もう“当たり前”ではない?~行政サービスの曲がり角~

もう“当たり前”ではない?~行政サービスの曲がり角~
「夏休みに子どもと遊びに行こうと思ったら、近所の市民プールがなくなっている」
「役所の窓口が午後3時に閉まるみたいだ」
いま、取材を進めるとこれまで私たちが当たり前のように受けてきた“行政サービス”が、曲がり角を迎えていることがわかってきました。「行政サービス縮小」の動きは、命に関わるようなものにもその影を落とし始めています。
(「非正規公務員」取材班 水戸放送局記者 齋藤怜・福岡放送局記者 寺島光海)

夏休みの光景が一変?市民プールの異変

夏休みに入った子どもの楽しみと言えばプールでの水遊び。近所の市民プールに遊びに行くことも多いですよね。

長野市では市民プールが12か所あり営業期間の7月と8月の2か月間に毎年30万人を超える人が利用しています。市は経費削減のため、この限られた時期だけ開かれるプールの運営のほとんどを民間企業に委託してきました。

しかし、ここ数年、その運営に異変が起きています。委託を受けた民間企業の社員がほとんど休むことができないほど忙しいというのです。
その理由は、利用者の安全を守るための「監視員」のなり手不足にありました。これまで運営を担う民間企業は、監視員をアルバイトに頼ってきました。しかし、人口減少を背景に進む人手不足がその確保を難しくしているというのです。

さらに監視員は人の命に関わる重要な役割です。その重い責任を敬遠する動きもあって、「監視員」が確保できないというのです。

そこで長野市が打ち出したのが市営プールの大幅な削減でした。来年度から屋外プール6つを廃止し、これまでの半分の数のプールを集中して運営していくことを決めたのです。人手不足による監視員の確保に見通しが立たない中、苦渋の決断だといいます。

拍車をかける人口減少による“税収減”

「サービスの低下につながる」
「高齢者が頼れる人がいなくなる」

反発の声が響いていたのは、大津市が開いた住民説明会の会場です。今月、大津市真野地区にある市役所の支所で行われた説明会の会場を訪れた私たちは、その勢いに圧倒されました。

用意された30人分の席は参加者で満席。住民の反発を招いていたのは、市が提案した窓口業務の縮小方針でした。

大津市は来年度から、36か所ある支所のうち25の窓口で水道料金などの公共料金の支払い受け付け業務をなくす方針です。そして27の窓口では業務時間を午前9時から午後3時までとして、これまでより2時間45分短縮するというのです。

住民の反対の中、市が行政サービスを縮小しようというのはなぜなのか。取材を進めると、人口減少が進むことによる、将来的な税収の減少という大きな課題が浮かびあがってきました。
大津市の2015年度の住民税の歳入は208億円。しかし、35年後の2050年度には164億円と、40億円余り減ると見込まれているのです。

その一方で、高齢化に伴う社会保障費は年々増加。住民生活に配慮しつつも、行政サービスの縮小は避けられないというのです。
「税収の減少が見込まれる中で、その時代に応じた行政サービスの形に変えていくことが大事だと思っている。説明会では反対の意見も相次いでいるが、市民の理解が得られるよう説明を尽くしていきたい」

サービス維持に不可欠な“非正規公務員”

こうした自治体は大津市に限った話ではありません。人口減少が続く日本では、ほとんどの自治体が将来的な人口減少と税収減の問題に直面していると専門家は指摘します。
「少子高齢化に伴って、社会福祉など行政が求められるサービスが多様化する一方で、財政状況はひっ迫している。賃金が高い正規の公務員は増やせない中で、行政は賃金が安い『非正規公務員』を増やして行政サービスの維持に当たっている」
いま、こうした「非正規公務員」が全国で急増しています。総務省の調査では全国の市区町村で「非正規公務員」の数は48万8000人余り(2016年)。実に3人に1人が非正規となっているのです。
ところが取材を進めると、こうした「非正規公務員」への依存ともいえる現実が、行政のサービスそのものを支えきれなくなっているような事態に陥っていることも分かってきました。

“人が足りず 自分の体も壊れそう”

