コーヒーに忍び寄る危機…歴史的な安値のウラ

コーヒーに忍び寄る危機…歴史的な安値のウラ
いまコーヒー豆の先物価格が歴史的な安値水準となっています。豆が安くなれば、この先コーヒーが安く飲めるようになるかと思いきや、今後長い目で見れば需給が逼迫し、価格が上昇するという見方が出ています。歴史的安値も、危機の前触れにすぎないかもしれないというのです。いったい、コーヒーに何が起きているのでしょうか?(経済部記者 新井俊毅)

最大産地で豊作

ニューヨークの先物市場で取引されているコーヒー豆。この市場でも取引量が多い主要銘柄の1つですが、今、ここで異変が起きています。レギュラーコーヒーに使われる「アラビカ種」の価格が、ことし4月中旬に1ポンド=86セント台前半まで下落し、実に13年半ぶりの安値水準となったのです。
コーヒー豆に何が起きているのか。
東京・港区のコーヒー専門商社「ワタル」で長年、相場の分析をしている小澤志朗さんをたずねました。小澤さんは足元の安値について、複数の原因が重なったためだと指摘します。
中でも大きな要因は世界最大の生産国・ブラジルです。ブラジルでは生産量が多い「表年」と、少ない「裏年」が交互に訪れる特徴がありますが、「表年」の昨シーズン(2018-19年)に、豊作が重なり生産量が大幅に増えたこと。そこに、通貨レアルのドルに対する下落傾向が加わったことで、価格競争力が出てブラジル産のコーヒー豆の輸出を後押ししたこと。

また、世界2位の生産国・ベトナムでも生産量が増えたことなどを要因として挙げています。

新興国に広がるコーヒー消費

足元で続く安値。コーヒー愛好者の私としても、安く飲めればうれしい限りですが、この状態は長くは続かないという指摘もあります。

生産量の伸びを上回るペースで、世界の消費量が伸びているためです。中国の沿岸部を中心にカフェでコーヒーを飲む文化が定着してきたことに加え、ASEANでも「スリー・イン・ワン」と呼ばれる、インスタントコーヒー、砂糖、粉ミルクをまとめた商品などの消費が増えているといいます。

小澤さんは「コーヒーは“贅沢品”で、かつて日本がそうだったように、中国を含むアジアでも、経済成長とともに消費量は当面伸びていくだろう」と予想しています。

再来年以降は豆が不足?

消費の増加でコーヒーの価格は今後どうなっていくのか。

もう1人のスペシャリストのもとを訪ねました。日本に輸入されるコーヒーの生豆のうち約30%を手がけている大手商社・丸紅で、コーヒーひと筋23年という梶原和幸 飲料原料部長です。

アメリカ農務省によると、2018ー19年の世界の生産量は約1億7450万袋(1袋=60キログラム)。それに対して、消費量は約1億6350万袋と、ブラジルの豊作などを背景に生産量が大きく上回るシーズンでした。

しかし梶原部長は、今後、需給関係が悪化し、場合によっては豆が不足する可能性もあると予想しています。
「最大の産地ブラジルで(生産量が増える)「表年」になる2020-21年に、消費と生産がおおむね一致する。ということは、消費が伸びていけば、それ以降はずっと豆が足りない状況になる。生産面で新たな生産地が開拓されたり、拡大余地があるアフリカで大増産が行われたりしない限り、数字の上では今から数年後に在庫が底をつくことになる」

需給逼迫で価格上昇も

世界的に需給が逼迫すれば、コーヒーの価格は上昇することが予想されます。業界関係者が「コーヒーを手軽に100円、200円で飲める先進国は少ない」と口をそろえるように、もともと日本は先進国の中ではコーヒーを比較的、安く飲める国です。

スイスの金融大手UBSが調べた世界主要都市でのコーヒーの平均価格では、東京は3.47ドル。1位のカタールの首都ドーハ(6.40ドル)や、2位のコペンハーゲン(6.24ドル)の半額程度で、パリ(4.13ドル)やロンドン(3.88ドル)などと比べても安価です。

こうした状況は、いつまでも続かないということなのでしょうか?

梶原部長は、先物価格の上昇が日本の小売価格にすぐさま反映されることはないものの、高止まりが続けば、徐々に値上げの動きも出るのではないかと予想しています。
「欧米であれば、取引価格で高値が続けば、半年くらいで小売価格もそれに追いついてくる。一方、日本に限っては小売業者が強いので、ただでさえ安いものが相場が下がると安くなり、上がった時には上がらないというのが実態だ。ただ、高値の状態が1年半以上続けば、さすがに小売価格を引き上げる動きも出てくるのではないか」

2050年 栽培適地が半減!?

コーヒー豆にとっては、地球温暖化も逆風です。
豆の栽培には、雨季と乾季がハッキリし、寒暖差がある土地が適しているとされていますが、国際的な研究機関「ワールド・コーヒー・リサーチ」によると、中南米やアフリカなど世界各地で温暖化による生産量の減少や豆の質の低下が起きると予想。2050年には、アラビカ種の栽培に適した土地が半減するという調査結果を出し、警鐘を鳴らしています。

こうした事態を見越して、各社の間では地球温暖化に対応した品種を育てようという動きが出てきています。

「スターバックスコーヒー」は、2013年に中米のコスタリカで自社農園を購入するなど、世界各地で気候変動に強い品種の研究を進めています。

また、国内大手の「キーコーヒー」も、インドネシアにある自社農園で世界各地から集めた苗木を育て、気候変動に強い品種の見極めを行っています。

世界中で飲まれるようになったコーヒー。将来も多くの人が手軽に楽しめるようにするには、すぐにでも安定的な生産に向けた取り組みを広げていくことが求められていると言えそうです。
経済部記者
新井俊毅
平成17年入局
北見局 札幌局をへて経済部
現在 商社・流通担当