新海誠監督 批判を乗り越えた先に

新海誠監督 批判を乗り越えた先に
アニメーション映画「君の名は。」が記録的なヒットとなった、新海誠監督。

3年ぶりとなる最新作「天気の子」が、7月19日から公開される。

「君の名は。」のあと一段と注目度が増した新海監督は、何を考え、どのような作品を作り上げていったのか。およそ1時間におよぶインタビューで監督が口にしたのは、「より批判される作品を作る」という強い思いだった。(科学文化部記者 岩田宗太郎 おはよう日本 ディレクター 白川貴弘)

「公開が近づくにつれて不安に」

新海誠監督は、長野県出身の46歳。平成14年に短編作品「ほしのこえ」をほぼ1人で作り上げてアニメーション監督としてデビューした。

平成28年に公開された「君の名は。」は、興行収入250億円、観客動員数1900万人の記録的ヒットとなった。インタビューは、3年ぶりとなる新作「天気の子」の公開を目前に控えたある日、東京都内のスタジオで実現した。
今は完成直後、公開直前なんですが、大変落ち着かないですね。

ちょっと前までは自信があったんです。絶対におもしろい映画だと。
少なくとも劇場に来たことを後悔させない、僕たちは全力をぶつけたんだという自信があったんですけども、公開が近づくにつれて不安になってきて。

大丈夫だったのかな、スタートから間違えてないかなとか、そんなことを考えています。

新作のテーマは「天気」

「天気の子」のテーマは、ずばり「天気」だ。

東京にやってきた家出少年が、祈ることで空を晴れにする不思議な力を持つ少女と出会うラブストーリー。
新海監督は、誰にとっても身近な「天気」をアニメーションの題材にしたらおもしろいのではと考えたと話す。
天気って自分からずっと離れた場所、何十キロ離れた場所で起きている惑星規模の巨大な現象じゃないですか。循環現象ですよね、水蒸気の循環現象。

なのに朝起きて天気を見るだけで気分が変わる。
すごく落ち込んじゃうこともあれば、勇気づけてくれることもできる。
肉体的な感じ方も変わったりしますよね。頭痛いとかすっきりするとか。
なんておもしろいテーマなんだろう。

特に「君の名は。」を作り終えたあたりから、天気というのがだいぶ変わってきたなという実感も、おそらく僕だけじゃなくてみんなあると思うんです。
日本の四季って穏やかで美しくて情緒的なものという気分で描いてきたんですけど、「君の名は。」が公開された2016年あたりから、季節の移り変わりは、楽しみなものというよりは、危ないものになってきた。
それは報道を見ていても感じるし、実際起きている出来事を見ても、体感としてあるわけですよね。

ますます自分たちと無関係でないものに向き合わないといけなくなってきた。その感覚を、エンターテインメント映画でどう語ることができるだろうというのがきっかけですね。

なので「天気の子」で描かれる季節や雨というものは、なるべく美しく描こうとはしているんですけど、物語の中で果たす役割や機能というのは、少し人間をおびやかすもの。そういう要素がだんだん増えていきますね。

ヒットで何が変わったか

社会現象とも言える「君の名は。」のヒットによって、監督を取り巻く環境は一変した。これまでの作品を見たことがない人たちが作品を見ることで、好意的な意見だけではなく、批判を浴びることにもなったという。
「君の名は。」という作品は、すごくポジティブな意見をたくさん届けてくれた映画ではあったんですけど、それと同時に大きな批判もすごくいただいた映画だったんですね。その中でショックを受けた意見もいくつかあって。

例えば「災害をなかったことにする映画だ」という言われ方には、結構ショックを受けたんですね。確かに見方によってはそういう見方ができなくもない。
「君の名は。」の中で災害は起きるんですが、死んでしまった人を生き返らせる。僕はあれは、生き返らせる映画ではなく、未来を変える映画のつもりで作ったんですよ。あるいは、強い願いそのものを形にするとこういうものなんじゃないかっていう形が、映画の『肝』だったんですけど。

でも、「代償もなく死者をよみがえらせる映画である」「災害をなかったことにする映画である」という批判は、ずしんとくるものがあって。

「批判をされる映画を」

そんな中で模索を続けた、次回作のテーマ。

作りたいものを押し殺して批判が出ないような作品を作るべきか、それとも自身の思いを反映させた、作家性の強い作品を作っていくべきか。

結論は「より批判されるものを作ろう」という強い思いだった。
次に作る映画をどういうものにしようかと。

「君の名は。」を批判してきた人たちが見て、より叱られる、批判される映画を作らなければいけないんじゃないかというふうに思いました。

「君の名は。」には、それだけ人を怒らせた何かが映画の中にあったはずで、怒らせるというのは大変なエネルギーですから、何か動かしたはずなんですよね。そこにこそ、きっと自分自身に作家性のようなものがある。

