ママだけが通う高校~育児も学業も頑張るそのわけは~

ママだけが通う高校~育児も学業も頑張るそのわけは~
アメリカのある高校を訪ねると、生徒はみなベビーカーを押して登校し、校内にある託児所に子どもを預けて授業に向かっていました。

ここは、妊婦と母親のみを受け入れる「母親限定高校」。

なぜ、“ママ”しか通えない高校があるのか。その理由を取材すると、妊娠・出産をした高校生を支援しなければならない現状がみえてきました。(国際部記者 岡野杏有子)

生徒はみな「ママ」

「母親限定高校」は、アメリカ・コロラド州デンバーにあります。

「フローレンス・クリテントン高校」。

35年前に設立された公立高校です。生徒は200人。みな若くして子どもを妊娠・出産したママです。特徴の1つは、校内に託児所があることです。
生後6週間から4歳までの子どもを預かっています。また、数学などの通常の科目に加えて、育児の授業もあります。子どもの成長過程などを学び、母親としての基礎を身につけてもらうためです。

夢のために、息子のために…

この高校に通うマヤ・ロドリゲスさん(17)。

16歳の時の4月に妊娠が発覚。その夏、この高校に入学しました。当初は、地元の高校に通い続けることも考えました。
しかし、校長から「ほかの高校に通ったほうがいいのではないか」と遠回しに退学を勧められたといいます。
「高校には私の居場所がないんだと思って、とても傷ついた。妊娠したことを後悔したし、中絶することも考えた」
ロドリゲスさんは、2018年12月に息子のイライジャ君を出産。6週間休んだのち、学校に復帰しました。
しかし、育児にも慣れていない中で、学業との両立は、並大抵のことではないといいます。自宅で勉強していても、イライジャ君がぐずって泣き出すと、中断してあやさなければなりません。
また、ロドリゲスさんは、ほぼ毎日、飲食店で働いていて、帰宅も夜遅くなります。そのため、勉強にとりかかれるのは子どもを寝かしつけたあとになってしまい、時には勉強しながら眠ってしまうこともあるそうです。

もともとは、学校や勉強はあまり好きではなかったロドリゲスさん。
母親となったいま、勉強に育児が加わり、より大変にはなったものの、休まず学校に通っています。社会福祉士になるという将来の夢を果たすため、そして、何よりも息子のイライジャ君のためにという思いからです。
「息子が産まれるまでは、学校のことなんかどうでもよかったけど、今は、息子を立派に育てたいと思うし、息子にとって自慢の母親になりたい。だから、勉強を頑張れるようになった。携帯の待ち受け画面の息子の写真が励み。この高校がなければ、今頃、たぶん落ちこぼれていたと思う」(ロドリゲスさん)

無事卒業しても、待ち受ける“就職”のハードル

しかし、無事、高校を卒業したからといって、安定した職業に就ける保証はありません。学業を続けるにしろ、就職するにしろ、子どもがいることが、ほかの同世代と比べてハードルになっていることは事実です。
いずれの道も、彼女たちにとって、当たり前ではないのです。
そこで、「母親限定高校」では、在学中から、将来の人生設計を考える取り組みを、3年前から始め、生徒たちの進路相談に乗る専門の相談員を、1人配置しました。大学進学後、学業を続けながらできる仕事を紹介しているほか、履歴書の書き方を指導したり、面接のアドバイスをしたりしています。
また、高校卒業後に、すぐ就職できることも目指して、在学中に看護や医療事務といった資格の取得ができるよう、専門のクラスを設置しました。こうした手厚い支援をすることで、卒業後にブランクができることを防げると、学校は考えています。
「この高校の生徒は、ほかの生徒とは違い、多くの困難を抱えている。だからこそ、高校にいる間にできるかぎりのサポートを行い、選択肢を広げてあげたい。彼女たちが成功すれば、その子どもたちも成功することにつながる」

貧困になるその手前で支援

どうして、ここまで公立の学校が、母親の生徒に手厚い支援をするのでしょうか?

先進国の中でも、10代の妊娠率が高いアメリカでは、妊娠・出産をした生徒から教育を受ける機会を奪ってはいけないと法律で定められているためです。

妊娠・出産によって高校を中退すると、就職の際に必要な高校卒業の条件を満たしていないため、職に就けずに貧困に陥り、公的支援に頼らざるをえなくなるおそれが高まることが、これまでの調査で分かっているからです。

この母親限定高校は、授業や託児所といった費用はすべて無料です。
しかし、コロラド州の予算だけでは運営は厳しく、高校とNPOが連携し、寄付金に頼ることで実現しています。

それでも、コロラド州には、こうした学校がほかにも4校あります。自治体が支援することで、高校生・自治体の双方にとってプラスになると、担当者は言います。
「高校を卒業しないと、就職できずにホームレスになるなど、負の影響が出るとされている。だから、高校を卒業して、進学・就職といった次のステップにつなげられるようにしなければならない。支援することで、貧困の連鎖を断ち切ることにつながる。州としては大きな投資だが、リターンは大きい」

日本では?

妊娠した高校生が、貧困に陥らないようにと、社会の問題としてととらえて支援を進めているアメリカ。

一方、日本ではどうでしょうか。文部科学省は、去年、初めて、全国の公立高校が把握した妊娠した生徒の数を発表しました。

その数、2098人。
しかし、高校が把握していないケースもあると思われ、これは氷山の一角だとの指摘もあります。
この問題を調査している、奈良女子大学の武輪敬心さんです。
高校を卒業するまでに出産した経験をもつ30人から聞き取り調査を行いました。その結果、30人中15人が出産後に生活保護を受けた人か、あるいは、生活保護水準以下とみられる収入で暮らした経験があることがわかりました。

さらに調べると、子どものころに虐待を受けたとみられる人が過半数に上りました。武輪さんは、女子生徒たちが、家庭の外に居場所を求めたことが妊娠につながった背景の1つだと分析しています。
「経済的に苦しかったり、ネグレクト(育児放棄)を受けていたりした人たちが、あまりにも対象者の方たちに多く、彼女たちの妊娠に至る経緯をみると、自己責任と決めつけることはできないのではないかと強く思う。社会でサポートしていくことが非常に重要だ」(武輪敬心さん)

高校生で妊娠しても、輝ける人生を

日本では、高校生の妊娠・出産は「個人の責任」とする風潮があります。
支援も整っていません。
託児所のある高校は少なく、支援をしている自治体もごくわずかです。家族などの支援がなければ、幼い子どもを抱えて高校に通い、卒業するのは容易ではありません。
日本で、高校生の時に妊娠した人に取材すると、自分を責める人が多く、将来を悲観している人もいました。
一方、アメリカの生徒たちは、子どもを産んだことでむしろ、夢を見つけたり、勉強に励む意欲が出たりしたと話していました。
そして、印象的だったのは、彼女たちの生き生きとした表情です。高校生で妊娠したことへの偏見を感じながらも、前を向いて生きていく強い意志を感じました。

もちろん、自立できていない中で、妊娠・出産することは推奨すべきことではありません。
ただ、子どもを産んだとしても、彼女たちの将来の選択肢を狭めることなく、どうすれば輝ける人生を送ることができるか、支援を考えていく必要はあると思います。
国際部記者
岡野杏有子