WEB特集

「俺の愛人になれ」ニッポンの現実 外国人技能実習生の悲鳴

日本に来る前「とてもいい人」と聞いていた社長は、実際に働いてみると小遣いを渡す代わりに愛人になるよう迫ってきました。断っても足やおしりを触られ、ただただ恐怖でしかありませんでした。ふるさとのベトナムに逃げたいと思っても、パスポートも通帳も会社に取り上げられ、逃げることはできませんでした。彼女は、憧れていた日本を「もう嫌いになりました」と漏らしました。(青森放送局記者 吉元明訓)

病気の父に代わって家計を支えるため

ベトナムの小さな村で生まれた20代の彼女。

大きな瞳が特徴的な女性で、15歳から始めた縫製の技術を生かそうと、3年前、外国人技能実習生として来日しました。

外国人技能実習制度は働きながら日本の技術を学ぶのが目的ですが、事実上、人手不足に苦しむ日本国内の労働力の供給源となっていて、問題点も指摘されています。

そんな事情は知らず彼女が日本行きを決めたのは、病気で働くことのできない父親に代わり、家計を支えるためです。

月給の25倍の借金をして来日

借金して支払った保証金の記録(画像は加工しています)
日本に行くために、ベトナムの送り出し機関から要求されたのは、日本円にして100万円。

手数料や日本語の教育費だけでなく、このうちの30万円は「保証金」だと言われました。出入国在留管理庁や支援団体に話を聞くと、こうした「保証金」は省令で禁止されているにもかかわらず、失踪を防ぐためなどの名目で実習生に請求されることが少なくないといいます。

でも、彼女には詳しい説明はありませんでした。

当時の月給は4万円。
その25倍もの費用を賄うことはできず、日本で支払われる給与から返済するということにして、借金を抱えたまま来日しました。

パスポートも通帳も取り上げられた

それでも日本で働くことに期待を抱いていた彼女ですが、その期待は実習先の会社であっという間に打ち砕かれました。
「あなたたちが逃亡したら、会社が損をする。だから皆さんから20万円預かります」
会社の役員は、実習生たちを前にこう伝え、彼女たちの給料の一部は強制的に会社側が預かることになりました。

それだけでなく、パスポートも通帳も取り上げられてしまいました。

当然、こうした行為は、労働基準法や技能実習生の保護に関する法律で禁止されています。彼女たちは、事実上、軟禁されたも同じでした。

愛人になれ

「俺の彼女になれ」会社の社長が突然言ってきました。

彼女に小遣いを渡す代わりに愛人になるよう迫ってきたのです。

「嫌です」と断ると社長は怒りました。

それにもかかわらず社長は彼女の足やおしりを触り続けるようになり、ただただ恐怖でしかありませんでした

愛人になるのを断った腹いせかはわかりませんが、残業をさせてもらえなくなったともいいます。

給料が減ってしまうので、会社側に理由を尋ねると、逆に社長や役員から叱責を受けました。

「あなたの態度は会社として許せない」
「でも」と口に出すと、「でもじゃないよ!」とどなりつけられ、それ以上何も言えませんでした。

弟の葬儀に参列しようとしたら…

それでも我慢して働いていたある日、20代の弟が事故で亡くなったとベトナムから連絡がありました。

「ベトナムに一時帰国して葬儀に参列したい」と会社側に申し出ました。

しかし、会社からは1枚の紙を渡されました。
その紙にはこう書いてありました。
「あなたは会社の規則等を守らず自分勝手な行動をしたため、解雇いたします」
解雇通知書でした。

「ここから逃げたい」
彼女は、友人を通じて技能実習生の支援団体にたどりつき、ほかの会社に移ることができました。

実習先の会社を取材したところ、すでに社長は別の人に代わっていました。

そして、給料の一部を強制的に預かったり、パスポートや通帳を取り上げたりした行為について、現在の社長は、次のように話しています。
「最近、外国人技能実習生が仕事から逃げて姿を消すケースが相次いでいるという話を他の業者などから聞き、違法だと知りながらやっていた。深く反省している」

日本を嫌いになりました

私が取材させてもらった時、彼女は3年の実習期間をまもなく終えて、ベトナムに帰るころでした。

彼女が同僚と一緒に住んでいたのは、家賃が月2万円のアパート。

ベトナムの家族を少しでも楽にしてあげたい、その思いから、給料の半分以上を仕送りに充てていると話していました。

生活を切り詰めているため、部屋の中には日本語の教材以外、目立つものはありませんでした。

会社が給料やパスポートを預かっていたため逃げたくても逃げられず、ほかのベトナム人と話せないように孤立させられ、頼る人も1人もいなかった。

そんな日本の生活を振り返って彼女は次のように漏らしました。
「日本に来る前は、日本に対していいイメージを抱いていました。でも仕事をして、周りは悪い人たちばかりで、孤独にさせられ、イメージは悪くなりました。もう、日本を嫌いになりました」

取材を終えて

彼女のようなケースは決して特殊なケースではありません。

厚生労働省が調査したところ、技能実習生を受け入れている事業所のおよそ7割で、残業代の未払いや長時間労働といった法令違反が見つかったといいます。

外国人材の受け入れをさらに拡大するための法律が成立し、外国人は日本の人手不足を補う人材として期待されています。

しかし「労働力」として彼ら彼女たちを求めておきながら、受け入れる側の態勢はどうなのでしょうか?

彼ら彼女たちは「労働力」である以前に、同じ「人間」。
そんな当たり前のところから考えていく必要があるのかもしれません。
青森放送局記者
吉元明訓

特集

データを読み込み中...
データの読み込みに失敗しました。