スマホ決済の“死角” ~7pay不正利用~

スマホ決済の“死角” ~7pay不正利用~
乱立するスマホ決済に、鳴り物入りで参入した「7pay」。不正利用の被害が相次ぎ、サービス開始からわずか4日で、実質的なサービスの休止に追い込まれました。デジタル化を急ぐセブン&アイ・ホールディングスにとって、今後の成長を引っ張る存在となるはずだった「7pay」は、なぜ出足でつまずいてしまったのでしょうか。(経済部記者 加藤ニール)

わずか4日で…

「身に覚えのないクレジットカードの決済が行われている」

セブン‐イレブンのスマホ決済サービス「7pay」の利用者から、会社に問い合わせが相次いだのは、7月2日の夜のことでした。翌3日、会社はクレジットカードなどから「7pay」の専用アプリに入金する機能を一時的に停止。

しかし、その後も利用者からの問い合わせが相次ぎ、4日になってサービスを運営する「セブン・ペイ」の小林強社長が記者会見し、およそ900人が不正アクセスの被害にあい、被害額はおよそ5500万円にのぼる可能性があると発表しました。

同時にすべてのチャージと新規の登録を停止し、「7pay」は開始からわずか4日で実質的なサービス休止という事態となりました。

成長戦略の柱

この「7pay」。デジタル化に力を入れているセブン&アイ・ホールディングスは、このスマホ決済を今後の成長戦略の柱として位置づけていました。
セブン‐イレブンの永松文彦社長は、サービス開始の7月1日に開いた記者会見で、「日頃から利用者と接点があるコンビニでは、安心感をもって使ってもらえる」と自信を見せていました。

その言葉通り、「7pay」はわずか3日で150万人もの利用客を獲得。滑り出しは順調に思えました。それだけに、今回の事態は大きなつまずきとなったのです。

導入のねらいは

すでにさまざまなスマホ決済が使えるコンビニですが、なぜ独自のスマホ決済を持つ必要があったのでしょうか。ねらいの1つが、利用客の買い物に関するデータの活用です。
セブン&アイのグループには1日2300万人が来店します。いつ、どこで、誰が、何を、どんな組み合わせで買ったのか。スマホ決済の導入が進めば、買い物に関する膨大なデータを分析して商品の開発につなげることができます。

さらに買い物に関するデータの活用は、商品の開発にとどまりません。セブン&アイは、去年6月、通信や鉄道、航空会社、不動産会社など、異業種の企業と連携して、データの活用を目指す研究会を発足。各社のデータどうしを掛け合わせることで、新しいサービスを生み出そうという取り組みも進めていました。
さらにセブン側には、別のねらいもありました。それはすでに自前のキャッシュレス決済として展開してきた「nanacoカード」から「7pay」への切り替えを促すことです。

クーポンの配信が可能な「7pay」は、例えば、朝ごはんにサンドイッチを購入する人には、コーヒーのクーポンを出して、「ついで買い」を促すなど、その人に合わせた販促も可能となります。しかし、「nanacoカード」はクーポンを配信する機能はありません。

すでに広く普及している「nanacoカード」から「7pay」に切り替えてもらうことで、クーポンを使った販促をテコ入れし、売り上げの増加につなげようという訳です。

利便性を考えたはずが…

さまざまな期待と裏腹に、出鼻をくじかれた形の「7pay」。セキュリティーをめぐっては、ほかのスマホ決済では導入が進んでいる「2段階認証」やパスワードの再設定の手続きに、不備があったと専門家から指摘されています。

どうして、ぜい弱とも言える本人確認の仕組みのままサービス開始に踏み切ったのでしょうか。会社は、「利用者の利便性を重視した」からだと説明しています。

「7pay」のサービスは、すでに導入している「セブン‐イレブン」のクーポン配信アプリに、チャージ機能を追加する形でスタートしました。もともとのアプリの利用者であれば、利用規約に同意するだけ。操作は、最短2回のクリックでできる“手軽さ”をウリにしていたのです。
また、パスワードの再設定する際のシステムの仕組みにも問題がありました。パスワードを忘れるなどして再設定する場合、一般的には、あらかじめ登録したメールアドレスに、手続きを進めるためのメールが届く仕組みです。

しかし、「7pay」では、生年月日などを入力すれば、メールの送信先を別のアドレスに送れるようになっていました。「かんたん、便利、おトク」をアピールして始まった「7pay」ですが、結果として、セキュリティーの甘さを突かれ不正利用の被害が拡大することになりました。

会社は、「セキュリティ対策プロジェクト」を立ち上げ、外部のアドバイザーも交えて対策の強化に取り組むとしています。2段階認証の導入や1日30万円が上限だったチャージの限度額を見直す方針で、具体的な対策の検討を急いでいます。

信頼あってこそ

政府は、2016年に20%だったキャッシュレス決済の比率を、2025年までに40%、将来的には80%まで引き上げる目標を掲げています。

10月の消費税率の引き上げに合わせた景気対策として、キャッシュレス決済の利用でポイントが還元される制度が始まることで、さらに注目が集まることが予想されます。

しかし、今回の「7pay」の被害では、利用者から「ほかのサービスも不安」「やっぱり現金が安心」といった声が上がっています。
世耕経済産業大臣は、ポイント還元制度に参加する事業者に対し、どういう不正対策を取っているのか確認する手続きを始めたことを明らかにし、対策が不十分な事業者があれば、参加を取り消す方針です。

便利な一方でリスクも改めて表面化した「7pay」の不正利用。会社では、「2度と同じ事態が起きないという確証が持てないと再開できない」としています。

“キャッシュレス”も、利用者の信頼があってこそのサービスだということを再認識する必要があります。
経済部記者
加藤ニール
平成22年入局
静岡局、大阪局を経て
現在、流通業界を担当