霞が関の嫌われ者 “質問主意書”って何?

霞が関の嫌われ者 “質問主意書”って何?
官僚の人たちが、私たち「霞が関のリアル」取材班に寄せてくれた意見のうち、ずっと気になっていたのが“質問主意書”というものです。なんと言ってもその評判が芳しくないからです。どんなものなのか、調べてみました。
(霞が関のリアル取材班 記者 中村雄一郎)

「質問主意書」で退職を覚悟!?

最初にこの質問主意書に対する官僚の皆さんの意見を一部紹介させてください。
「質問主意書が当たると、すべての業務がストップしてしまう」(20代)
「国会答弁よりもはるかにきつい」(20代)
「行政の妨げ以外のなにものでもありません」(30代)
「質問主意書のせいで若手で退職を覚悟する者も少なくありません」(20代)
結構辛辣(しんらつ)な内容ばかりですよね。そこまで官僚を困らせる質問主意書とは一体どんなものなのでしょうか?

質問は国会議員の重要な仕事

国会で質問というと、議員が大臣などに口頭で行っている姿を皆さん思い浮かべると思います。法案や政策についての疑問点を内閣に問いただすのは、議員の重要な仕事です。実は、こうした議員の質問は『文書』でも行うことができます。それが質問主意書と呼ばれる制度なんです。

議員に等しく与えられた権利

しかし、口頭で質問できるのにわざわざ文書で…と思われるかもしれません。実は、少数会派に所属する議員は口頭での質問時間が十分与えられないケースがあります。

ご存じの方もいるかもしれませんが、質問時間の配分は、政府が提出する法案の場合、与党は事前に議論していることもあり、与野党が協議し、野党に時間を譲るのが慣例だったそうです。

しかし、今の与党が、議席に応じた質問時間を求めた結果、こうした慣習が見直され、野党、中でも少数会派にはわずかな質問時間しかなくなりました。

つまり、今の野党にとって質問主意書は、貴重な質問の機会となっているんですね。ちなみに質問主意書は、国会の会期中に提出する必要がありますが、本会議や委員会と違い、国政一般について、広く問うことができます。さらに、会派の人数や所属にかかわらず、誰でもできるということでした。

過去に不正発覚につながったことも

しかし、この質問主意書、どうも霞が関では敬遠されています。そして憤りの矛先は、これを多用する野党の議員に向けられることが多いようです。
(20代官僚)
「野党の先生たちにとっては、質問が重要だというのはよく分かるんです。ただ、大臣が発言した理由とか、僕たちに聞かれても困りますよね。政府の見解を問うというのなら答えられるのですが」
しかし調べてみると、この質問主意書が行政の不正を暴く上で、力を発揮したケースは少なくないようです。

1995年(平成7年)に、いわゆる薬害エイズ事件で、当時の厚生省が血液製剤に問題があると把握したあとも、回収していなかったこと、さらに、2004年(平成16年)には、当時の社会保険庁が年金の保険料を公用車の購入や外国出張費として流用していた問題が、いずれも質問主意書によって明らかになっていました。

こうみると、質問主意書は、世の中の役に立っているように思えますね。

【官僚の負担1】1時間ルール

官僚にとっては何が負担なのでしょうか。取材から見えてきたのは、数々の厳格なルールです。

ある省庁に勤める官僚がまず挙げたのが「1時間ルール」なるものです。このルールは、質問主意書が出されると、どの省庁が担当するか1時間以内に決めなければならないというものだそうです。
(20代官僚)
「質問主意書はいつ出されるか分かりません。迅速に対応するため、国会が開かれている間は、常に職員が待機しているんです。“解除命令”が出るのは夜になってから。待機は持ち回りになっていますが、担当になった日は本当にがっかりします」

【官僚の負担2】7日以内の答弁作成

次なる負担。それは、質問主意書に対する答弁は7日以内に作成すると定められていることだといいます。7日もあれば十分では?と思われるかもしれません。しかし、この答弁には、内閣全体の決定(閣議決定)が必要だというのです。

その流れを図にまとめてみました。
1省庁で答弁書作成
2関係省庁との協議
3内閣法制局による審査
4大臣までの決裁
5閣議決定

ここまでの作業を、土日祝日を含めて1週間で行わなければならないそうです。

しかも、閣議は原則火曜日と金曜日にしか開かれないため、実際には1週間もないケースが多いということです。

確かに結構タイトなスケジュールですよね。
(20代官僚)
「何段階もの決裁を数日の間に取らなければなりません。延期もできるのですが、その手続きも同じくらい大変なんです。それなら何とか頑張ったほうがましだという話になる。こうした手続きを少しでも緩和してもらえたらと思うですが…」

【官僚の負担3】書式も厳密で面倒…

この官僚がさらに負担だと指摘したのが、その答弁に使われる独特の書式。「青枠」と呼ばれるそうです。

閣議決定などの正式な文書は、原則として、この枠の中に書かれるそうですが、その際、枠から5ミリ以内に文字をそろえるという厳密なルールがあるといいます。

その作業の大変さをこう語ります。
「最初から青枠の中に書くのでなく、まずは普通の白い紙に印刷。それに青枠の紙を重ねて、5ミリ以内に収まっているか光に当てて透かして確認します。そうした作業を担当だけでなく、内閣の専門部署も繰り返し行うんです。5ミリ以内に収まっているかは定規で厳密に測ります。こうした作業を数時間かけて行うんです」
私は思わず「なんで、そのような細かいルールがあるのでしょうか?」と聞きました。すると、「私もわかりません。そのルールにどのような意味があるのかは不明ですが、ルール通りにやらないと受け取ってもらえないのです。そのため、おかしいとは思っていますが、体裁を整えるため、多大な時間を費やしているのが現状です」自嘲気味に話す姿が印象的でした。

これが答弁書です

こちらが苦労の末、作られた答弁書です。国会のホームページで、過去のものもすべて検索できます。さきほど紹介した2004年の社保庁問題の時は、少なくとも5回のやり取りを繰り返し、答弁書は合わせて160ページに上っていました。

なんと10倍近くに!

では、こうした質問主意書、いったい年間どのくらい提出されるのか、調べてみました。
1998年(平成10年)まではほぼ100件未満。その後、徐々に増えますが、それでも、200件台がほとんどです。それが、2006年(平成18年)以降、活用する議員が増え、2008年(平成20年)には1315件に!ここ数年は、当時より減ってはいるものの、それでも900件前後で推移していました。

皆さんはどう考えますか?

質問主意書、なかなか奥が深いです。取材した官僚たちの本音をある野党議員に伝えると、「質問主意書が官僚の負担になっていることは分かっているが、野党の武器は質問しかない。しかも口頭の質問時間は限られている。そのことを理解してほしい」と語りました。一方、ある与党議員の意見は、こうでした。「いちいち調べさせられて、たまらないという官僚の気持ちはよく分かる。ただし、野党の政治家は主意書がないと政府の政策を知る手段がない。交通整理は必要だろう」。この質問主意書の問題、まだ取材を続けたいと思いますが皆さんはどう思われますか?ぜひ、こちらまでご意見をお寄せください。https://www3.nhk.or.jp/news/special/kasumigaseki/