“自画撮り”性被害 取り返しがつかなくなる前に

“自画撮り”性被害 取り返しがつかなくなる前に
わたしは今まで、自分には悪いことは起きないと思っていた。

でも現実は違った。

過去に戻ることができれば、自分に言いたい。

『取り返しのつかないことになるよ』って。

夏休みを前に、親子で考えてほしいことがあります。

(ネットワーク報道部記者 田辺幹夫、野田綾、玉木香代子)

落ち込んでいるときに…

冒頭の言葉は、ドラマに登場するひとりの女子高校生が訴えかけたものです。

成績優秀な兄のいる家庭内で孤立していく女子高校生のひとみさん。

落ち込んでいるとき、SNSでつながった男性とスマートフォンでやりとりする中、一方的に裸の画像を送られ、「ひとみちゃんのも送ってよ」とお願いされます。
せがまれ、悩んだひとみさん。“誰にも見せない”“二人だけの秘密”。

こうしたやりとりを信じて、裸の画像を送ってしまいます。

後日、画像はネット上に拡散し、同級生達にも知られることになりひとみさんは、自分のとった行為を後悔します。

後を絶たない“自画撮り被害”

だまされたり、脅かされたりして子どもが自分の裸などを撮影し、メールなどで送らされる被害、「自画撮り被害」と呼ばれています。

子どもの情報セキュリティーに詳しい、民間企業「デジタルアーツ」が、ことし4月に行った調査では、驚きの実態が浮かび上がってきました。

調査では、携帯電話やスマホを持っている小・中・高校生とその保護者、あわせて1200人余りに、「自画撮り」の被害にあう危機感があるか質問。

その結果、「危機感がある」と答えたのは
▽保護者では2.8%
▽子どもでは6.3% にとどまりました。

いずれも9割以上に「危機感がない」ことがわかったのです。
一方で、被害にあいかねない事態も起きていました。

SNSでコミュニケーションをとっている女子高校生のうち

▽「顔や身体などの写っている写真や動画を送ってほしい」と言われた経験があったのは18.6%

▽「家族や知人などに相談できない内容の写真や動画を送信したり投稿した経験がある」と答えたのは7%でした。

また、ネット上の友達とリアルでも会うことを望んでいるのは、女子高校生では64.8%にも上っていたのです。
いまは、SNS上でハッシュタグ(#)を使えば、共通の趣味やアイドルのファンを探せるため、知らない人と簡単につながり、やりとりを交わすことができます。

調査を行った会社の担当者によりますと、そうしたネット上のやりとりの中で、実際は男性であっても女性を装って子どもたちとやりとりし、言葉巧みに「自画撮り」を送らせるケースもあるということです。

裸の画像求めるのは“禁止・罰金”

冒頭で紹介したのは、「自画撮り」のケースを紹介するために、東京都が作成したドラマです。東京都では、去年2月、「自画撮り被害」を防ぐための条例を全国に先駆けて施行しました。

18歳未満の子どもに裸の画像を送るよう求める行為を禁止。違反した場合は30万円以下の罰金が科されます。
都はネット環境に詳しい専門家に協力してもらい、小・中学校や高校で、ネットを適切に利用するための講座を開いています。

その数は年間およそ600回。特に子どもたちが夏休みに入るこの時期は、注意を促したいという学校側からの要望が増えるといいます。

早めの相談を!

ここで強く訴えかけるのは、安易に自画撮りのデータを「送信してはいけない」ということ。

とはいっても、「相手との今までの関係を壊したくない…」と、子どもにとってはさまざまな不安が募るかもしれません。
そこで東京都は、『こたエール』という相談窓口を設けました。

子どもだけでなく、保護者もトラブルや困りごとについて電話やメール、LINEを通じて無料で相談できます。

ネットに詳しい相談員がケースに応じてアドバイスし秘密は守られます。

どこに住んでいても

「東京の話でしょ?うちの子は関係ない」と安心はできません。SNSを使えば、どこでも相手とつながることができます。

たとえば、埼玉ではどうなのでしょうか。
埼玉県警察本部のまとめによりますと、平成29年(2017年)に県内で児童ポルノの被害にあった子どもは93人。このうち、「自画撮り被害」は34人と全体の40%近くを占めて最も多く、内訳をみると、中学生が18人、高校生が14人。小学生も2人いました。

