやにやしちゃう」

忘れてはいけないのは、この階段を登るルートやマニュアルはないということ。それぞれのペースでステップを積み重ねた先に、きっと“納得感のある”脱ひきこもりがあるような気がしました。

突然の脱退宣言

そんな中、参加者の一人、清水さんから個別のメッセージが届きました。
「一時的に退会できませんか?1人で居ると『ひきこもり時代』を思い出したり…現状にのまれそうになり、精神的におかしくなりそうです。みんなの文書を全部読む必要はないということは皆さんから伺ってますが…追えないと堪えられなくて、スマホを破壊もしくは捨てたい心情に陥ります」

この前日まで「皆さんのことが好きです」と言っていた清水さんの突然の脱退宣言に驚きました。確かにこの時には数時間で未読が300件を超える大量のやり取りが行われていました。

直接話を聞くと「初めの頃は、とても楽しかったですよ。でも、だんだん文章が長くなってきて、皆さんに追いつけなくなってしまったので。皆も大変な思いをして書いてるので、それに何とか答えようっていう自分がいて返さなくちゃ行けないって思うと、もういっぱいいっぱいになってきてしまったんです」

12年間のひきこもり生活で清水さんは「社会とつながりたい、気持ちを共有したい」と思い続けてきました。このLINEグループに真っ先に入りたいと言ってくれたのも清水さんでした。でも周りの人を気遣うあまり、大量のやり取りが清水さんを追い詰めていました。既読機能があるLINE。これもまた「返信するべき」という気持ちに追い込んでしまっていたのです。

お盆が怖い

グループ開始から2週間たった7月26日(金)、今まで発言を控えていたけいこさんが皆に問いかけました。
「自分の話したいテーマは、引きこもり気味だった人の自殺や殺人についてです。重い話ですが皆さんの意見聞きたいです。(世間から)無視されて寂しく孤独を通り越して孤立しています。行政や医療機関とつながっても平日のみなので、連絡したい時焦ってしまいます。お盆休みも怖いです。自分が犯罪者になりそうで」

両親が他界後、弟と二人暮らしのけいこさん。友人はおらず週2回の訪問看護以外はテレビを観て過ごしているといいます。孤独にさいなまれる気持ちを、仕事で疲れている弟に話すことをためらい、気持ちのぶつけどころを求めていました。

けいこさんのSOSに対して真っ先に答えたのがシングルマザーのさくらさんでした。

「自分も自殺未遂も何度かありますが、死んだら誰かの思うつぼだと思いとどまりました。連絡取れないと怖い、自殺、殺人を犯してしまいそうという思いをホットラインにぶつけてください」

けいこさんの問いに「信頼できる伴走者を探すことが大事ですよ」と返信したのは、都内のアパートで一人暮らしをしているちあきさん。LINEを通して終始伴走者の大切さを訴えてきました。

父親との関係のトラウマから適応障害やPTSDに苦しんできました。

そんなちあきさんを支えてくれたのが訪問看護の看護師とカウンセラーの存在でした。現在週2回の訪問看護と週1ヘルパーの支援を受けていて、健康な心と身体が取り戻せるようになったと言います。

「私の場合はカウンセラーさんやお医者さま、お友達など、伴走者がいたことが大きかったです。自分のペースで、とりあえず外に出てみようかとか、クリニックいかなきゃとか、そうしたことで、外に出られるようになり、ふとしたきっかけを掴めるような気がします」

現在もひきこもり傾向は続いているものの、就労移行支援に通って働くことを目指しています。

“解決”とは何か?

ひきこもり問題を“解決”するために大切なこと。小さな一歩を踏み出すことを焦らず見守ること。伴走者となる社会資源を用意すること、そしてもう一つは私たち一人一人が偏見の目を持たずに“100万人のひきこもり”ではなく“個”として彼らを見つめること。それが、3週間のグループ対話で私が学んだことでした。

7月27日(土)、親からの自立を目指し、アパートの申し込みをしていたおもちさんからメンバーに報告がありました。残念なことにアパートの審査に落ちたといいます。おもちさんが精神障害者であることなどが大家さんのネックになったと、不動産屋からは説明を受けたということです。
改めてメンバーに「ひきこもりの“解決”とは何か?」を聞いてみました。

「生きにくさを少し生きやすくする、その積み重ねなのかなぁ」と答えてくれたのはコンビニに行くまで1000の階段があると教えてくれたちあきさん。就労しても、元ひきこもりの過去に苦しんでいるまこさんは「自分で自分を許せた時。息をするのが楽になった時」と。

彼らの“解決”は決して当事者だけでは成し遂げられない。「家族が寄り添えればすべて解決」でもない。世間の常識を疑うこと、つまり私たち一人一人が“べき”を押しつけないことだと感じます。そして隣の人の小さな一歩を気付くことが、ひきこもりの人もそうでない人も「息をするのが楽になる」社会を作ることにつながるのではないでしょうか。

LINEグループのメンバーを交えて徹底討論したクローズアップ現代+「ひきこもり夏スペシャル~1200人の声 当事者と作る解決策~」は8月8日19:30~NHK総合で放送予定です。
このLINEのやり取りや特設サイトへの投稿を元に「べきおばけ」というキャラクターが生まれました。#べきおばけ であなたが苦しむ社会通念を募集しています。
LINEグループのメンバーと一緒に作った前向きな体験談は下記HPで紹介しています。

「ひきこもりクライシス “100万人”のサバイバル」
クローズアップ現代+ディレクター 岡田歩

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