「シェア」のルール ニッポン主導で世界標準に?

「シェア」のルール ニッポン主導で世界標準に?
フリマアプリや、カーシェアリング、民泊。個人や会社がモノやサービスを共有して利用する「シェアリングエコノミー」は、もはや当たり前のように身近になってきました。

ただ、シェアが本当に安全なのか、トラブルにならないのか、心配に思うこともありませんか?

そんなシェアリングエコノミーについて、世界で通用するルール作り、つまり「お墨付き」となる国際規格を作ろうという動きが、実は日本の主導で始まっています。

先日、関係国が集まる初めての会議が東京で開かれました。そこで交わされた議論とは? そして、日本のほかに主導権をねらう「あの国」の気になる動向とは。(経済部記者 加藤陽平)

なぜ規格が必要?

増加するシェアリングのサービス。

一方で、民泊をめぐる近隣住民とのトラブルはあとを絶ちません。アメリカではカーシェア事業者による個人情報漏えいのトラブルも。

中国では去年、ライドシェアのドライバーが、乗客を殺害する事件も起きました。見知らぬ人とモノや空間をシェアする「恐ろしさ」を印象づけるできごとです。
シェアリングエコノミーをめぐる気になるデータがあります。

去年、外資系の調査会社「PwCコンサルティング」が日本国内の2000人を対象に行ったアンケートの結果、シェアリングエコノミーを利用するメリットを聞くと「金銭的な節約」が最も多くなりました。
一方で、シェアリングエコノミーについて感じることとして「行政による規制やルールの整備・強化が必要」に「あてはまる」「ややあてはまる」と答えた人が半数以上の54%に。

安心して使えるサービスを見極めるために、一定の規制や基準を求める声が利用者の間で高まっているのかもしれません。同時に事業者にとっても、信頼を得られなければ市場の拡大は望めません。

目指すは最上位の国際規格

こうしたことを背景に始まっているのが、サービスの一定の基準となる規格を作ること。

実はこの動き、世界の中で日本が主導しています。
政府は2016年、仲介する事業者が順守すべき項目を定めたガイドラインを作成。2018年には、業界団体「シェアリングエコノミー協会」が、独自の認証制度を開始し、虚偽の情報の削除や、サービス提供者の本人確認の徹底などを事業者に求めています。
こうしたルールづくりは各国でも進み、国際的な統一規格が必要だという声が高まります。

日本の業界団体などの働きかけもあって、世界162か国が参加する団体「ISO」で国際規格を作ることが、ことし1月に決まり、日本は、その幹事国になりました。

ISOは数ある規格の中でも最上位にあるとされる国際規格。
ネジの寸法などモノに定めるものもあれば、形のないサービスにも設定されます。国際取り引きの条件に盛り込まれたり、法規制の中で引用されたりすることも多く、大きな影響力を持ちます。

“シェアで稼ぐ”をめぐり激論

この規格作りの初めての会議が、6月13日と14日、東京で開かれました。

アメリカ、中国、フランスなど8か国の政府や事業者の団体、国際的な消費者団体や労働組合から約30人が集まりました。

通常3年ほどかかる規格づくりの初会合。
まずは、各国の現状の紹介や意見交換がメインになりました。
会議は非公開でしたが、終了後、議論の内容を取材しました。
各国の意見で目立ったのは消費者保護の必要性について。

「プライバシーや個人情報をどう守るか」「何より身の安全を守ることが重要」「利用者と提供者が相互に評価する仕組みが必要だ」といった意見が出ました。

一方、すでにシェアリングがビジネスとして発達しているアメリカや中国からは、個人間でのシェアだけでなく、企業が個人にサービスやモノを提供するようなビジネスもシェアリングエコノミーとして「規格の中に定義すべき」という意見が出ました。

さらに、サービスを提供する「労働者」をめぐる議論もありました。欧州の労働組合からは「インターネットをベースに働く労働者であっても、1日当たりの労働時間を管理すべき」という意見が出た一方、アメリカからは「働く時間は、個々人が自由に決めればいい」という意見も。
日本でも今月、飲食店の配達を空き時間に代行する「ウーバーイーツ」で働く人の労働組合結成の動きが報じられたばかり。“シェアで稼ぐ”新たな労働者の働き方が議論されたことは、とても興味深い事実です。
日本の代表の1人として会議に出席した、シェアリングエコノミー協会の二宮秀彰さんは、「各国の間で、ルールの整備が必要だという問題意識はしっかり共有できた。日本がリードしながら、できるだけ早く規格化を実現したい」と話していました。

新領域めぐる主導権争いの行方は

ところで、1つ気になったことがあります。
この会議は、シェアリングエコノミーの規格作りの「主導権争いの場」でもあったのです。
会議の初日、各国代表が席に着く中、中国の代表団は開始時刻を過ぎても姿を見せず、8分ほど過ぎて、ようやく現れました。
遅れた理由は分かりませんが、代表団の人数は6人で日本に次ぐ多さ。しっかりと存在感を示していました。

事前に会議の幹事国を決める際、日本のほかに、実は中国も立候補していました。結局、これまでの実績が認められて日本が幹事国に選ばれましたが、議論をリードする上で重要なポジションをめぐり、まずは駆け引きがあった格好です。

今回は初回ということもあり、ひとまず「シェアリングエコノミーの定義と原則を決めるためのグループを設置する」ことで合意しました。

日本としては、もう一段踏み込んで、これまでイギリスと作ってきた日本発の規格を議論のベースにすることを目指しましたが、そこまでは至りませんでした。
かわりに、各国の既存のルールを調査するグループを作ることが決まりましたが、このリーダーは日本と中国が共同で務めることになったのです。

人々の暮らしを豊かにしてくれそうな新たな経済領域、シェアリングエコノミー。利用者が安心して利用できる規格になるのか、そして世界で統一のルール作りで日本が存在感を示すことができるのか。議論の行方に注目です。
経済部記者
加藤陽平
平成20年入局
富山局、千葉局などへて
現在は電機業界を担当