ヨーロッパ派、アメリカ派 あなたはどっち?

ヨーロッパ派、アメリカ派 あなたはどっち?
「おぉ!遂に!エアバスが!A350が!」
「日本とアメリカの技術と絆が産み出したボーイングこそが最高の飛行機だ」

ある飛行機が導入されて以降、ひそかにネット上で熱い議論が繰り広げられています。アメリカ製とヨーロッパ製、どっち派か? 日本の空は長年、アメリカの航空機メーカーによるほぼ独占状態が続いてきましたが、最近、ヨーロッパの航空機メーカーが受注を増やしてきているんです。いったい、日本の空で何が起きているのか? 「飛行機なんて興味がない」というあなた。このディープな世界に触れると、空の旅が少しだけ楽しくなるかもしれません。(社会部記者 今村清人 渡辺謙)

日本の空に激震

「350かっこよすぎます。日本の翼を支えていってもらいたい」 
「JALがエアバスを買うことは大きなインパクト」
6月14日。羽田空港にヨーロッパの航空機メーカー、エアバスの最新鋭機が到着すると、SNSに書き込みが相次ぎました。ボーイング(アメリカ製)かエアバス(ヨーロッパ製)か。それぞれのファンとみられる人たちによる激しい議論までー。

実は、ヨーロッパ製の最新鋭機の導入は、熱狂的な飛行機ファンのみならず、日本の航空業界にとっても、ちょっとした事件とも言える出来事なのです。

そもそも航空業界では、アメリカのボーイングとヨーロッパのエアバスの大手2社が、世界中で激しい受注競争を繰り広げています。でも日本は、長年、ボーイングなどのアメリカ製の飛行機による独占ともいえる状態が続く、世界的にも珍しい市場でした。
今回、ヨーロッパ製の最新鋭機の導入を決めたのは日本航空。言わずと知れた、日本の航空会社の草分け的な存在ですが、実は、エアバス機(ヨーロッパ製)を導入するのは、経営統合した旧日本エアシステムのものを除いて、今回が初めて。しかも、小型機ではなく、大型の主力機の後継機として、31機の導入を決めるというのは、まさにちょっとした事件といっても過言ではないのです。

アメリカ1強の歴史 日本の空

そもそも戦後の日本の飛行機の歴史をひもとくと、日本では、長年、ボーイングなどアメリカ製の飛行機を主力機として使ってきた歴史があります。

日本は太平洋戦争で敗戦国となり、連合国軍総司令部=GHQから航空機の製造などを禁止されました。戦後、昭和27年に、日本航空が自主運航を再開した際も、アメリカ製などのプロペラ機が使われました。そして昭和35年に、日本航空がはじめてのジェット機ダグラスDC8型機の運航を始めるとアメリカ製の飛行機が日本の空を席けんします。
田中角栄元首相が逮捕された「ロッキード事件」。これもロッキード社が開発したアメリカ製の飛行機、トライスターの売り込みをめぐるものでした。
そして、「ジャンボ」の愛称で親しまれたボーイング747型機。ジェット機による大量輸送時代をささえました。
現在でも日本の大手、全日空と日本航空の主力機は、ボーイング777型機と787型機で、昔も今も、日本の主力機といえばアメリカ製という状況なのです。

なぜボーイング1強?

ではなぜ、日本では長らくボーイングなどアメリカ製によるほぼ独占に近い状態が続いたのでしょうか? ある航空関係者に聞いてみると「違い」の影響を指摘しています。飛行機は、一見、「違い」はわかりにくいのですが、実は、ボーイング機(アメリカ製)とエアバス機(ヨーロッパ製)では、多くの「違い」があります。
その1つが、コックピットの「操縦かん」。ボーイング機にはありますが、エアバス機には「操縦かん」はありません。「サイドスティック」と呼ばれる棒状のレバーがあり、これで操縦します。

