人口の220倍の人が来た! 丘のまちの“観光公害”とは?

人口の220倍の人が来た! 丘のまちの“観光公害”とは?
「オーバーツーリズム」という言葉、このところ、耳にする機会が増えています。

去年1年間に国内を訪れた外国人旅行者は過去最高の3119万人。観光地にとってはありがたいお客様ですが、習慣やルールの違いが原因で地元住民との間で軋轢が生じ、問題となるケースが増えています。こうした状況がオーバーツーリズム、観光公害とまで言われているのです。

北海道美瑛町では、観光客が記念撮影しようと畑の中に無断で立ち入り、問題となっています。観光、農業、双方がうまく共存していく方策はないものか。苦悩する町の現状を報告します。(旭川放送局記者 山田裕規)

風光明美な“丘のまち”

北海道の中心部に位置する美瑛町。
なだらかな丘が連なる美しい景色で知られます。
晴れた日には遠く大雪山系の山々も望め、まるで絵画のような光景が広がります。

人口1万人ののどかな町ですが、昨年度訪れた観光客は226万人。近年は、韓国や中国などアジアの国々の旅行者にも人気で、観光シーズンの夏から秋にかけては何台もの大型観光バスが行き交うことも珍しくありません。

“SNS映え”で農地に影響も

観光客の増加とともに目立ってきているのが、地元住民とのトラブルです。

取材の最中にも、道路の真ん中に座り込んで記念撮影していた観光客が、巡回中の観光協会の職員から注意を受けている場面に遭遇しました。
今から3年前にも、ショッキングなできごとがありました。

観光客に人気があった、畑の中に立つ大きなポプラの木。
この木の記念写真を撮ろうと畑に無断で立ち入る観光客が絶えないことを理由に、地元の農家の男性が、観光客のお目当てだったポプラの木を伐採してしまったのです。

長年親しまれてきたポプラの木を失うという結末は、多くの人に衝撃を持って受け止められるとともに、問題の深刻さを浮き彫りにしました。
こうした、丘の上に広がる畑など農地への無断での立ち入りは今も深刻です。

「SNS映え」をねらい、より印象的な写真を撮ろうと農地に入り、農家の人たちとトラブルになるほか、農作物が踏み荒らされることもあります。

最悪の場合、病害虫が観光客によって運び込まれる恐れもあります。雪の積もった冬でも、すでに種がまかれている場合もあり、影響は避けられないといいます。
38ヘクタールもの広大な畑で小麦や大豆などを育てている地元の若手農家、大西智貴さんに話を聞きました。

大西さんは「観光客の無断での立ち入りは大きなリスクで、農家にとってはストレスになっています」と話していました。

スマホで“共存”

とは言え、観光客の増加は町の経済にとっては重要。
観光客は「大切なお客様」です。

そこで、大西さんたち若手の農家のグループは、農家と観光客が共存できる良好な関係をめざして、ある立て看板を設置することにしました。

クラウドファンディングで資金を集め、立ち入り被害の特に多い町内3か所に看板を立てることにしています。
新たに設置する看板のイメージ
ポイントは、看板に付けられたQRコードです。スマートフォンで読み取ると、目の前にある畑の農家のサイトに移動します。そこには、どんな人が作物を作っているのかや、何を育てているのか、生育状況、どこで作物を買えるのかなどが分かるようになっています。

観光客に親近感を持ってもらい、畑への立ち入りを思いとどまってもらおうというのが、大西さんたちのねらいです。
サイトは、外国人向けに英語や中国語などにも対応したものにする予定で、大西さんは「観光客がいっぱい来たほうが農家も喜べる仕組みがあれば、よい方向に回るのではないかと思っています」と期待しています。

スマホで“通報”

共存を探る一方で、心ない観光客への「指導」や「通報」を強化しようという動きもあります。

観光を中心に地域作りをすすめる地元の団体「丘のまちびえいDMO」が、今月から始めた「観光マナー110番プロジェクト」。
こちらもスマートフォンを活用します。
畑の中に立ち入るなどのマナー違反を見つけた場合、その様子を、地元の人たちや別の観光客にスマートフォンで撮影してもらい、その画像を専用のウェブサイトに送信し、通報してもらいます。

通報を受けたDMOは、現場に職員を派遣して、画像をもとに該当者を指導するほか、通報の多い地点を重点的にパトロールすることにも生かしています。

さらに悪質な場合には、警察への通報も検討するということです。
丘のまちびえいDMOの佐竹正範さんは「みんなで一体となってマナーの啓発をしていく。観光客の方も含めて一緒に美瑛町を持続可能な観光地として残していくことにつながるとうれしいです」と話していました。

互いの立場を思うこと

美瑛町での観光客と地元住民との軋轢は、なかなか解決できない問題として、長い間関係者を悩ませています。

こうした中で始まった2つの新しい対策。
うまくいくのかどうかの鍵は、観光客と地元住民とが互いの立場を思い、理解し合えるかどうかにかかっていると思います。観光客はこの土地で暮らし生活する住民を思い、住民はこの土地に興味を持ち訪れた観光客を思う。互いに反発していては解決はおぼつかないのではないでしょうか。

夏の観光シーズンを迎えつつある美瑛町。
その取り組みの真価が問われる夏になりそうです。
旭川放送局記者
山田裕規
平成18年入局広島局、経済部などを経て
平成30年から旭川局