お台場が封鎖されても大丈夫?

お台場が封鎖されても大丈夫?
1600人が働く東京 お台場のオフィス。ある日、レインボーブリッジが通れなくなり社員が誰も出勤できなくなった…、そんな映画のようなできごとが現実になったら大変です。今から1年後に開かれる東京オリンピック・パラリンピック。会場周辺は交通機関や道路が大きな影響を受け、このままでは“出勤困難者”が続出するおそれもあるのです。働く人は、企業は、どうすればいいのでしょうか。(経済部記者 仲沢啓)

オフィスを“無人”にできる?

「本社機能があるお台場のオフィスがほぼ無人になるような事態に備えなければならない」

サントリーホールディングス人事部の竹舛啓介課長が話したひと言に、衝撃を受けました。大手飲料メーカーのサントリー。首都圏で3700人の社員が働き、東京 お台場の東京本社だけでも1600人が勤務しています。
竹舛課長は、来年の東京オリンピック・パラリンピックの期間中、オフィスにほとんど誰も出勤してこないぐらいの「環境づくり」をしなければならないと話しました。

なぜ、そこまでしなければならないのか。それは、オリンピック・パラリンピックによる交通混雑や通行止めの影響を直接的に受けるおそれがあるからなのです。

ふだんどおりの出勤は不可能!?

サントリーの目の前の道路は、「トライアスロン」の会場。競技当日は道路が通行できません。また、すぐ近くのお台場海浜公園は、水泳のマラソンとも言われる「オープンウオータースイミング」の会場となります。

このほか、お台場周辺では、テニスや競泳など14の競技の会場があり、公共交通機関の「ゆりかもめ」や、周辺の道路は、激しい混雑が予想されています。

サントリーで働く人たちが、ふだんどおりに出勤することは事実上、不可能なのです。
一方で、オリンピック・パラリンピックが開かれる夏は、清涼飲料やビール、ハイボールなどを販売するサントリーにとって、一年でいちばんの「書き入れ時」。この時期に業務が滞ってしまうことは、何としても避けなければなりません。

そこでサントリーが挑戦しようとしているのが、「オフィスがほぼ無人でも仕事を回すこと」なんです。

「シェアオフィス」に通勤

なんだかちょっと大げさな話をしてしまいましたが、サントリーが模索している具体的な解決策は「テレワーク」です。テレワークとは、在宅や、会社から離れた別の場所で、パソコンや電話などを使って働くこと。「テレ」とは「離れて」という意味です。

東京オリンピック・パラリンピック期間中の交通混雑を緩和しようと、22日から、政府による「テレワーク」推進のキャンペーンが始まりました。これに合わせてサントリーでもテレワークの取り組みを強化しています。

私は、総務部門でテレワークの推進を担当している篠原きよのさんの「テレワーク出勤」に同行しました。篠原さんは39歳。小学校に通う2人の子どもを育てています。
朝8時半、いつもより遅く都内の自宅を出て、お台場とは逆方向に向かうバスに乗り込みました。

20分後、東京 墨田区の錦糸町にある「シェアオフィス」に到着。いつもより30分も通勤時間を短縮できました。

このシェアオフィスは、サントリーがあらかじめ契約していた、仕事のためのスペースで、Wi-Fiやコピー機などがあり日常の業務をするには十分な設備があります。
午前10時半ごろ、篠原さんは、大阪の本社や東京 赤坂にある営業拠点など4か所とテレビ電話をつないで会議を開き、それぞれの業務の進捗(しんちょく)について話し合いました。

とはいえ…実は、参加者の中には、テレビ会議システムの音声の設定ミスで、会話が通じない一幕もありました。テレワークを実践してみた篠原さんは、手応えと課題を感じたといいます。
「ふだんのオフィスで働くのと遜色なく業務を進められたと思います。一方で、システムを使い慣れてない人もいますから、これから全員が経験を積んでいかないと」

テレワーク大作戦

通勤時間も短くて、ふだんと同じように打ち合わせができるなら、こんな働き方もいいな、などと考えていたら、冒頭の竹舛課長の話を思い出しました。
サントリーは来年のオリンピック期間中、お台場はもちろん、赤坂や京橋など首都圏に勤務するおよそ3700人の社員のほとんどがオフィスに出勤できないことを想定し、テレワークなどで業務を行うことを目指しています。

これまで、職場の一部の人がテレワークで働くことはありましたが、ほとんどの社員がテレワークという事態は、初めての経験。周到な準備が必要です。
▽多くのシェアオフィスを契約する
▽郊外にある自社の研究拠点などオリンピックの影響を受けない施設をオフィスとして活用する
▽在宅ワークを活用する
オリンピック本番に備えて、サントリーでは、これから1年以内に、これらの手段を十分検討することにしています。習熟のため、首都圏で勤務する社員すべてに、年内に1度はテレワークを実施してもらう計画です。
「夏の書き入れ時に大変ではありますが、一方で、このピンチはチャンスでもあると思っています。オリンピックをきっかけに、ある意味“強制的に”テレワークなどを経験することで、それぞれの働き方を見直し、より柔軟な働き方を進めたいと考えています」

働き方を見つめ直すいいきっかけに

考えてみれば、経済記者として現場を飛び回る私も、東京 渋谷の放送センターに出勤することはほとんどありません。

サントリーの取り組みを取材して、自分の仕事を振り返ってみても、電話での取材や記事の出稿など、出勤しなくてもできる仕事はかなりあると感じました。

東京オリンピック・パラリンピックによる“出勤困難”は大きな課題ですが、オフィスという場所に集まって仕事をする今の働き方を見つめ直すいいきっかけになるかもしれません。

一方で、オフィスで同僚と話しながら、新たな取材のアイデアが生まれるのも事実。竹舛課長が言うような「柔軟な働き方」で、仕事の効率を上げていければいいのかなと感じた取材でした。
経済部記者
仲沢啓

平成23年入局
福島局、福岡局を経て
現在、流通・食品業界などを担当