仕事が不安定なのは“自己責任”ですか

仕事が不安定なのは“自己責任”ですか
全国の自治体で急増する非正規公務員。取材を進める中で、NHKにも多くのご意見が寄せられています。ただ、中には「待遇が悪いと知っていて働き始めたのでは?」「ほかの仕事を探せばいい。自治体が悪いといっても何も変わらない」など、改善を求める声に否定的な意見もあります。口々に出てくる“自己責任”という言葉。この重い言葉の意味。たくさんの方に考えてほしい、知ってほしいと思いました。(「非正規公務員」取材班ネットワーク報道部記者 岡田真理紗)

投稿にも“自己責任”の言葉

NHKに意見を寄せてくださった中に「みずからも地方の自治体で非正規公務員として働いた経験がある」という方が。以下の内容が印象に残りました。
「契約は契約、臨時は臨時でしかありません。誰でもなれる広い玄関から入っておきながら、狭い道をくぐってきた正規職員並みの待遇を求めるほうが間違っています。もし公務員にしかできない仕事がしたかったのなら、そういった資格を取ったなら、なぜ若いうちに公務員試験を受けなかったのか。民間企業で正社員の口を探すべきです。全て自分の責任です」(投稿の一部を抜粋)
投稿には連絡先が記載されていなかったので、直接、お会いしてお話を聞くことはできませんでした。ただ、この言葉はとても重く、考えさせられました。

非正規公務員として働く人は“自己責任”という言葉をどのように受け止めているのか、考えているのか。取材を始めました。

「もっと頑張っていれば」と言われると…

「非正規公務員の実情を知ってほしい」と投稿を寄せた首都圏のある自治体で学校事務の臨時職員として働くミキさん(30代)(仮名)に、「“自己責任”ではないか」という意見を聞いてどう思うのかたずねました。
「努力することは大事だと思いますし、絶対に必要です。ただ、自己責任と言われたら正直、何も返す言葉が見つかりません。あんな就職氷河期でも“もっと頑張っていれば安定した仕事が見つかったはず”と言われると…」(ミキさん)
ミキさんは大学卒業後、氷河期で就職先が見つからず3年間のパート勤務を経てやっと民間企業の正社員になりました。
しかし、夜遅くまでの長時間労働。休みもほぼ週1日。体調を崩し、数か月で退職しました。

その後、20代の半ばから、公立の学校事務の臨時職員として働き始めました。仕事は先生全員分の給与計算や備品管理、来客対応。先生の給食の配膳もやっているということです。事務員が1人しかいない学校の場合は、お昼休憩も自分の席に座りっぱなし。電話や来客の対応をしながら、合間に昼食を食べるので、実質休憩はないも同然だといいます。

臨時職員は「1年未満の契約」という建て前上、3月30日付けで退職。そして4月1日から契約開始ということが繰り返されたといいます。

契約を5回以上更新し、35歳で迎えた3月、新年度を目前に「更新はありません」と告げられました。

今度こそは安定した仕事をと、就職活動をしましたが、年齢は30代後半。非正規雇用を繰り返してきたミキさんは内定をもらうことができなかったといいます。

1年間、貯金を取り崩して生活したあと、今、再び別の学校の事務員として働いています。独身で実家暮らし。将来、親もいなくなったらどうしようと不安だといいます。
「私が意見を投稿したのは、仕事を頑張ったら、努力をしたら、その分必ず報われるという人ばかりではないということを知ってほしいという思いからです。真面目に働いていないわけじゃないんです。『助けて』とかそういうことでもないんです。本当は正社員とか正規職員になりたかった。だけど、社会の大きな流れの中で、仕組みの中で、契約を切られたり権利が弱かったりする存在になってしまった人がいることを知ってほしい」(ミキさん)

いつか自分自身に返ってくる言葉

神奈川県のある市で、公立のこども園の臨時職員をしていたアヤさん、39歳です。(仮名)「“自己責任”と言うことはいつか自分自身にかえってくる言葉だと思う」と話します。
アヤさんはおよそ10年前、民間の保育施設で保育士として働いていたとき、第1子を妊娠。しかし「うちには産休も育休もない」と言われ、そのまま退職に追い込まれてしまいました。

その後、仕事を再開し、転職を経て、自治体が運営する公立のこども園の臨時職員として働き始めました。
アヤさんの夫は工場に勤務していますが、朝7時前に自宅を出て、夜9時すぎに帰宅する生活。保育園の送り迎えはアヤさんがほぼ1人でしなければならないといいます。

両親に助けを求めようとも考えましたが、実家は車で1時間かかる距離で、日常的なサポートはのぞめません。そんな中で、自治体の臨時職員に応募したのは勤務が8時半から16時までで、子育てとの両立がしやすかったことが大きかったといいます。

“我慢をするのが当たり前”

しかし、非正規公務員として3年間働き、2人目の子どもを妊娠したとき、職場の上司から「産休を前に契約期間が満了するので退職してほしい」と告げられました。
自治体で働く臨時職員は本来は1年以内の契約が前提のため、法律上、育児休業制度の対象には含まれていません。しかし、実際には契約を繰り返し更新して何年も働き続ける人が少なくありません。
「仕事を失ってしまったら、上の子は保育園に通えなくなります。また、産休に入る前に退職してしまったら出産手当金が受け取れなくなります。これまで社会保険料をおさめてきたのに、なぜ臨時職員だけが育児休業の制度がないのかと思いました。労働組合に入り交渉した結果、産休が終わるまでは契約期間を延ばしてもらうことができましたが、結局、退職せざるをえませんでした」(アヤさん)
“自己責任”という言葉をどう思うか聞きました。
「その人の“自己責任”と片付けてしまうのは簡単だと思います。誰もが本当はこうしたい、でもできないという何かしらの“負い目”があるわけですから。私の場合は、育児中で夫や家族に保育園の送迎を頼むことができないため、正職員に求められる早番や遅番ができないという事情があります。ただ、育児や介護の事情を抱えた人も仕事で責任を果たしていることは同じで、そこで事情を理由に優劣をつけ始めたらキリがないですよね。“自己責任”という言葉を強く言えば言うほど、経済的・健康的に弱い立場になった時に我慢をするのが当たり前という“差別の意識”を迫られるという印象を受けます。“自己責任”と言うことはいつか自分自身にかえってくる言葉だと思います」(アヤさん)

取材を通じて…

今回、取材に応じてくれた2人は、自分が働くことができる、または自分のことを受け入れてくれる、そうした職場を探し続け、厳しい現実に直面しながらも「非正規公務員」として働くことを選んでいました。

しかし、その背景には就職氷河期の就職難や妊娠・出産すると仕事を続けることが難しいという、個人ではどうしようもない大きな課題があることも感じました。

確かに努力は必要ですし、仕事は自分で責任を持って自分で選ぶもの。ただ、「自己責任」という言葉だけを前面に押し出し、働く人たちからの改善をのぞむ声を無視してしまったら、苦しい時に声を出すことが許されない、そんな息苦しい社会になっていくのではないだろうか、取材を通じてそう感じました。

みなさんは“自己責任”という言葉、どう考えますか。