親にも友だちにも相談できない悩みなどをSNSで知り合った人に相談した結果、精神的に「依存」してしまい、被害につながるケースが目立つということです。

埼玉県警察本部少年課の野口仁邦次席は「多感な思春期の子どもの心に言葉巧みに入り込み、すっかり信用させて、写真を送らせることを『断れない雰囲気』を作る手口だ。中学生の被害がやや多い事を見ると、判断が未熟で純粋な子どもにつけ込み、被害が増えてしまっていると考えられる」と話しています。

被害にあってしまったら

では、実際に被害にあってしまったらどうすればいいのでしょうか。

まずは、最寄りの警察署に相談しましょう。

「直接行くのはちょっと…」という場合には、警察の電話相談を利用できます。全国どこからでも「#8103(ハートさん)」とダイヤルすると、各都道府県警察の性犯罪被害相談電話窓口につながります。

どのような被害にあったのかを伝えたうえで、被害届を提出する場合は、手続きをしやすいよう、担当者に取り次いでもらえます。必要に応じて、弁護士や心のケアを行う性犯罪被害者の支援団体などを紹介しているということです。

身の危険を感じるなど緊急を要する場合は110番通報してほしいとしています。

一方、真っ先に行いたい「ネット上に出回ってしまった裸の画像・動画の削除」については対応していません。

画像・動画を削除するには

裸の画像や動画の削除は、ネット上のトラブルに対応する団体に依頼することができます。
「一般社団法人セーファーインターネット協会」では、自分の裸の写真や動画が掲載されているサイトのURLを通報すれば、サイトの運営者に対し、削除するよう連絡をとる対応を行っています。

通報は匿名で行うことができ、通報を受けた協会の担当者が同じデータが掲載されているサイトを海外も含めて探し、サイト運営者に削除を要請する仕組みです。

サイト側は多くの場合、データを消すということですが、時間がたって拡散してしまうとすべてのサイトから消すことができない場合もあるということで、担当者は、「通報は匿名で行えるので、自画撮りの写真や動画がネット上に流出していることがわかったら、被害が広がる前に、ためらわず、すぐに通報してほしい」と話しています。

被害にあわない方法は ~ 子どもに伝えよう

そして、何よりも子どもが自画撮りの被害にあわないために、いったい、どうしたらいいのでしょうか。

インターネットの安全な使い方について、子どもに向けた講演を数多く行っている「グリー」の小木曽健さんは、「保護者がこどもたちに、単に『~してはダメ』と頭ごなしに伝えることは意味がない。『こういう危ないことが起きている』と具体的に伝えることが大切です」と指摘しています。

例えば、彼氏から裸の写真を要求されるケースでは、「自分だけしか見ない」と言われて送った写真を、友達に『自慢』するためにグループチャットに送り、そこから拡散するケースが全国でたくさん起きているということです。

もし、そういう要求をされたら、「その彼氏は、危機管理の能力が低く、あなたのことも大事にしていないのと同じことだよ」と伝えることが大切だといいます。

また、そもそも自分の裸を撮影してスマートフォンの中に保存しておくだけでもリスクになるそうです。

スマホを落としたり盗まれたりした場合、データを消したつもりでも消えておらず、裸のデータが他人の手に渡ることも起きるため、「『裸の写真をポケットに入れて持ち歩いているのと同じことだよ』と伝えるのがいいのではないか」と、小木曽さんは言います。

さらに、女性を装ったり共通の趣味をアピールしたりして、自画撮りを目的に近づいてくる人物が、▽数か月から1年以上やりとりを行うなど長期間かけて徐々に信用させるケースや、▽裸の写真を送らせたあと、同じ人物が警察を装って「違法行為を行っている」と脅し、本人を呼び出してさらに被害にあうケースも起きていて、こうした実情を子どもたちに知らせることも大切だとしています。

全国を回って講演を行っている小木曽さんが心配しているのは、すでに裸の画像を送るなど弱みを握られているケースがたくさん起きているにも関わらず、表に出てくるのはごくわずかで氷山の一角だということです。
「こうした弱みを握って何かを要求する行為は、『脅迫』に該当する可能性が高く、逆に警察も動きやすくなる。いま悩んでいる人はまずは匿名でも相談できるので近くの警察に相談してほしい」(グリー・小木曽さん)
期待を膨らませて迎える夏休み。たった1枚の画像が人生を狂わせる事態を招く前に、自分や家族の身を守るすべを今から考えてみませんか。