このほかにも、システムの設計思想からコックピットのスイッチの上げ・下げの仕様まで、「違い」は多岐にわたるといいます。

実際に長年、ボーイング機に乗ってきた50代の機長は、はじめてエアバス機を体験したときのことを、次のように話しています。
「衝撃的で、大きな違いに最初は戸惑った。慣れ親しんだボーイングはいったん忘れて、エアバス色に染まろうと考えていく必要がある」
パイロットだけでなく、客室乗務員や整備士などの現場でも、さまざまなこうした「違い」があり、会社側にとっても、機体の切り替えの際には、移行訓練のための多くの時間や費用などが必要になり、慎重にならざるをえないといいます。

なぜJALがエアバス

それでもなぜ、日本航空は主力機にエアバス機を採用したのでしょうか。取材を進めると、あるキーマンの姿が浮かび上がってきました。それは京セラの創業者・稲盛和夫氏です。

稲盛氏は9年前、経営破たんした日本航空の会長に就任しました。再建にあたって稲盛氏は、「比較していい物を安く買う」という考え方を社内に徹底したといいます。こうした中で稲盛氏は、日本航空の飛行機が、ボーイングばかりだったことに疑問を抱いたといいます。機材の選定に携わったA350導入準備室の木村卓爾室長は、当時を振り返り次のように話してくれました。
「いままでボーイング機しか保有していないから、ボーイングを検討するというのではなく、きちんとエアバス機も検討して、『比較してよいものを安く買おう』という考えでした。稲盛会長からの直接の指示はありませんでしたが、常にそういうことを言われていたので、当然、われわれはそういう意識になっていました。経営破たんをして、いままでやってきたことは常に正しいと思ってはいけない、ゼロリセットというイメージでした」

千載一遇のチャンス

「固く閉ざされた門戸が、開くかもしれない」
エアバスを知る関係者も当時をこう振り返ります。かつては、日本航空とボーイングの間に入り込む余地すらなく、どんなにセールスをかけても、全く見込みはなかったといいます。
そんな中での稲盛氏の会長就任。エアバス側は、「千載一遇のチャンス」ととらえ、トップセールスなどで攻勢をかけ続けたといいます。そして、決して崩すことができなかった、ボーイングの牙城の一角を切り崩すことに成功したのです。エアバスは、2010年ごろには一桁台だった日本でのシェアは、今後、数年以内に、30%に達すると見込んでいて、将来的には50%のシェアを目指すと意気込んでいます。

反転攻勢 危機感強めるボーイング

一方、牙城を切り崩されたボーイングもだまってはいません。その後、全日空から主力機や小型機の後継機の選定を次々と勝ち取りました。全日空の機体選定に携わる担当者はボーイング機を選定した理由を次のように話しています。
「今後、国際線を重視していく中でボーイング機は、われわれのニーズにマッチしていた。さらに、ボーイングが、エアバスと競合する中で、よりよい条件を提示した」
国内のジェット機の登録数によると、去年の時点で、ボーイングが70%に対し、エアバスが15%。どうやら、まだまだ日本ではボーイング優位の状況は揺るぎそうになく、エアバスが急激にシェアを伸ばすというのも、そう簡単なことではなさそうです。

価格競争激化でチケットも??

ただ、ある航空関係者は、日本航空がエアバス機を発注して以降、ボーイングはあきらかに危機感を強めていて、日本の航空会社にとってはいい影響が出始めていると、本音を明かしてくれました。
「かつて、日本の航空会社はカタログ価格に近い値段でボーイングなどから航空機を購入してきたこともあると聞く。それが最近、エアバスとの競争が激しくなってきていて、以前とは比べ物にならないくらい価格が下がっている。ボーイングとエアバスの競争は日本の航空業界にとっては非常に喜ばしいこと」
そして、最後にこんなこともー。
「あくまでも可能性の話だが、ボーイングとエアバスの競争が激化し、飛行機の購入価格が下がっていけば、ひょっとすると、航空チケットの価格が下がるなどお客さまへの還元ができるかもしれない」
「飛行機なんて興味がない」というあなた。ボーイングとエアバスのシェア争い、少しは興味出てきましたか?