ビジネス特集

消費増税は逆効果?「 MMT」提唱者に聞いてみた

「自国通貨を発行できる国は、財政赤字が膨らんでも破綻しない」。アメリカ発の「現代貨幣理論(MMT)」の主張が、今、日本でも議論になっています。財政赤字の拡大を容認するこの理論は、「天下の暴論」なのでしょうか。その提唱者、ニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトン教授が7月、初めて来日し、NHKの単独インタビューに応じました。(経済部記者 山田奈々)
7月16日の昼すぎ、ケルトン教授の姿は、東京・永田町にありました。そこにやってきたのは、自民党の西田昌司参議院議員と安藤裕衆議院議員、公明党の竹内譲衆議院議員。1時間半余りにわたって会談し、本などの情報からではわからない、MMT=現代貨幣理論に関する疑問を直接、ぶつけていました。

さらに、この会談のあとに行われた、ケルトン教授の講演会には、主催者の発表でおよそ750人が集まるなど、日本での関心の高さが伺えました。

なぜ注目される

山田記者のインタビューを受けるケルトン教授
ーーーなぜ日本でもMMTが注目され始めているのだと思いますか?
MMTは特に経済状況が改善されずに苦労している国に対して、より野心的に考える力を提供できるからではないでしょうか。経済のパフォーマンスを改善するためには、一体何に頼ればいいのかと、国会議員たちは悩んでいるのだと思います。そこで、より良い公共政策の実施を正当化するための手段として、MMTが急速に注目を浴びているのだと思います。

MMTの主張

MMTは「自国通貨を発行できる国は、債務返済にあてるお金をいくらでも発行できるため、財政赤字で破綻することはない」としています。そして「景気を回復するためにも行き過ぎたインフレが起きないかぎりは、財政赤字が膨らむことを気にせず、積極的に財政出動すべきだ」と言うのです。

このMMT、2018年11月のアメリカの中間選挙でニューヨーク州から、史上最年少で下院議員に当選したオカシオコルテス氏が支持したことで、ブームに火が付きました。さらに、ケルトン教授が、2020年のアメリカ大統領選に出馬を表明している民主党のサンダース上院議員の顧問を務めたこともあって、支持が広がりました。
ケルトン教授らがMMTの成功例として引き合いに出しているのが、ほかならぬ日本です。GDPの2倍を超える巨額の債務を抱えながらインフレにもならず、財政も破綻していないではないか、と言うのです。
ーーー財政赤字は問題ないと言いますが、本当に大丈夫なんでしょうか?
まず、財政が赤字か黒字かということは、経済全体が好調であるかどうかということと比べると重要性は低いです。ですから私たちは、人々の生活や経済状況がうまくいっているのかということに重点を置いてほしいわけで、予算の結果についてあまり心配しすぎないでほしいのです。

政府は、予算を削ってきました。財政の見映えを重視し、経済がうまくいっているかよりも、緊縮財政を選んでしまった結果、経済が伸び悩んでしまったわけです。だから、政府が国家予算を使い過ぎたり、少しくらいインフレ圧力をかけたりしたとしても、私は心配しません。

むしろ問題なのは、政府が必要な分野に対して国家予算を使っていない現状です。国の財布のひもがあまりにもきつく、われわれの経済の健全な回復をもたらすために必要な施策をとろうという気が全くないように感じます。
ーーーでも巨額の借金や、際限ない紙幣の発行で、MMTが懸念している過度なインフレになりませんか?
(ケルトン教授)
私はインフレが、お金を刷ることから来るとは思っていません。お金をどう使うかが問題です。

もし、需要が高まっても、それに応じてきちんと供給さえできれば、物価上昇は避けることができますよね?物価上昇は、需要が増え続ける一方、経済がこれ以上は生産できない、供給できないと、限界を迎えた時に起こると考えられます。ですから、この限界がどこにあるのか、きちんと認識し、インフレを回避することが重要です。お金を刷ることではなく、必要以上にお金を使ってしまうことがインフレを起こす要因です。

日本でハイパーインフレが起きる確率は、ほとんどゼロに近いと思います。もし、金融政策が万能で、物価上昇率を決めることができるなら、日本は2%の物価目標を達成するためにそれほど長い間苦労していないはずです。経済を健全に保ち、インフレをコントロールするためには、財政政策と金融政策のより良い組み合わせが必要だと考えます。

消費税増税は逆効果?

日本政府が今、財政健全化のためにまさにやろうとしているのが、10月に予定されている消費税率の10%への引き上げです。
政府は、国と地方を合わせた「基礎的財政収支」=「プライマリーバランス」を2025年度までに黒字化するという目標を立て、政策に必要な費用を、借金ではなく、税収などで賄えるようにすることを目指しています。増税分の税収は、財政再建のほか、保育の無償化などの社会保障の充実に充てるとされています。
ーーー日本が消費税率を引き上げることをどう思いますか?
逆効果だと思います。たとえば、増税をせず、単に社会保障の1つである年金への支出を増やした場合、高齢者の収入が上がりすぎて過度な消費につながり、インフレリスクが増すのかどうか?という視点が重要です。

MMTとは経済が持っている能力の限界を認識することであり、その限界はインフレです。もしインフレになるリスクがないのであれば、増税せず、単に高齢者支援のために年金を上げることに全く経済政策上の問題を感じません。増税は、消費意欲を損なうことにつながります。

ですから、一方で、高齢者の所得を上げることで、彼らの消費を促そうとしているのに、もし、高齢者以外のその他の年齢層の消費が鈍れば、逆効果です。
ーーーでは、1000兆円にまで膨れあがった借金はどうすればいいのでしょうか。
(ケルトン教授)
1000兆円の借金は過去の赤字の累積にすぎず、何も心配する必要はありません。もしかすると、国の借金に関するデータを一切報告しないことが賢明かもしれません。有益な情報ではなく、人々を不安に陥れるだけだからです。情報提供のあり方を変えるか、全く提供しないかのどちらかにすべきです。

「債務」「借金」ということばが原因ですよね?われわれが最も親和性があるのは、私たち自身の家計なので、「債務」と聞くと、個人的な枠組みで考えてしまう、自分の家計に置き換えて考えてしまうのです。こんなに借金があったら、これは私にとってすごく悪いことだと。でも政府は、家計とは全く違います。その違いを理解していないから、「債務」や「赤字」ということばが不安をあおるのです。

“天下の暴論”なのか?

MMTをめぐっては、強い反発があります。日本の財務省も否定的な立場で、ことし4月に開かれた財政問題を議論する審議会では、MMTに批判的な見方をしている17人もの学者や投資家のコメントを載せた資料を提出しました。

それによりますと、IMFのラガルド専務理事は「MMTが本物の万能薬だと思っていない。(理論の)数式は魅惑的だが、金利が上がり始めれば(借金が膨張して)わなにはまる」と指摘しているほか、前FRB議長のイエレン氏も「MMTは超インフレを招くものであり、非常に誤った理論だ」などと痛烈に批判しています。

やはり、MMTは「天下の暴論」なのでしょうか?日本の政府債務残高の対GDP比は、およそ240%。ケルトン教授が言うように、それでも日本では、インフレが起きたり国債価格が暴落したりしていないのは確かです。では、対GDP比で何%まで債務が膨らめば、財政は破綻するのか。その明確な答えはありません。「天下の暴論」と切り捨てるのは簡単ですが、MMTは、財政のあり方について考える機会を私たちに与えてくれていると言えそうです。
経済部記者
山田奈々

平成21年入局
長崎局、千葉局を経て経済部
現在、財務省を担当

特集

データを読み込み中...
データの読み込みに失敗しました。