株主が社長を選んだって本当?

株主が社長を選んだって本当?
6月末にピークを迎えた令和初めての株主総会。いつもは注目されないのに、ことしは目立った会社があります。大手住宅設備メーカーの「LIXILグループ」です。なぜ注目されたかというと、株主の意思表示が、取締役の選任や新しい社長の選出につながったからです。(経済部記者 木下健)

突然のCEO交代が発端

大手住宅設備メーカーのトステムとINAXが統合し、2004年にできた「住生活グループ」を前身とするLIXILグループ。経営の混乱が表面化したのは去年10月の記者会見です。

当時CEOだった瀬戸欣哉氏が退任し、旧トステムの創業家出身の潮田洋一郎氏がCEOになることが突然、発表されたのです。瀬戸氏は、住友商事出身。工業用資材の通信販売会社の会長から、2016年に社長として招かれたいわゆる「プロ経営者」でした。

わずか2年余りの突然の退任でしたが、会見には瀬戸氏も同席し、一見、納得したうえでの退任かと思われました。

しかし、ことし4月、瀬戸氏は態度を一変させます。退任の手続きが不透明だったとして、みずからを含む8人の取締役候補者を独自にまとめ、6月の定時株主総会で株主提案を行うと表明しました。

瀬戸氏は、退任のいきさつについて、こう主帳しました。
「去年10月、イタリアで休暇中に潮田氏から電話があり、辞めてほしいと言われた。私が辞意を示したとされているが、辞めたいと言ったことはなく晴天のへきれきだった」

対立が激化

これに対して潮田氏は4月、決算が最終赤字に転落する見通しになったことを発表した記者会見で、業績の悪化を招いた瀬戸氏を任命した責任を取る必要があるなどとして、株主総会後にすべての職を退任すると表明します。
その後、会社側は11人いるすべての取締役を候補者から外し、従来の体制を一新。創業家出身の潮田氏の影響力を排除するため、新たな10人の候補者のうち、9人を社外取締役とする提案をまとめます。瀬戸氏とは異なる提案となったため、株主総会に向けて対立は激しさを増していきました。

5時間近くにおよぶ異例の株主総会

そして、迎えた6月25日、株主総会当日。例年の3倍以上となる、629人の株主が会場に集まります。
午前11時に始まった株主総会は、取締役選任についての3つの議案の説明のほか、株主からの質問が行われました。そして質問が午後1時半前に終わると、出席した株主に、個々の候補者について選任するかどうかマークシートに賛否を記入してもらう方式で採決が行われました。

集計に時間がかかり、結果が発表されたのは午後3時40分。総会が始まってから5時間近くがたっていました。

賛否を分けたのは「助言会社」

採決の結果、16人の候補者のうち、会社側提案の6人、瀬戸氏側提案の6人、双方の提案の2人が選ばれました。会社側の提案の一部が否決されるという異例の結果でした。

双方が提案した鈴木氏と鬼丸氏の2人は、瀬戸氏を支持することを事前に表明していたため、取締役会の過半数を瀬戸氏側が占めることになりました。

これを受け、総会後の取締役会で瀬戸氏がCEOに復帰することが決ったのです。
会社が公表した取締役選任の賛成比率では、CEOに復帰した瀬戸氏は53.71%と、選任に必要な過半数の賛成をわずかに上回る水準でした。このほか、50%台にとどまったのが11人、60%台が1人でした。

一方、会社側と瀬戸氏側の双方の提案で候補となった2人については、90%を超える高い賛成比率でした。新たな経営体制を巡り、瀬戸氏側と会社側が激しく対立するなかで、株主の判断が分かれる形となったのです。

選ばれなかった2人の賛成比率は44%。勝敗を分けたのは何か。それは、海外の議決権行使の助言会社の影響です。議決権行使の助言会社は、企業の株主総会の議案を分析し、賛成すべきか反対すべきかを投資家にアドバイスしていて、海外の機関投資家に大きな影響を与えています。

世界最大手の助言会社ISSは、今回選ばれなかった2人の候補者については、「会社と取引関係がある金融機関出身のため独立性に問題がある」として反対を推奨していたのです。

実は、瀬戸氏側の候補も8人中4人が反対の推奨を受けていました。しかし、個別に機関投資家からの支持を集め、逆境をはねのける結果になりました。

瀬戸氏に聞く

再びCEOに返り咲いた瀬戸氏が、NHKのインタビューに答えました。
ーーー株主総会を終えての感想は?

(瀬戸氏)結構長い戦いだったので、感慨深いものがありました。従業員とかが応援してくれる中で、僕が負けると立場がまずいだろう。LIXILの代理店の方で賛成表明した人もいて、いろいろ考えるとこれは負けるといろんな人に迷惑をかけるなと思ったので、終わったときには、ほっとしたっていうのが、正直なところです。

ーーー53%余りとなったご自身の取締役選任の賛成比率については?

(瀬戸氏)まず謙虚でなくちゃいけないと思います。もちろんその助言会社の影響とか、会社の戦略の影響とかもあるけど、一定の人たちは瀬戸では不安だと思った。会社の候補者も入ったということは監視してほしいというメッセージだと思う。

ーーー今後、株主提案の候補者が社長に選ばれるようなことが続くと思いますか?

(瀬戸氏)かなり困難だと思います。結局、個人対会社っていう戦いは、会社側が持っているリソースはすごくありますし、個人じゃ使えるお金も限られてます。

それから、お金だけの問題じゃなくて、いろんな機関投資家に対するアクセスであったりと、個人では難しい状況だと思います。

ただ、唯一言えることは、企業が緊張感を持って経営しなくてはいけない度合いは確実に上がったということ。企業がおかしいことをして、こういうことになったから、私は勝ったと思う。企業は外部から厳しい視線を向けられていることを考えなくてはいけない。もしかしたら、日本の企業が変わるきっかけになる可能性があると思うんです。

変わる株主総会

今回の株主総会では、これまで水面下で決まることが多かった取締役が、株主の意思によって総会で決まり、新しい社長の選出にもつながりました。またその株主の選択には、議決権行使の助言会社が影響を与えることも、多くの人に知らしめました。

企業統治などに詳しい久保利英明弁護士は、画期的な株主総会だったと評価しました。
「日本は長年、創業家が日本企業の中心にいたが、その力が非常に弱くなり、どの経営者がしっかり株主の価値を守ってくれるのかを冷静に判断をする大きな流れが固まった事件だ」
これまでは“しゃんしゃん総会”も多くありましたが、企業の経営がおかしいと判断されれば、株主総会で株主からNOを突きつけられる時代になってきていると言えます。企業は、一般の株主の声と真剣に向き合っていくことが求められていると感じました。
経済部記者
木下 健
平成20年入局
さいたま局、 山口局岩国報道室などを経て
現在 国土交通省を担当