若手僧侶が挑む 寺の“経営”改革

若手僧侶が挑む 寺の“経営”改革
檀家の減少や、葬儀の簡略化などに伴って、経営の危機にひんしている寺が各地で増えています。過疎化が深刻な本州最北端の下北半島では、若手の僧侶たちが、“寺離れ”を防ごうとエネルギッシュに活動しています。実際に訪ねてみると、そこには驚きの光景が…(青森放送局むつ支局記者 佐野裕美江)

コースが設置されているのは…

「Ready Go!」
威勢のよい掛け声を合図に、響きわたるモーター音。一昔前、日本中の子どもたちが夢中になった「ミニ四駆」のレースが開かれています。

1周100メートル以上ある本格的なコースが設置されているのは、なんと、寺の大広間です。
本州最北端の下北半島。その最も西に位置する佐井村の長福寺、
独特の木彫りの仏像を数多く残したことで知られる江戸時代の僧、円空の作品とされる高さ1メートル81センチの仏像が残されており、地元では、ちょっと知られた寺です。

村の中心部からほど近く、行事を開くと、かつては、村中から参拝客が集まり本堂を埋め尽くしましたが、今、こうした光景が見られることはほとんどありません。

それもそのはず、檀家の7割以上が65歳以上で、村内には高校もありません。
長男として寺を継ぐため、去年の年末に仙台からふるさとに戻ってきた副住職の吉田眞永さん(27)は強い危機感を抱いたといいます。

世代を超えた交流の場に

若い世代の人たちとの接点を増やし、村の外からも人を呼び込むことが必要と考えた吉田さん。ほとんど使われる機会も無くなった寺の大広間を見て思いついたのが、かつて、みずからも夢中になった、「ミニ四駆」でした。

村の商工会の倉庫に眠っていたコースを借り受け、体験会を開催してツイッターに投稿したところ、じわじわと拡散。製造メーカーの公式ツイッターから、「これは新しい!『寺四駆』」と反応もあり、今では公式ガイドブックにも掲載されています。
吉田さんも、参戦しています。漫画の主人公が使用していた人気マシンにちなんで自作しました。津軽海峡の荒海や佐井村のマークを取り入れてデザインしたシールを貼るなど、全体に村をイメージした装飾をほどこしています。
今では、毎週、県内各地からミニ四駆ファンが訪れるイベントになりました。かつて、夢中になっていた大人たちが、その子どもや孫を連れて寺を訪れることで、世代や地域を超えた新たな交流が生まれています。
「誰もが気軽に足を運べる場にしたい。供養と遊びのメリハリをしっかりとつけながら、目の前のことに一生懸命になれる空間にしていきたい」

“マグロの町”の寺でも

こうした取り組みに呼応するように、マグロで知られる隣の大間町でも地域に開かれた寺づくりを進めている若手僧侶がいます。普賢院の院代の菊池雄大さん(29)です。
ことし4月にお寺を訪ねると、イベントが開催されていました。その名も「寺社フェス」。

境内にアップテンポのジャズが流れる中、さまざまな店を目当てにたくさんの若者たちが集まっていました。そこで売られていたのは…

チャーシューと豚そぼろで作られた「豚丼」ならぬ「ブッタ丼」やお釈迦様の螺髪をイメージした「仏ーキ(ほとけーき)」など、ユニークなネーミングの食べ物で、訪れた人たちも楽しみながら買い求めていました。

敷居を下げて楽しく学ぶ

本堂に入ると、仏教の教えに触れてもらうコーナーもちゃんとあります。特に興味をひいたのが、本物の棺に実際に入ってみる「納棺体験」。
死後の世界に思いをはせ、今を生きることの大切さを考えてもらうねらいです。

このほか「写経」や「座禅」を体験するコーナーもあり、はじめて、禅の世界に触れる若者や子どもたちの姿がありました。
「祭りとなると今まで行きづらかった寺が行きやすくなる。お寺での時間を楽しんでもらえるようなイベントを通じて、仏教の新たな布教の形を模索していきたい」

若い感性が寺を変える

当初は、私自身、こうした取り組みに多少の違和感を抱きましたし、実際に「神聖な場をけがしている」などといった批判の声も寄せられたということです。
しかし、現状に強い危機感を持ち、批判を覚悟のうえで、新しいチャレンジに乗り出した2人の若手僧侶の真剣な姿に心うたれました。2人は、互いの寺で行われる催しの準備を手伝うなど、協力して地域を盛り上げようとしています。

高齢化や少子化が進み、程度の差こそあれ、国内のほとんどの地域で同じような問題に直面しています。

「現状維持は衰退である」ということばもありますが、厳しい状況を変えていくためには、地域の人たちの情熱と周囲を巻き込んでいくための具体的な行動が必要だということを今回の取材を通じて感じました。
青森放送局むつ支局記者
佐野裕美江