あるいはもっと叱られる映画を作ることで、自分が見えなかった風景が見えるんじゃないかという気もしたんですよね。
「より批判される映画を」という思いから作り上げてきた今回の作品について、新海監督は「賛否が分かれる映画になった」と表現する。
「天気の子」では、見た人に「よかった」「あれが好き」と言ってほしいですけど、そこだけをねらわない。全員がいいと言ってくれることは原理的にないんだから、なるべく多くの人に「よかった」「これは好きだ」「もう一回見たい」と思ってもらいたい中で、そこの範囲で収まらないものをはっきりねらっていこうと。

そういうことを考えながら作り始めた映画だったので、賛否が分かれるかもしれない。

人間関係も、「君の名は。」より複雑なキャラクターを描いている。おっさんも出てくるし、子どもも出てくるし、おばあちゃんも出てくるし、世代によって受け取り方も違うだろうし。

映画のテンポ自体も、「君の名は。」はとても速いテンポの映画でしたけど、今回も音楽の疾走感に近いような映画ですから、シンプルな映画ではないですね。

社会の変化も作品に

「天気の子」の中には、作品を手がけていた3年間の社会の変化も描かれている。

日本経済が悪化しているという監督自身の実感をもとに、食事などを表現したという。
やっぱり3年ってあっという間のようでいて、暮らしていく社会や世界そのものはどんどん変わっていく。

めまぐるしい変わり方をしているなというのは、たぶん僕だけでなくて皆が実感があって。

一つは「君の名は。」の時は登場人物がちょっときれいな家に住んでいるんですよ。日本家屋なんだけど広々としていて、旅館のような家に住んでいるんですね。あれは、企画会議で出た話をよく覚えているんですけど、「ちょっと憧れる、みんなが住みたいような家にしたいよね」というような話をしたんですよね。
でも、今回作品を作り始めた時の2017年の頭くらいは、もうすっかりその気分が変わっていて。おいしいごはんを食べるというよりは、ジャンクフードを食べる、家で節約料理を作るみたいなもののほうが僕たちの気分だし、節約しなきゃという気分。

要は『お金ないなあ』という気分。『仕事なかなか見つかんないな、あったとしても時給低いな』みたいな。そういうのが「天気の子」を作り始めた時の気分だったんですよ。

なので、キャラクターの描き方はそれによって少し変わったかもしれないですね。『時給いくら』みたいな話も出てくるし。
一方で、新海監督が作品づくりのなかで貫いたのが、「エンターテインメント性」。アニメーションや歌、漫画などに救われてきた日々を思い返し、思春期の若者たちに響く作品を作りたかったという思いを明かした。
いつも強く思っているのはエンターテインメント、特にアニメーションのエンターテインメント。

こういうものを心底強く求めているのは、やっぱり若い人たちだと思うんですよ。娯楽全般が成長に必要なのは若者だと思います。

それをいちばん必要としてくれる人たちに、なるべくいちばん必要なものを届けたいという気持ちは強いので。まずは10代20代、思春期を抱えた人たちに向けたいなと。

そのうえで、そうじゃない人たちにとっても響くものをたくさん入れたいなというのはあります。

批判を乗り越えた先に

公開ギリギリまで手を加え、関係者向けの試写会のないまま公開される「天気の子」。新海監督は「君の名は。」に対する批判を踏まえたうえで、「描きたい世界を描く」という自身の作家性を貫いた。

「今の時代だから見てほしい映画だ」と自信をのぞかせている。
見ていてワクワクしてドキドキできるエンターテインメント映画というのが、自分が最初に課したいちばんの目標ですから、そこは揺らいでないと思います。

その中でも、「君の名は。」では描かなかった別の部分というのは描いていると思います。全力で組み立てたエンターテインメント映画であると同時に、例えば政治の言葉、報道の言葉、教科書の言葉でない、絶対に言えないことを叫ぶ映画でもあるんですね。

それを映画館で見て、共感した、反発を感じた、どういう気持ちでもいいので、何か持ち帰っていただける大きな感情があるはずだと思うんです。それを劇場で感じていただければこれ以上の幸せはない。
科学文化部
記者
岩田宗太郎
おはよう日本
ディレクター
白川貴弘