受注・発注のムダなくします

受注・発注のムダなくします
さまざまな業界に急激な変革をもたらしているAIなどのテクノロジー。今、日本のものづくりの長年の慣習にも変化を及ぼそうとしている。その慣習とは、メーカーと下請けの間の部品の受発注。挑むのは、20代の若者が引っ張るITベンチャーだ。(経済部記者 野上大輔)

異色の2人が挑む

東京 台東区にあるベンチャー企業「キャディ」。ソフトウエアのエンジニアが社員の大半を占めるITベンチャーだが、事業領域はITベンチャーにしては珍しく「ものづくり」の分野だ。

加藤勇志郎CEO(28)はマッキンゼー出身。コンサルタントとして製造業の経営サポートをしていた。

一方、共に起業した大学時代からの友人、小橋昭文CTO(29)はアップルのアメリカ本社で勤務した経験を持つ。iPhoneやワイヤレスイヤホンの開発などを手がけるエンジニアだった。

2人がそれまでのキャリアを通じて感じていたのが、製造業が抱える共通課題。すなわち、数百点から数万点とも言われる部品の製造をどこに依頼するのか、その判断に多くの時間とお金をかけているということだ。

製造業は売り上げが多いが、そのうちの大半が部品の調達コスト。この調達の分野にITによる変革のチャンスがあると考えたのだ。
「自動車メーカーであれ電機メーカーであれ、最終製品の組み立てをやっているメーカーは、細かい部品を外注して組み立てる構造を持っています。どのメーカーも売り上げの6割から7割くらいが部品の調達コストと言われていますが、半世紀近くテクノロジーによる変革が起きていないんです」

AIが見積もり

そこで開発したのがAIを活用した製造業向けの受発注のプラットフォームだ。
メーカーと下請けの工場をマッチングするこのシステム。まず、部品を発注したいメーカーが、サイト上にほしい部品の設計図面をアップロードする。するとAIが数秒で見積もり価格をはじき出し、その部品づくりに最適な工場を自動で見つけてくれ、手軽に発注まで済ませられる。

一般的に、メーカーは複数の工場に部品の見積もりを頼む「相見積もり」を取るのに時間をかけている。この手間がなくなるため、発注するメーカーにとって、平均で3割のコストダウンが実現できているという。
AIが分析するのは工場ごとに集められた500項目以上のリスト。工場が扱える金属の素材や製品のサイズ、どういった生産設備を持っているのかが数値化され、データとして入力されている。

このデータをもとに、発注のあった部品をどの工場が扱えるのか、素材や作業工程などの組み合わせを分析。1つの部品をつくるのにどれくらいの時間がかかるか、いくらでつくれるのか、計算して見積もりを出す。

下請け1社を選び出すこともあれば、加工や塗装など、作業ごとに複数の会社を選び出して“サプライチェーン”をつくりあげることもある。
「切る、曲げる、溶接などいろいろな工程を因数分解して、最適な組み合わせのサプライチェーンを探し出します。そして、どの会社がいちばん効率的にできるか、計算するアルゴリズムになっています。メーカーからすれば、設計図1枚あれば、ネット通販で買い物するような感覚で調達ができます」(加藤CEO)

仕事を持ってくる“営業マン”にも

発注を受ける工場のほうはどうなのだろうか。川崎市にある創業49年の町工場、樋口製作所。従業員5人で、照明器具に使われる部品の金属加工をしているが、これまで取引先は国内の照明器具メーカー2社にかぎられ、決まった得意先からの発注に会社の経営は左右されてきた。今ではAIを通した新規の注文が4割を占めるまでになっている。
「メーカーから見積もりが来ると試作品をつくるのに最低2週間かかります。さらに、見積もりから実際に注文に結び付く製品は1割程度でした」
手間が省けるうえ、自社の設備に向かない注文は断れることもメリットだという。AIは、仕事を持ってくる“営業マン”のようになっているのだ。

ものづくりで存在感を

キャディを利用するメーカーは、現在、電機や航空関連など発注側だけで3500社。今後は、町工場向けの融資や物流の支援など、事業を広げる計画だ。

2年後の2021年中に、受発注の領域でアジアナンバー1の取り扱い量になることを目標に掲げる。目指すのは、ものづくり界の「アマゾン」だ。

ネットビジネスでは、これまで、SNSや検索エンジンに代表されるように広告で利益をあげる会社が成長し、ネット通販の企業が小売業を革新してきた。

しかし、日本企業が得意としてきた製造業の分野では、AIを活用した巨大IT企業はまだ誕生していない。未開拓の分野で存在感を示せるのか、日本発のベンチャーが挑戦を続ける。
経済部記者
野上大輔
平成22年入局
金沢局をへて
現在、経済部で
情報通信業界を担当