“なかったことにはできない” 顔見知りからの性暴力 8割以上

“なかったことにはできない” 顔見知りからの性暴力 8割以上
「被害者の落ち度」
そう言われ、こともあろうか被害を受けた側が、責められてしまうこともあるのが性暴力被害の実態です。多くの人にその実態を知ってもらおうと、いまでは毎月、全国各地で性暴力へのデモが行われるようになりました。そこで語られるのは被害者たちの思いや苦しい経験です。
“被害がなかったことにされてしまう”
取材で出会ったある女性のことばが、頭から離れなくなりました。
(報道局社会番組部 ディレクター 村山かおる)
名古屋第二赤十字病院にある「性暴力救援センター日赤なごや なごみ」。
日本では数少ない、病院内に設置された支援のためのセンターです。
支援員、看護師、医療ソーシャルワーカー、医師などが24時間態勢で被害者から、電話、時には直接話を聞き、相談に応じています。

被害者本人が訪れた場合は、性暴力被害者支援の専門的な研修を受けた看護師が対応し、院内で診療や避妊薬を処方。必要があれば警察、弁護士、精神科医などの支援機関につなぎます。
4年前の開設以来、750人以上から相談が寄せられ、対応した件数は延べ4000件を超えています。

加害者の8割超が“顔見知り”

何が起きているのか、それを知ろうと2か月にわたって救援センターに通いました。

毎日のように鳴る電話。
助けを求め、被害者やその家族が駆け込んで来ることも。

被害者の年齢層は幅広く、女性だけでなく男性から相談が寄せられることもありました。
最も驚いたのは、身内を含めた“顔見知り”からの被害です。
相談の8割を超えていました。

「会社の上司」「教師」「父親」といった、言わば上下関係があるケースだけでなく、「同僚」や「友人」などからの被害も少なくありません。
「性暴力は仕事や遊び、学校生活など、日常の延長で起きている。誰の身近でも起きている。新たな被害者を生まないためにも、どんな経緯で被害が起きているのか、多くの人に知ってほしい」

“顔見知り”だからこそ

センター長の片岡笑美子さんは、当事者どうしが“顔見知り”だからこその問題があると言います。
紹介してくれたのは、出張先で同じホテルに宿泊した同僚から被害を受けたというある女性のケースでした。
仕事の打ち合わせという認識で自分の部屋に男性を入れた女性は、突然体を触られてパニック状態に陥り、体が硬直して抵抗することができなかった。
性行為に及ばれた。
同意はしていなかったが、部屋に男性を入れたことが悪いと、自分を責めていた。
さらに職場に情報が広まることを心配して、警察や会社に被害を訴えなかった。
“顔見知り”だからこそ、抵抗できなかったり、被害を訴えることが難しかったりすることがあると片岡さんは話しました。

被害が“なかったこと”に…

相談のおよそ4分の1を占めるのが、子どもが被害にあうケース。
そこからさらに深刻な実態が見えてきました。
被害にあった小学生や中学生からの相談です。
「加害者が同じクラスの生徒だったので言えなかった」

「被害を受けたことを周囲に話したが、加害者が教師や保護者から信頼を得ている生徒だったので信じてもらえなかった」
被害にあったことさえ誰にも話せず、相談できたとして信じてもらえないという、子どもたち。

被害にあった人がみずからの被害を“なかったこと”にしてしまう
あるいは被害を“なかったこと”にされてしまう

多くの人が性暴力による“キズ”を癒やすことができずにいる現実が、間違いなくあると感じました。

自分が悪いと思っていた…

被害を“なかったこと”にしてしまう。
その要因の一つが“自分に落ち度がある”と思わされてしまうことにあると言います。
ですが、救援センターは、それは「間違いだ」と指摘します。
看護師に聞いた、アユミさん(仮名)という30代の女性のケースです。
3か月前、飲食店で知り合った男性と酒を飲み、帰宅中、意識がもうろうとする中、2人でホテルに入り、すぐに眠ってしまった。
体を触られて意識が戻り、必死で抵抗。
しかし、無理やり性行為に及ばれた。
救援センターを訪れた時は、アユミさんは妊娠や性感染症の恐怖におびえ、フラッシュバックにも悩まされていたと言います。
相談した友人に「なんで男についていったの」と言われたアユミさん。
「酔って、ホテルについて行った自分が悪い」と考え、自分を責めていました。

レイプをしていい理由は何一つない

担当した看護師は、こう話しました。
「加害者について行った、逃げなかった、抵抗しなかったなど、被害者は落ち度があると言われ責められがち」
「でも、その中に、レイプをしていい理由はある? ない、何一つない」
あなたが望まなかったのであれば、それは性暴力よ
このことばを聞いたあと、アユミさんは警察に被害届を出したということです。

“なかったこと”にはできない

「性暴力は決して“なかったこと”にしてはいけない」

そう思わせてくれたのは、半年ほど前からPTSDの治療を受けているマキさん(仮名・40代)です。
高校生の時に同級生から強制的に性行為をされ、それ以来、体も心も不安定になり、学校に通えなくなってしまいました。

20代後半に、性暴力が原因のPTSDと診断されましたが、治療を受けることができませんでした。
人を信頼することができなくなり、10年以上にわたって家に閉じこもり、日々どうやって死のうか考えていたと言います。

支援センターに相談したことをきっかけに、PTSDの治療に踏み切り、被害から20年以上過ぎた今になって、なんとか過去の被害を客観的に捉えることができるようになったそうです。
「ずっと、本当にずっと苦しかった。相談をきっかけに“なかったことにできない、させてはいけない”そう思えるようになった」

あなたは、“なかったことに”していませんか

取材を通して改めて強く思いました。
相手が望んでいない性行為をしていい理由、レイプをしていい理由はどこにもありません。絶対にありません。
しかし、今も新たな被害者が生まれ、その被害を“なかったこと”にしてしまうという現実が確かにあるのです。

話を聞かせてくれた被害者の声です。
「性暴力の捜査も現在の法律も、性暴力の被害者を救い、加害者を反省させることにはつながっていないように感じる。だから私が声を上げ“性暴力は絶対にダメ”ということを社会に訴えたい」
性暴力の被害を受け、苦しい思いをして、それでもその苦しい思いを語ることで、次の被害を防ぐことにつなげようと声を上げる人たちがいる。
その声に応えられる社会を、私たちが作っていかなければならない、そう思ってる。

近日放送予定の「クローズアップ現代+」では、“なかったこと”にされてしまう性暴力被害の実態と、被害者に及ぼす影響を伝えます。

そして性暴力を防ぐために、何ができるのか、考えていきます。

『クローズアップ現代+』 みんなでプラス“性暴力”を考えるhttps://www.nhk.or.jp/gendai/comment/0006/