幼すぎる結婚、少女を襲う“恥辱の病”

幼すぎる結婚、少女を襲う“恥辱の病”
15歳で結婚させられてすぐに妊娠。しかし、幼い体は出産に耐えられず、大切な産道などに穴が開き、失禁が止まらない病気にかかってしまう。「フィスチュラ」と呼ばれるこの病気に、世界では200万人と推定される女性がかかっています。その背後には、格差の広がりとともに増え続けている「児童婚」があります。アフリカで見たその実態は極めて深刻なものでした。(ヨハネスブルク支局長 別府正一郎)

出生率7.0の国

1人の女性が生涯に産む子どもの数の平均を出生率と言います。日本は1.4。韓国は1.1。アメリカは1.8です。では世界で最も出生率が高い国はどこか。それはアフリカのニジェールです。出生率は7.0。この国では、女性は平均して7人の子どもを産んでいる計算になります。
首都ニアメーの中心部を訪ねると、どこも、人、人、人。人波にもまれ、40度近い灼熱の気温でもうろうとしながら、「ここがまさに“人口爆発”の現場なのだ」とまざまざと実感しました。

そして人々の旺盛な消費に支えられて起きているのが、これまで見られなかったような経済成長です。ニアメーのあちらこちらで、大型のビルの建設工事が見られました。

児童婚は広がり続けていた

しかし、人口急増の影で深刻な問題も広がっています。まだ子どもなのに結婚させられる「児童婚」(国連では18歳未満の結婚と定義)です。
ニアメーで女性たちに話を聞くと、誰もが「子どもはたくさんほしい」と答えます。確かに昔から、ニジェールなどアフリカの一部の国々では、女性は若くして結婚して、早くから子どもを産むのがよいとされています。子どもが多いほど農作業の労働力が確保でき、年老いてからも面倒をみてもらえると考えられてきたからです。
15歳の時に結婚し、子どもは4人。ニアメーで暮らすアイシャ・ブバカールさん(45)が家庭を持つに至った経緯はニジェールの女性ではごく一般的です。

「親から『夫を用意したから結婚しろ』と言われました。それだけです。自分の選択だったかって?私の考えなど何ひとつ考慮されませんでした。本当はもっと学校に行きたかったんです」(アイシャさん)

児童婚を支えるのがこうした古い習慣や考え方だけならば、時の経過とともになくなっていくはずです。しかし、現実にはそうなっていません。

昨今の国の成長の陰で格差も広がり、経済的な理由から娘を結婚させることも増えているからです。いわば「口減らし」です。ニジェールでは18歳から24歳の女性のうち、18歳になる前に結婚した女性は76%にも達しています。

世界で最も出生率が高い国は、世界で最も児童婚が深刻な国でもあるのです。

児童婚の少女を襲う病

幼すぎる結婚や出産は女性の教育の機会を奪うだけでなく、少女たちの体にも深刻な負担を強いることがあります。「フィスチュラ」という病気です。

フィスチュラは、数日にもわたる難産で胎児が産道を圧迫することで、産道の一部がえ死して穴が開き、隣にある膀胱(ぼうこう)や直腸とつながってしまう病気です。このため膣から尿や便が漏れるようになってしまいます。少女たちは、体がまだ小さく難産になりがちなため、この病気になるリスクが高まります。

日本のように医療が整っていて、帝王切開ができる先進国ではすでに無くなった病気です。私自身も知らず、妻をはじめ、何人かの日本の女性に聞いても誰も知りませんでした。
しかし、アフリカでは依然として深刻な病気で、ニジェールでも毎年500人ほどがこの病気になっていると見られています。ニアメーにある病院では、医師たちが「フィスチュラ」を患う女性たちの手術と治療を行っていました。
患者たちは、袋を抱えながら過ごしていました。膣に管を入れ、流れ出てしまう尿をためているのです。
ビンタ・ウァンヘールさん(25)は15歳で結婚させられ、すぐに妊娠しましたが、結果は死産。このとき、フィスチュラになりました。ビンタさんは「とにかく尿や便を失禁してしまうのがとてもつらいです」と話します。

フィスチュラは少女の身体を傷つけるだけでなく、それに伴う恥辱が心までをもむしばむのです。

被害は身体だけにとどまらない

こうした患者の苦痛は、家族や地域から排除されるという社会的な問題によって一層深刻になっています。

手術すれば治る病気ですが、完治するまで何度も手術を受けなければならず、その間に夫から離婚を言い渡されたり、地域から排除されたりするケースが多いのです。ビンタさんも、夫から離婚されたといいます。
病院の医師のイドリサ・アブドレイさんは、「失禁に伴う異臭の問題によって、患者は周囲の差別にあいがちです。本人自身が嫌がって、家から出ずに殻に閉じこもってしまい、心を病んだり自殺をする女性だっています」と話していました。

児童婚の撲滅に向けて

児童婚はどうしたら撲滅できるのか。そのアプローチの1つは、少女たちの経済的な自立を促すことです。
ニアメーにある洋裁学校では、UNFPA=国連人口基金から学費を全額支援された少女たちが通っていました。職業訓練を受けさせてお金を稼げるようにすることで、貧困を背景とした児童婚をなくすことを目指しています。

その効果は明らかでした。生徒の1人、19歳のマリアムさんは、以前は、親から早く結婚するよう迫られていました。しかし、学校に通うことで結婚以外の選択肢が見えてきたと言います。
「親の言うことも分かるんですよ。ぷらぷらしてるくらいで何も稼いでないんじゃ、『さっさと結婚しろ』と言われると、それもそうかなって。だけど、この学校に来て変わりました。今は、手に職をつけて、自分の店を持ちたい。そこで、以前の自分のように結婚するしかないって思っている若い子を雇ってあげたい」(マリアムさん)
マリアムさんに結婚についての考えを尋ねると、「結婚どうするかって?そりゃ、いつかはするわよ。でも、まずは自立。自立が先」ときっぱりと言い切りました。

国連の関係者は、児童婚を撲滅するには「少女たちを一年でも長く学校に通わせることが重要だ」と強調します。実際、76%と世界でも最も高い児童婚の割合のニジェールですが、中学校以上の教育を受けた女性に限れば、その割合は17%にまで低下します。
UNFPAニジェール事務所のザレハ・アウマナさんは、「ニジェールにおける児童婚の問題とは、つまるところお金、つまり、貧困の問題なのです。女性たちに機会を与えることが必須だ」と話しています。

アフリカの未来を見据えて

人口が爆発的に増え、消費も増えて経済成長するアフリカ。しかし今、大きな岐路に立っているようにも見えます。

教育も医療も十分に受けられない若者であふれるのか、それとも、一人一人が能力を発揮してさらに成長できるのか。後者の道を歩むためには、各国の政府が教育や貧困対策という足元の課題に全力で取り組むことが求められています。

世界の豊かな国々は、市場としてのアフリカに熱い視線を送り、「地球最後のフロンティア」への進出競争にしのぎを削っています。しかし同時に、アフリカの人々の暮らしに直結した支援を続けていくことは、アフリカの未来を見据えた責務でもあるのです。
ヨハネスブルク支局長
別府正一郎