船の形を変えると何が変わる?

船の形を変えると何が変わる?
世界的に広がっている二酸化炭素の排出量削減の動き。自動車業界ではハイブリッド車や電気自動車が生まれるきっかけとなりましたが、実は今、造船業の世界でも新たな動きが起こっています。

といっても、燃料を変えるのではありません。“船の形”で二酸化炭素の排出量を減らそうというのです。

温暖化対策に新たな需要を見いだし、ビジネスチャンスにしようと挑戦する造船会社が四国にあります。(高松放送局記者 江崎大輔)

お目見えした“省エネ船形”

7月5日、香川県丸亀市の造船会社で一隻のケミカルタンカーが進水しました。

499トン、長さ65メートル、幅10メートルで、元号にちなんで「光令丸」と名付けられたこのタンカー。進水式には、海運会社社長や四国運輸局長など関係者30人余りが顔をそろえ、その表情には強い期待がうかがえました。
その理由は、この船が日本で初めて国が開発した“省エネ船形”を採用し、二酸化炭素の排出量を15%以上、削減することを目指しているからです。背景には温暖化対策の国際的な枠組みを定めた「パリ協定」の発効があります。

国は「地球温暖化対策計画」で国内の海運業で排出される二酸化炭素の量を2030年度に2013年度と比べて15%削減するという目標を掲げています。海運業でも二酸化炭素排出量の削減が急務となっているのです。

光令丸を建造しているのは、四国・香川の「興亜産業」。
創業はおよそ100年前の大正9年。国内の海運業向けにケミカルタンカーを建造している老舗の造船会社です。従業員は協力会社とあわせておよそ80人と決して大きな会社ではありません。
「省エネ船の建造は必要不可欠で時の流れとして避けることができない」
こう話すのは、3代目の社長、眞砂徹さん。温暖化対策が造船業にとって大きな命題になると考え、新たな需要を見いだしています。

最適な“船の形”を探せ

船の二酸化炭素の排出量を減らすにあたって最大の課題が、船が進む際の水の抵抗です。抵抗が大きいと波が大きくなり、燃費も悪くなります。

そのため、重要になるのが“省エネ船形”です。

国土交通省が所管する「海上技術安全研究所」は、資源エネルギー庁から依頼を受け、3年前から開発に取り組みました。
開発チームでは数千通りもの船の形をつくる手法で最適な船の形を探しました。

まず、「バルブ」と呼ばれるへさきの下の赤い部分を従来の船より太くしました。
次に、「バルブ」に続く船の“肩”と呼ばれる部分のカーブをきつくすることで波が立ちにくくしました。試行錯誤を繰り返し、最適な形を見つけるまでにおよそ2か月がかかりました。
最後に行ったのが模型を使った実験です。

ろうを切ったり削ったりして模型をつくり、それを長さ400メートルの国内最大の水槽に浮かべ、その効果を確認しました。
開発チームの1人、一ノ瀬康雄さんは「ふつうの模型船では“バタつく”、つまり波が立ってしまいますが、発見した船形ではバルブの形と“肩”の形によって、波がすーっと下がってきれいに滑らかに流れていきました」と実験当時を振り返ります。

鉄板を曲げられるか 造船会社の挑戦

2年前に開発された、この船の形は、海上技術安全研究所から国内の造船会社に無償で公開されています。

しかし、“省エネ船形”を設計通りに作るのは簡単ではありませんでした。

その理由は、船体の“外板”と呼ばれる外側の鉄板を、従来の船よりきついカーブをつけて曲げなくてはならないからです。特に加工が難しいのが船首部分の外板の曲がりです。
香川の興亜産業は、自社で培ってきた「ぎょう鉄」と呼ばれる技術で、これを実現しました。

「ぎょう鉄」とは、鉄板を熱してすぐに冷やすことで思い通りの形に曲げる技術で、日本でもこれが可能な職人は数少ないといわれています。

興亜産業では、光令丸の鉄板を曲げるにあたってある工夫をしました。一枚一枚の板の大きさを従来の船を建造するときよりあえて小さくして、曲げやすくしたのです。鉄板の枚数は増え、ぎょう鉄の作業に従来の1.5倍ほどの時間がかかりましたが、設計通りの形を実現することができました。
こうして進水までこぎつけた「光令丸」。

発注した愛媛県の海運会社「青野海運」の青野力社長も、この船に強い期待を寄せています。

青野社長は、貨物の運送を依頼する顧客も、燃費のよさや環境への配慮を重視する今、従来の船より多少コストがかかっても環境に配慮した船に投資することが将来のビジネスにつながっていくと考えています。
「環境にフィットしていない、旧時代の船形っていうのは、もうお客様に使われなくなっている。設備投資の金額は多く、少しコストは高い船になりますが、環境に優しい船になる。こういう船が今から顧客に選ばれていくんだろうと確信しています」(青野力社長)
興亜産業の眞砂社長は、こうした船の形を使ったケミカルタンカーの建造を顧客に対して積極的に働きかけ、需要を掘り起こしていく計画です。

「燃費がよくて環境にやさしい」ことが、セールスの武器になると眞砂社長は考えています。

また、従業員が高齢化する中、人材確保にも悩まされています。眞砂社長は、造船業が生き残っていくためには、「環境にやさしい船」を強みにして技術開発を続け、若い人材を確保する環境を整えることも大切だと考えています。
「船を試運転で走らせて、どういう状態であるかをまずつかんで、それから2号船、3号船にチャレンジしていきたい」

船も時代で変わる

「船も時代を映す」ーー
取材を始めたきっかけは、取材先が語ったこの言葉でした。

かつて、船には燃費よりも輸送の速度が求められていましたが、時代とともに求められる性能が変わり、温暖化対策がより重視されるようになりました。光令丸は進水後、設備の取り付けや調整を経てことし11月にも完成する予定です。

省エネ船形で、造船業界のビジネスは広がるか。そして、さらなる船形開発の動きはあるのか。海の上の今後の動向に注目です。
高松放送局記者
江崎大輔

平成15年入局
宮崎局、経済部、
報道局遊軍プロジェクトなどをへて
現在、高松局遊軍キャップ