障害がある娘が受けた性暴力 母親が決意の告白

障害がある娘が受けた性暴力 母親が決意の告白
性暴力に“NO”を突きつける女性たちの声が世界各地で高まる中、見過ごされがちな問題があります。それが、障害者の性暴力被害です。自分がされたことを性暴力と認識しにくい、言われたことに逆らえない、そうした障害の特性につけ込んだ卑劣な行為があとを絶たないことがわかってきました。娘が被害を受けたとき、どれだけ傷つき、絶望したのか。ある母親の告白です。(NHKグローバルメディアサービス ディレクター 田邊幸)

リスクが高い 障害者の性暴力被害

「障害があるから、社会との接点もそう多くないだろう、性暴力を受けるリスクも少ないだろうと、もしかしたら思われているかもしれません。実際にはその逆なんです」
6月、福岡市で開かれたシンポジウム。障害がある人たちへの性暴力被害の実態が相次いで明かされました。

また、性暴力の被害者のうち、半数以上に、何らかの障害があると見られるという、内閣府が去年発表した調査結果が報告されました。
カナダの研究者は、障害があることで、性暴力を経験するリスクは3倍にふくれあがるという調査もまとめています。

この日、最も衝撃を受けたのは、主催したNPOに届いたという1通の手紙です。
「私の娘も、軽度の知的障害があり(施設に)通所しておりましたが、その職員により、性的虐待を受けていました」
私は、この女性に、直接話を聞きたいと申し入れました。

1通の手紙から始まった取材

手紙を書いたのは、福岡県に住む50代の母親です。
娘で20代の菜々子さん(仮名)が、2年前、性暴力の被害にあったといいます。

知的障害があり、母親といっしょに外出するときは手をつなぐなど、同世代に比べて幼いところも目立つという菜々子さん。
当時、障害者の就労を支援する施設に通っていました。

最初は「調理の仕事を覚えたい」と意欲的でしたが、次第に様子がおかしくなっていったといいます。
「明るくて朗らかで優しい子だったのに、口数も少なくなって、笑顔もなくなって、死にたいともらすようになったので、何でかなと思って」(母親)
そして発覚したのが性暴力の被害。加害者は、施設の所長の男性でした。

ふたりきりでの調理実習中に後ろから抱きつき、体を触る。送迎の車の中やホテルで服を脱がせるなど、数か月にわたりわいせつ行為を繰り返していたと言います。
「口を押さえられたり、痛みを感じて、大きな声を出していたみたいです、抵抗して。信じられない。びっくりしました。まさかそんなことがあると思わなかったので」
その後、被害を知った地域の自治体が調査を行って、性的虐待があったことを認定。

所長も「不適切な行為」を認め、施設は閉鎖しました。

障害につけこむ悪質な手口

菜々子さんの母親によると、加害者は、体を触ることを「整体」や「マッサージ」と説明。長時間拘束するときは、居場所がわからないよう携帯の電源を切らせる念の入れようだったといいます。

長年、菜々子さんを支援してきた別の施設の福祉関係者は、所長が菜々子さんの知的障害を利用して、ことば巧みに、逆らえなくしたのではないかと感じています。
「知的な部分での弱さっていうのはあると思いますので、『先生の言うことを聞かないといけない』と思い込んでしまって、つらい思いを発信できなかったと思います」
福岡県にある性暴力被害者支援センター・ふくおかも、寄せられる相談のおよそ3割が、障害者の被害に関するものです。
性暴力は、「被害を被害と認識しにくい」「言われたことに逆らえない」といった障害者の特性につけこんで起きているといいます。
「加害者は、相手の動作や顔の表情を見て、巧妙に加害しやすい人を見分けると言われています。その人の弱みにつけ込んだり、いろんな手口を使ったりしている」(浦尚子センター長)

被害を訴えても… 立ちはだかる“司法の壁”

また、障害者が性暴力の被害を受けた場合、加害者を罪に問うことに高いハードルがあることもわかってきました。

今回のケースでも、菜々子さんと両親は、警察に被害届けを出しましたが、捜査は途中で打ち切られてしまいました。
今の刑法では、被害者が13歳以上だった場合、加害者の罪を問うためには「抵抗できないほどの暴行または脅迫により、行為を強制された」ことを立証する必要があります。

「同意があると思っていた」と主張した加害者。これを受けて警察は「20歳の女性が抵抗できないほどの暴行や脅迫があったことが立証できない」と判断したと言うのです。
「判断能力がない、こういう知的障害のある娘でも、20 歳(13歳以上)という線引きをされていたのが、ちょっともう信じられない。許されていいのかって思いですよね、これが」(菜々子さんの母親)
たとえ捜査当局が立件し裁判まで進んでも、被害者に知的障害などがあった場合、「証言の信ぴょう性が低い」と見なされてしまうことも少なくないといいます。
「現状、日本の法律は、全く障害がある方への配慮がうたわれていない残念な状況にあります。悪質な行為を行う加害者が、野放しにされたままになる。そして、何回も何回も再犯を繰り返していく。社会にとって大きなマイナスだと思います」

誰もが性の尊厳を守られる社会に

菜々子さんは今も、悪夢を見て泣き叫ぶ、加害者に似た男性を見るとパニックを起こすなど、PTSDに苦しみ続けています。
「こんなに近くにいたのに、親として娘を守ってあげられなかったっていう思いは今でもあります。相手は何の責任も負わない、何も傷つくことはないと思うんですけど、娘は今でも傷ついています」
母親は、菜々子さんの被害も氷山の一角ではないかと感じていて、「同じ思いをする人をこれ以上増やしたくない」という思いから、今回勇気を出して取材を受けてくれました。

シンポジウムを主催した東京のNPO法人「しあわせなみだ」は、障害につけ込んで性暴力に及んだ場合、加害者の刑罰を重くする罪が認められる要件を緩和するなど、刑法の改正を求める署名活動を、インターネットなどで行っています。米国や韓国など、海外ではすでにそうした法整備が進んでいる国もあります。

性暴力は、ただでさえ被害を訴えたり、立証したりすることが容易ではなく、障害があるとそのハードルはさらに高くなってしまいます。

誰もが性の尊厳を守られる社会になるためにどうすればいいのか。これからも考え続けていきたいと思います。
NHKグローバルメディアサービス ディレクター
田邊幸

2018年入社
この夏まで福岡局に勤務