あなたの“終の住処” どう選びますか?

あなたの“終の住処” どう選びますか?
人生100年時代。年間10万人近くが老人ホームで最期を迎えています。
まさに今、自分や親の入居先を探しているという人もいるのではないでしょうか。
施設を探す際に最も気にかけることは何ですか?
「立地」「環境」「設備」そして何と言っても「お値段」…
しかし、それだけで“終の住処(ついのすみか)”を決めると、後々困ったことになるおそれもあるんです。
(社会部記者 永野麻衣)

突然の知らせ

ことし1月、都内のある有料老人ホームの入居者やその家族に、一通の書類が送られてきました。施設の運営会社の経営破綻の知らせ。負債総額は53億8600万円。
この業界では、過去2番目の大型倒産でした。
ほどなくして開かれた説明会。
入居者やその家族から不安の声が次々に上がりました。
「入居契約はどうなるのか?」
「食事の質や入居者の待遇はどうなるのか?」
「今までどおりの生活ができるのか?」

大きな会社だったのに…

老人ホームを運営していたのは、首都圏で37か所の施設を展開する「未来設計」。

年間100億円規模の売り上げがありましたが、同業他社との競争が厳しさを増す中で、20億円余りもの資金の不正流用や粉飾決算の疑いが発覚し、持ちこたえられませんでした。

「事業継続」の落とし穴

未来設計は、裁判所に民事再生法の適用を申請しました。
破産手続きのように会社を消滅させて清算するのではなく、裁判所の監督のもと事業を継続しながら再生する道を選択したのです。

福岡市にある親会社が事業を受け継ぐ見通しになり、入居者はすぐに退去を迫られるようなことにはならずに済みました。
ところが…
入居者が最初に支払っていた高額の「前払い金」の行方が問題となりました。
金額は、部屋のグレードなどに応じて、最低240万円から。
都心のホームでは2000万円近いプランもありました。
このお金は家賃の前払いのようなもので、「前払い金なし」のプランもありました。しかし「前払い金あり」だと一定年数経過したあとは、月々の家賃が安く抑えられます。つまり長く利用すればするほど割安になる仕組みで、多くの入居者が長生きを願い、「前払い金あり」のプランを選んでいました。

ミンジサイセイ??

「民事再生」と言われてもどんな手続きかイメージが湧かない人も多いと思います。

民事再生の場合、会社は存続し事業も停止しませんが、そうはいっても赤字会社の破綻処理手続きなので、弁護士が入って債務を整理することが前提です。

「前払い金」は、法律的には、あくまでも入居者からの預かり金です。入居から5年など定められた年数がたっている場合は、すべて月々の利用料金に充当済みのため原則返金されることはありませんが、それ以前に退去したり亡くなったりした場合は、一部返金されることになります。
再生計画を担当する弁護団によると、こうした返金の対象となる可能性がある利用者(債権者)は1000人超。

会社に融資していた金融機関や取引業者などの大口の債権者がいる中で、入居者やその家族は、小口の債権者として再生計画で示される配当率に応じた分配を待たなければなりません。

弁護団は「現在再生計画案を作成中だが、高い配当率は期待できないだろう」としています。
会社の建て直しのため、新たに就任した未来設計の洞寛二社長は「利用者や関係者の方々にご心配とご迷惑をおかけして申し訳ありません。経営を正常な形に戻し、入居者の生活を守っていきたい」と話しています。
しかし、例え最終的にお金が戻ってきたとしても、予想外の経営破綻に煩わされ失った「人生の終盤の穏やかな時間」は取り戻すことはできません。

増える「介護事業者の倒産」

「老人福祉・介護事業」分野では、近年倒産が増加傾向で、年間100件を超えています。特に去年は、未来設計のような「有料老人ホーム」の運営会社の倒産が前の年の2.3倍にのぼりました。

民間の信用調査会社「東京商工リサーチ」は「競争の激化で入居者の確保に苦慮する事業者の破綻が目立ち、経営基盤のぜい弱な事業者を中心に『ふるい分け』が進んでいることがうかがえる」と分析しています。
先週発表された最新のレポートでも、介護事業者の倒産が過去最多ペースとなっていることが判明。東京商工リサーチでは、こうした状況に警鐘を鳴らそうと、通常年1回の倒産件数まとめを途中経過の段階で公表しました。
東京商工リサーチ情報部の後藤賢治課長は、次のように話します。
「介護業界は、高齢化で市場の拡大が見込まれるため新規参入が多いのが特徴だが、その一方で、知識や経験、それに人との接し方などのノウハウなどがないと存続するのが厳しい業種でもある。介護の現場は人手不足が深刻で、今後はさらにほかの業種とも人材の奪い合いをしなければならなくなるため、事業が成り立たずに倒産する企業が増えるおそれがある」

「介護が必要になった人やその家族に、きちんと介護事業者を選ばないと倒産などのトラブルに巻き込まれるリスクがあるということを知ってもらいたい」

知っておきたい 介護事業者の見極め方

では、入居を検討している施設を見極めるにはどうすればいいのか?
後藤課長のオススメの方法は、運営会社の登記簿をとってみることです。
「面倒だな」と思う方も多いかもしれませんが、今はわざわざ法務局の窓口に出向かなくても、民事法務協会が提供している「登記情報提供サービス」のサイトなどで1件数百円程度で簡単に入手できます。

チェックポイントは、4点です。
(1)会社成立の年月日
(2)資本金
(3)社名(商号)
(4)代表者・役員
そのうえで、新規参入業者なのか、設立からある程度経過して実績がある業者なのか。資本金は十分か。社名を頻繁に変更していないか。代表者や役員が短期間でコロコロ変わっていないか。
これらを確認するだけでも、安定した会社かどうか判断する1つの目安になるということです。

“終の住処”探しは事前のリスク検討が求められる時代に

また介護施設に詳しい淑徳大学の結城康博 教授は、介護施設の経営環境が厳しさを増す中で、利用者の側も事前にしっかりとリスクを検討しなければならない時代になったと指摘します。
「老人ホームというと、福祉だということで、一般の人はなんとなく安心で安全なイメージを持っていると思う。しかし、その思い込みがいちばん危ない」
そのうえで、5つのチェックポイントを教えてくれました。
(1)入居率(7割以下だと運営厳しいおそれ)
(2)介護職員の離職率
(3)介護職員が法律の基準より余裕を持って配置されているか
(4)介護福祉士などの資格を持った職員の割合
(5)ボランティアが出入りするなど地域に開かれているか
「しっかりした施設なら担当者が誠実に答えてくれるはずなので、もし口ごもって答えられなくなるようなら注意したほうがいい」(結城教授)
多くの人がいつかは直面する介護の問題。
しかし、必要に迫られてからはじめて介護保険制度について調べたり、老人ホームを探したりする人が多いのが実情です。
家族の住まいに近いから。交通の便がよくて面会に来やすいから。施設が豪華だから。そんな理由だけで安易に入居先を決めると、後々取り返しのつかないことになるおそれがあります。
自分や親が元気なうちから将来の介護について話し合い、施設を利用するならどこがいいのかきちんと調べておくことが大切だと感じました。

NHKではこれからも介護事業者の倒産の問題を取材し続けます。
以下のリンクから情報を提供してください。
投稿には「介護事業者倒産」とお書きください。

https://www3.nhk.or.jp/news/contents/newspost/