その現状を西日本のある自治体で非正規公務員として働く40代の女性が勇気を出して語ってくれました。女性のことばからは、現状への不安がにじみ出ていました。

女性が働く部署は児童虐待などの通報をうけて安否確認などを担当。48時間以内に、子どもに危険が差し迫っていないかを確認します。

一歩間違えれば、子どもの命に関わるような重大な仕事。しかし、女性の職場では7人の職員のうち、5人が非正規だといいます。

そして非正規の労働環境について、ことばを詰まらせながら次のように話しました。
「責任は重いと思っていますが、業務量にあった報酬はないですし、責任の重さにギブアップになってしまう職員さんもいらっしゃいますし、心を病んでしまう方もいらっしゃいます。人員も足りず、今の状況でいくと自分の体も壊れそうです」

非正規が多く ノウハウが共有されない

終業時間が終わっても対応にあたることや、日中は、安否確認といった突発の対応がほとんどで、残業をして引き継ぎの資料や、関係機関との会議資料を書くこともあるといいます。子育てをしながら働く女性、一度帰宅して、自分の子どもの世話を終えてから再び仕事場に向かい、深夜まで残業をすることもあるといいます。

女性は身体的にも精神的にも限界だと感じながらも、子どもたちや家族を見放すことはできないと、この担当を数年続けているといいます。

しかし正規職員と同じように、対応する事象への責任は重いのに、待遇が悪いため、非正規の多くが次々にやめて入れ代わっているといいます。

非正規の多くは、経験が1年未満です。このため緊急の対応や難しい判断でのノウハウが共有されず、これまでに初期の対応が十分でなかったケースもあったといいます。女性は強い危機感を感じていると話します。
「子どもの命を守る立場としてやるべきことがあると思っています。今の状況を改善してきちっと対応できるようにしないと児童虐待から守ることができる命だったのに救えなかったということがあり得ると感じています」

仕事や努力が認められる意識が広がってほしい

女性の声を聞いて、改めて、非正規で働く人たちの責任感に頼り切った形で、行政サービスが成り立っていると感じました。

そして、彼女たちからも仕事そのものに対する不満を聞いたことはありません。大切な仕事だからと、身を削って行政サービスの先にいる人たちのことを考えて、働いていると感じます。

だからこそ、契約が短期間で更新を続ける任用形態や、責任の重さと待遇が見合わない現状に疲れてしまっていると思います。働いた分だけ、努力した分だけ、当たり前のように認められる。そういった意識がもっと広がってほしいと思います。

当たり前ではない?行政サービスの未来は

私たちが当たり前だと思って受けてきた行政サービスの今後は、どうなっていくのでしょうか。専門家は行政サービスの在り方そのものを見直していく必要があると指摘します。
「行政サービスが、どこに何が必要なのか、どのように変えていけばいいかということを 住民と一緒に考えていくような仕組み作りが必要だと思う。また公務員は民間企業と違い、5年働くと正規職員に転換できるといったルールはない中で『非正規公務員』を働かせ続けることには限界がある。専門的な仕事や経験を要する仕事についている『非正規公務員』を無期の契約にして、その仕事だけを担っていくというようにしていく必要もある」(地方自治総合研究所 上林陽治研究員)
また、「非正規公務員」をめぐる現状について総務省は待遇の改善や、役割に応じた業務量となるように、来年度からは非正規公務員の新しい制度を始めるとしています。この中で各自治体に対して待遇などを見直すよう働きかけているということでした。

市役所の窓口や、市民プールといった身近なものから、児童相談所など子どもの命に直結するものまで、これまで私たちは当たり前のものとして、サービスを享受してきました。しかし、いくら税金を払っているからといっても、これからは今までと同じような行政サービスがいつまでも続いていくとは限らないという、転換期を迎えています。

必要不可欠なものと、見直しができるものを、私たち住民自身が考えていく。それによって本来の行政サービスの質を維持していく。人口減少が進む未来を見据えて、そうした議論を始めていかなければいけない時期に来ていると感じました。

この「非正規公務員」や「行政サービス」について私たちは取材を続けていきたいと考えています。読んでいただいた皆様からの情報提供をお待ちしています。

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